インタビュー:2%目標実現には更なる緩和必要=若田部早大教授

2%目標実現には追加緩和必要=若田部・早大教授
 11月25日、早稲田大学の若田部昌澄教授は、日銀が目指す2%の物価目標を実現するため、さらに追加緩和が必要になるとの見通しを示した。写真は安倍首相 、21日撮影(2014年 ロイター/Yuya Shino)
[東京 26日 ロイター] - 大胆な金融緩和を提唱するリフレ派の論客として知られる早稲田大学の若田部昌澄教授はロイターとのインタビューで、今年4月の消費増税による景気悪化でアベノミクスは「振り出し近くに戻ってしまった」と指摘した。日銀が目指す2%の物価目標を実現するため、更なる追加緩和が必要になるとの見通しを示すとともに、エネルギーなどの影響を除いた消費者物価指数で2%を目指すのも一案と語った。
若田部教授は、アベノミクスの「3本の矢」の成果について「少なくとも80点」と評価する一方、振り出しに戻ってしまったアベノミクスを再起動させるためには、1)追加緩和と2)経済対策、3)TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)などの成長戦略が重要と述べた。
日銀が10月31日に実施した追加緩和については、4月の増税による落ち込みを回復させるためであり、2%の物価目標を実現させるには更なる追加緩和が必要と指摘。また、今夏以降、原油市況の下落が消費者物価指数(生鮮食品除くコアCPI)を押し下げていることを踏まえ、日銀がめざす物価目標として、食料・エネルギーを除く消費者物価指数(コアコアCPI)の採用も検討するよう提案した。
若田部教授の主な発言は以下の通り
─アベノミクスをどう評価するか?
「消費増税を除く最初の3本の矢は成功しており、少なくとも80点はつけられる。第1の矢である金融政策は90点、第2の矢が60点ぐらいだ。しかし、消費増税で経済が落ち込んでしまった。増税後の経済指標などが悪いのは事実で、アベノミクスは振り出し近くに戻ってしまった」
 「安倍晋三首相がアベノミクスを再起動したいと言っているが、賛成する。再起動には追加緩和や経済対策が必要。経済対策は低所得者層を中心とした重点的な財政支出が重要。第3の矢として、TPPなどを進めるのも必要だ」
 「デフレの時にTPPを進めるとデフレになるという懸念もあるが、関税引き下げは個別価格の話なので、インフレ、デフレとは直接関係はない。金融政策とセットであれば、インフレ目標が物価水準を決める」
─円安のマイナス効果についてはどうか?
「アベノミクスに対する不満の多くは円安よりも原油高と消費増税に起因している。関税引き下げによる輸入価格引き下げは非常に良い効果を持つ」
─日銀は10月に追加緩和に踏み切ったが、その効果は十分か?
「日銀は更なる追加緩和を検討せざるを得ない可能性が高い。BEI(ブレークイーブンインフレ率)で示された期待インフレ率は下げ止まった兆候があるものの、2%に向けた(上昇していく)経路に戻す必要がある。4-6月に10兆円程度であった需給ギャップが7-9月期は15兆円程度に拡大する公算が大きい。この需給ギャップを金融・財政政策で埋める必要がある」
「前回の追加緩和は消費税率を5%から8%に上げことによるマイナスの影響を補うためで、このままで2%目標の達成は少し難しい」
─消費者物価指数は原油市況に左右されるが、どう対応すべきか?
「日銀の物価目標をコアコアCPIに変更すれば、物価が原油市況に左右される問題は解決できる。渡辺努・東大教授らの研究によると、消費者物価指数はプラス幅が2.4%以下だと上方バイアスがある。コアコアで2%を物価目標とすればコアで2.5%程度。この水準が安定的に達成できればほとんどデフレ脱却と言えるのでないか」
「追加緩和手段は、現行の緩和の拡大などではないか。ただ人々の物価予想に働きかけるには、何らかの変更や工夫を加え、それを量でバックアップするメカニズムもある。その意味で量以外に工夫の余地があり、目標をコアコアCPIに変更するのも一案だ。
─成長戦略についてはどう見るか?
「ことし6月に改訂された成長戦略は規制緩和やコンセッション(公共施設などの運営権売却)などが盛り込まれ、改善されてきている。安倍首相はさまざまなあつれきを回避するため慎重に事を進めている印象だ。それでもTPPでここまでこぎつけたのは大変な功績といえる」
─日銀による大量の国債買い入れをマネタイゼーション(財政の穴埋め)と懸念する声もあるが、どう考えるか?
「マネタイゼーションによる1つめの心配は高インフレだが、現時点での心配は時期尚早。インフレ目標政策を実施している限りあまり心配しなくてよい。2つ目の心配は日銀のバランスシートが毀損(きそん)される可能性。しかし政府のバランスシートと一体でみれば大きな問題ではない。日銀のみのバランスシート毀損についても、政府と補てんの仕組みを決め、万が一日銀の自己資本がなくなれば政府が資本を注入すればよい」
─急速な円安を懸念する声も出ている。
「日米欧の中央銀行がそれぞれ2%の物価目標を目指している限りにおいて、為替相場はある水準で落ち着くため、限りなく円安になることはない。円安で損をする業種がないとは限らないが、マクロ(経済への影響)では円安はプラス。内閣府のモデルでも10%の円安が実質経済成長率を0.4%押し上げる。マクロで考えると円安の副作用はあまり気にしなくて良い」
「原油高などには燃料税引き下げなど財政政策と規制緩和で対応するのが望ましい。昨今のバター不足も複雑な関税の問題。生活必需品にかかわる品目ではTPPなどで仕組みを直すのが望ましい」  
─更なる円安は望ましいか?
 「日銀の10月の追加緩和前は110円プラスマイナス10円が対ドル為替レートのレンジだったが、追加緩和で120円プラスマイナス10円程度に切り上がった。ドル円120円程度で安定的に推移すると、多くの製造業で国内生産が好採算となるなど大きな変化がおきるだろう。もっともアジアなど成長市場で生産する動きは続く。世界的なロボットやITによる労働代替の動きも国内雇用に影響すると思われる」
 
 (このインタビューは11月25日に実施しました)

竹本能文 編集:北松克朗※

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