訂正:焦点:中国減速や原油下落、日本のインフラ輸出の誤算に 

焦点:中国減速や原油下落、日本のインフラ輸出の誤算に
 9月17日、中国と東南アジアの景気減速が、日本のインフラ投資戦略に大きな誤算となってきた。上海で2013年11月撮影(2015年 ロイター/Carlos Barria)
[東京 17日 ロイター] - 中国と東南アジアの景気減速が、日本のインフラ投資戦略に大きな誤算となってきた。インドネシア政府が高速鉄道計画を白紙に戻したことをはじめ、日本企業の受注への影響が出始めている。今年度下期の業績にも不透明感が出てきた。
2020年度に30兆円のインフラ輸出を達成するという安倍晋三政権の目標も、達成に黄信号が灯っている。
<企業が危惧する本格的影響>
「インフラ関連需要が底割れしている」──。 今月上旬実施のロイター企業調査では、ある化学メーカーが2015年度収益に関し、中国経済の悪化や金融市場混乱の影響で、急激な需要の減少に見舞われているとした。
同調査では製造業の7割程度が、今年度収益への影響を懸念し始めた。
日立製作所<6501.T>の電力インフラシステム部門では、これまでの受注残に助けられ、売上高は4─6月期に前年同期比増収を維持している。
だが、その先は楽観できないとし、業績に具体的な悪影響が出るまでタイムラグが生じるものの、今年度業績見通しは中国等の成長減速の影響を視野に入れているとの見解を示している。
広報・インフラ担当の森木達也氏は「中国の公共事業投資が減速すれば、インフラシステム事業が全く影響を受けないわけではない。中国の日系企業向けにコンポーネント製品を提供しており、企業の設備投資が弱まるとその影響の可能性はある」として、今後の影響を気にしている。
同社は今年5月の14年度決算発表時に、インフラシステム事業における15年度目標売上高を当初の1兆円から8167億円に下方修正した。
原油等の市況悪化等による中東工事案件の下振れを反映させたが、今後は中国・アジア経済の減速の影響も受ける可能性がある。15年度売上目標額について「現在のところ変更の予定はない。ただ、かなり大きなことが起きれば見直す」(森木氏)としている。
JR東日本<9020.T>も、新幹線を主役に高速鉄道の海外輸出に力を入れているが「中国経済が減速しアジアにも波及しつつある中で、従来よりインフラ需要への期待が薄れている。需要は景気状況や財政状況と関係はあるだろう。アジア高速鉄道の案件は特に事業規模が大きいため、交渉段階の話はあっても、実際に動きがある案件は、現在インドのみで、動き出す気配のあっったインドネシアは白紙となってしまった」(国際業務部・高速鉄道グループ・石瀬裕之課長)としている。
もっとも 国際協力銀行(JBIC)インフラ・環境ファイナンス部門の渡部陽介・企画ユニット長は「中国・アジア経済減速の影響はないとは言えないが、インフラ需要というのは途上国にとって必要な投資であり、全く消失してしまう需要ではない。各国の財政事情が厳しくなったからといって、すぐになくなるものではない」とみている。 
富士通総研の金堅敏・主席研究員も「 中国・アジア諸国では、景気減速のもとで経済を支えるためにインフラ整備を加速させるだろう」とみている。
だが、他方で財政状況が悪くなるなら「インドネシア政府のように日本、中国からより財政負担の少ない形での条件を引き出そうとする動きも増えるだろう」と指摘する。
<中国やAIIBとの競合への課題>
安倍晋三政権が掲げる成長戦略では、2020年度に30兆円のインフラ輸出を目標としている。しかし、足元の中国や東南アジア諸国の景気減速で、その達成に不透明感が出てきたことは否めない。
13年度16兆円のインフラ輸出実績を土台にすると、目標に届くには残り7年間で14兆円増やすことが必要。インドネシア高速鉄道の白紙撤回で総工費6000億円(訂正)の巨額受注を逃したことも痛い。
今後17年から23年にかけて総工費2兆円弱のインドへの新幹線輸出が実現すれば最大級の案件となりそうだが、インドの財政悪化で計画への慎重論もくすぶっている。
今後、中国やアジアインフラ投資銀行(AIIB)が融資する案件との競合も予想される中で、日本企業がインフラ輸出を獲得することは、従来よりも厳しくなることは必至だ。
課題の1つは、日本政府による円借款をつけ、長期・低利の融資を可能とすることだ。円借款を付けるためには、借り手国側の政府保証がつくのが原則だが、相手国側の財政状況にも関係してくる。
相手国の政府保証がつかないケースでも、JBICやADBにより、日本企業が関連するインフラ案件へのファイナンス実績はあり、資金の効率的な調達は可能になるため、工夫の余地はある。
さらに日本側として事業のリスクテークが困難な場合もある。「もともと相応の収益性が見込める案件ばかりではない」(JBIC・渡部氏)ためだ。
厳しさを増す受注環境のもとでインフラ案件を獲得していくには、相手国の事業ニーズに応えるだけにとどまらず、資金面やリスク対応など幅広い課題を克服する必要がある。
*本文中の金額の単位を「6000億円」に訂正します。

中川泉 編集:田巻一彦

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