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ドワンゴ川上量生会長インタビュー【Vol.2】

人工知能の進化により、クリエイティブの世界はどう変わるか

2015/4/21
2014年10月に誕生したKADOKAWA・DWANGO。老舗出版社とIT企業という異色タッグのカギを握るのは、コンテンツを創る編集者、プロデューサーの存在である。出版業界とIT業界は似ていると語る川上会長。「なぜ編集者にプログラミングを学ばせるのか」「なぜ編集者はこれからいちばん食える仕事なのか」「これからの編集者にもっとも必要な能力は何か」。川上会長が「ネット時代の編集者像」を語り尽くす。

編集者は、経営者と似ている

──お話を伺っていると、これからの編集者はいくつもの役割を担い、プロデューサー的能力も求められるということですね。

川上:その意味では、スタジオジブリの鈴木(敏夫)さんは、プロデューサーなんですけど、根っこは編集者としてのプロデューサーですよね。あの視点は、いまだにやっぱり編集者なんですよ。

だから編集者とプロデューサーというのは、僕は非常に近いと思いますよね。経営者とも似ている。要するに結果出さなきゃいけない人ですよね。結果を出すためには何やってもいい。いわゆる名編集者と言われている人は、好き勝手やる人なわけですよね。それはつまり、何でもやる人なんですよ。

だから経営者とプロデューサーという人間は、基本すごく似ていると思いますよ。

──ネット時代の編集者には大きな可能性があると思うのですが、いかがですか。

川上:はい。最近の編集者はわかりませんが、鈴木さんが『アニメージュ』の編集長をやっていた時代には、年に1回、武道館を借りて、アニメージュのファンを相手にイベントをやっているわけですよ。

それって、今、僕らがやっているニコニコ超会議とすごく似ていますよね。それこそ、『風の谷のナウシカ』の映画もつくったわけです。編集者って、ここまでできるんですよ。その後はジブリに移っちゃったわけなんだけれども。そういうものだと思うんですよね。

自由だし、やろうと思ったらどこまでも行けるというのが編集者です。

「ネットの接着剤」になればいい

──自分の発想さえあれば、何でもできると。報酬面はどうですか? 講談社などの編集者が今も人気なのは、仕事が面白くて給料も高いというイメージが大きいと思うんですね。でも、ネットの編集者にはそれがない。

川上:今、エンジニアのほうが給料は高いですよね。でも、それは、バリューを出せている人がいないからだと思います。単純に、編集者が結果を出せていないからですよね。

──それは自分たちでつくっていくしかないということですよね。

川上:そうです。ただ、今、話しているネット時代の編集者になれたら、つぶしのきく職業だと思いますよ。ネット時代においては、「ネットとの接着剤」になれる人が、一番必要なわけです。それがどの業界でも足りていない。当面は食いっぱぐれないんじゃないかと思いますけどね。

──当面というのは、まだ数十年食えると言ってもいいんですかね。

川上:数十年は食えるでしょう。それ以上に長く続きそうな仕事って、今の世の中でほとんど見当たらない。

──最近は、「人工知能(AI)が発達するといろいろな仕事がなくなる」といった脅しの議論もありますけど、そうなっても残りますか。

川上:そのときは、人工知能との接着剤になればいい。そういう話だと思うんですよね。

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川上量生(かわかみ・のぶお)
KADOKAWA・DWANGO / ドワンゴ 会長
1968年生まれ。京都大学工学部を卒業後、コンピューター・ソフトウエア専門商社を経て、97年にドワンゴを設立。携帯ゲームや着メロのサービスを次々とヒットさせたほか、2006年に子会社のニワンゴで『ニコニコ動画』をスタートさせる。11年よりスタジオジブリに見習いとして入社し、鈴木敏夫氏のもとで修行したことも話題となった。13年1月より、ドワンゴのCTOも兼任。

堀江さんこそが、ネット時代の編集者

──川上さんがこれからのネット時代の編集者像で、イメージする具体的な人物っていらっしゃいますか。

川上:いや、現時点では、まだいないですね。みんな手さぐりだと思います。僕は、たぶん「万能な編集者」っていないと思うんですよ。誰でも何でもできるわけじゃない。

ネット時代の編集者とは何かと言えば、「そのネット環境において、役割を果たせるかどうか」ということです。今それを最も実質的に果たしているのって堀江(貴文)さんだと思うんですよね。彼はもうネットにいくつもメディアやコンテンツをつくっています。彼こそがネット時代の編集者なんですよ。

でも、それは彼自身が持っている1万数千人のメルマガ読者というベースと、その知名度を利用しているわけです。彼と同じことを誰でもできるかといったら、できないですよね。

