コラム:衆院選圧勝の安倍首相、次の審判は「賃上げ」

コラム:衆院選圧勝の安倍首相、次の審判は「賃上げ」
 12月15日、衆院選で圧勝した安倍首相はアベノミクスへの信任を改めて得た格好だが、生産性の向上を通じた賃金上昇には改革が必要であり、それは一筋縄ではいかない問題だ。写真は14日撮影(2014年 ロイター/Issei Kato)
Andy Mukherjee
[シンガポール 15日 ロイター] - 衆議院選挙で圧勝し、議席の過半数を維持した安倍晋三首相は、アベノミクスへの信任を改めて得た。とはいえ、安倍首相と連立与党は金融緩和のみで賃上げとデフレ脱却などの約束を守ることはできない。生産性の向上を通じた賃金上昇には改革が必要であり、それには時間がかかるかもしれない。
14日実施された衆院選で自民、公明の連立与党は、全475議席のうち326議席を獲得。参院で否決された法案を再可決できる3分の2以上の議席を維持した。しかし投票率は低く、単純にアベノミクスに対する支持拡大だと見なすには難がある。
今後は、実質賃金の上昇が不可欠だ。実質賃金は16カ月連続でマイナスとなっているが、それに歯止めをかけるには2つの方法がある。物価が下落するか、もしくは日本国内での投資が増えるかだ。
前者は安倍首相が掲げるデフレ脱却には大きな妨げとなる。故に、安倍政権は後者に集中する必要があるだろう。農産物への関税引き下げや移民政策の緩和、株主配当の増加を企業に促すなど、改革のスピードを速める必要がある。そのときに初めて、企業は円安を受けて国内に投資するようになるだろう。
まず、安倍政権にはより差し迫った目標がある。リセッション(景気後退)からの脱却だ。そのためには、4月の消費増税以降に暮らし向きが悪くなったと感じている家計を商品券配布で支援するなど、短期的な対策が必要になるかもしれない。
消費再増税は18カ月延期されたが、そうした「気前の良さ」は2015年度予算を圧迫することになるだろう。政府債務残高が対国内総生産(GDP)比245%に膨れ上がるなか、中期的に財政赤字を減らせると日本銀行を説得するのに安倍首相は苦労するだろう。
要するに、この先に訪れる「賃金による審判」は、有権者による審判よりも厳しいものとなる可能性がある。
今年1月、首相は未来の「賃金サプライズ」について楽観的に語っていた。今、その約束を守る機会を与えられている。もしその約束が守られなければ、次の国政選挙となる2016年の参院選では、安倍氏とアベノミクスに今回とは非常に異なった審判が下されることになるだろう。
*筆者はロイターBreakingviewsのコラムニスト。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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