ペンギン日記(旧akoblog)

identityやprivacyに関心を持つ大学教員のブログ。20歳の頃から「ペンギンみたい」と言われるのでペンギン日記。

「日本人は匿名志向・外国では実名志向」を疑う

今回のシンポジウムでもっとも大きな収穫は、これだと思う。

ランチ中に米国ミシガンから来た研究者と話していた。ブログやYahoo!の掲示板で政治論議が活発に行われているというが、そのほとんどはpseudonym(筆名)とのこと。実名で書くのかと思った、と言ったら「そんなはずはないでしょう」と笑われた。ファーストネームだけを記載している場合、それが実名かどうかも判別できないし、混在して使われているようだ。ただし、LinkedInのようなビジネスネットワーキングは実名だとのこと。

私の発表の後に話しかけてくれたドイツ人の学生さん曰く、「Facebookで実名を使う、というのはあり得なくなっています」とのこと。特に就職活動を控えた学生達は、web上に実名でいろいろなことを書いておくと、就職面接でプリントアウトした束を目にすることになるのが怖い、と言う。そのため、彼らが取っている方法は

「ファーストネームは実名、ラストネーム(姓)は偽名」

だそうだ。これなら、親しい人にはすぐ見つけられるが、親しくない第三者(面接官だったりSPAMMerだったり)に対しては匿名性が発揮される。多くの情報が実名によって名寄せされ、社会生活で突きつけられることへの抵抗感は少なくない、と強調された。「匿名志向は日本の特徴だと言われてきたけれど」と言ったら、欧州でもその傾向は強い、とのこと。

一方、韓国の方で話しかけてくれた方は、「日本ではラジオ番組ですら『ラジオネーム』というpseudonym(筆名)を使う。韓国だと実名なのに。日本ではそういう文化なのですか」と質問してきた。日本人のフルネームの組み合わせが多様であり、特定される度合いが高いことが気にされているのかもしれない、というのが一点と、古来から「清少納言」のように実名ではなく筆名で書く文化があるのかもしれない、という曖昧なお返事しかできなかった。ちなみに、韓国では身の上相談なども実名で、しかも詳細に語られる傾向があるようだ。オープンなのだろうか。

ともあれ、「日本人は匿名志向で欧米では実名志向」という思い込みは、きちんと実証して何がどうなっているのかを明らかにした方がよさそうだ。