──堀江さんの真似ではないやり方を模索しなければいけないですね。

川上:はい。誰でもできるのは、ちゃんとツイートするとか、そんなことにすぎない。だから、そうじゃない武器を、どうつくっていくのかというところまで、考えなければいけない。そこまでのプロデューサー的能力が求められているのが、現状だと思うんですよね。

そのために僕らが会社として何ができるのかといったら、武器をたくさん用意して、リテラシーをつけてあげることだなと思います。

──そこではどういうものをイメージしていますか。

川上:たとえば、今ソーシャルメディアを使うといっても「Twitter」とか「Facebook」とか、そのぐらいまでですよね。「LINE」のアカウントを取ろうとするだけでも、少しハードルがある。堀江さんの場合だと「ホリエモンドットコム」のように、個人ポータルをつくっちゃいますが、そこまでいってない。

たとえば、作家がそういうことをやりたいと思ったときに、会社が環境を用意することはできると思うんですよ。

──インフラ的なものを用意することや、ビッグデータへのアクセスなどの提供も考えられますね。

川上:はい。それをIT企業が提供することは、ネット時代においては非常にわかりやすく強みになりますよね。今回、新卒の編集者に基礎的なプログラミング研修をしますけど、僕自身、そこで期待している具体的な何かというのはないんですよ。

ただ、プログラミングが多少なりともできると、その時点でITに対する心のバリアが1個解ける。それがどこかですごい差になるんじゃないかなと思っています。

ヒットコンテンツとビッグデータ

──ドワンゴでは「人工知能研究所」も設立していますが、たとえば人工知能やビッグデータがコンテンツをつくるうえで武器になる可能性についてはどう考えていますか。

川上:クリエイティブの世界の人たちはみんな、コンピュータが非常に遠い存在だと考えているようですけど、人工知能と絡めるんだったら、僕は意外と一番ヤバいんじゃないかって思っていますよ(笑)。結局みんな、感性で「売れる、売れない」を判断しているわけです。

でも、それはもうコンピュータのほうが得意な可能性がある。ビッグデータと相性がいいんですよ。「ウケるコンテンツ」は、ある程度の精度でビッグデータ解析ができた場合、もうつくれちゃう可能性があると思っています。コンテンツそのものを人工知能が書くところまでは、まだまだ先ですけども。

たとえばヒットをつくるということは、ビッグデータの解析能力などが、すごく重要になる可能性がありますよね。

ニコ動みたいなWebサービスをやっている僕らからすると、非常に細かいユーザーの情報は取れるんですよ。それをビッグデータって呼ぶかは別として、今やろうと思ったら相当なことまでできる。

──現在、ニコニコ動画でもビッグデータ的なものはクリエイティブに生かされているんですか。

川上:全く生かされていないですね(笑)。ニコ動は、ユーザーがつくっているCGMであること、それにビッグデータの解析にはサーバーなどでそれなりのコストがかかるので。

あと、やっぱりエンジニアですよね。エンジニアの数を十分に割り当てなければならないですし。少なくとも、今まではそのインセンティブがなかったということです。

──これからは、わからないということですね。

川上:はい、そうです。

──データとの絡みで言うと、たとえば「BuzzFeed」や「Upworthy」は、自分たちでいくつも記事タイトルをつくり、まずバズらせてみて、それを分析し、一番反響がよかったものを選んでいます。

川上:まあ、大したことはやってないと思うんですけど(笑)。でもね、やっぱりそれは長期的にちゃんとやれば、ボディブローのように効いていきますよ。だって、「ハフィントン・ポスト」が日本であんなに成功したのは、そういう地道なところですよね。

SEOとかのノウハウが他のメディアに比べて優れていたということだと思います。この当たり前ができるか否かで大きな差が生まれるので、やっぱりエンジニアリングの知識がないとネット時代は難しいでしょうね。

自分がやるしかない環境が、人間を一番育てる

──そんな中、今回のKADOKAWA・DWANGO新卒採用者は、ネット時代の編集者の1期生として、まっさらなところに入社することになりますね。

川上:やっぱり1期生は得なんですよ。ジブリも、新卒採用した1期目って、優れたアニメーターがすごくたくさん出たらしいんですよね。1期目に多く出て、2期目ちょっと少なくなって、3期目以降というのは、なかなか出なくなった。

ドワンゴの場合でも、やっぱり新卒1期生、2期生とかって一番活躍するんですよね。それって新しいジャンルで上がいなくて、もう自分がやるしかない、そういう環境ってものすごく魅力的で、人間が一番育つんですよ。

──自分で仕組みをつくれますからね。

川上:はい。そういう場所で、チャレンジしたいという人は是非検討してもいいんじゃないかなと思いますけどね。

※続きは明日、掲載予定です。

◎堀江氏のメルマガ読者の数を何千人から1万数千人に訂正しました。

(聞き手:佐々木紀彦、構成:菅原聖司、写真:福田俊介)