アインシュタインが言ってもいないのに広まってるアインシュタインの名言9つ

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アインシュタインが言ってもいないのに広まってるアインシュタインの名言9つ

かのアルベルト・アインシュタインの名言に「インターネットで読む名言なんていちいち信じるな。なぜならあんなこと俺はひと言も言ってないからだ」 というのがありますが。

アインシュタイン生誕135周年(15日)を記念して、アインシュタインが言ってもいないのにアインシュタインの名言として最近インターネットで広まってる名言をバーンと9つ集めてみました。ここにあるのは全部フェイクだよん。

1. 「狂気とは即ち、同じことを繰り返し行い、違う結果を期待すること(The definition of insanity is doing the same thing over and over and expecting different results)」

これはアインシュタインの言葉でも、ベンジャミン・フランクリンの言葉でもありません。政治家が好む名言で、いろんな政治的文脈でよく引用される言葉(Salonのまとめはここ)なのですが、 「The Ultimate Quotable Einstein」という本では初出はリタ・マエ・ブラウンの1983年の小説『Sudden Death』とあります。けど、もっと古そうです。

2. 万物はエネルギーであり、それがすべて。自分が望む現実の周波数に自分を合わせれば、現実は自ずからそうなる。それ以外にはなりえない。これは哲学ではない。物理だ(Everything is energy and that's all there is to it. Match the frequency of the reality you want and you cannot help but get that reality. It can be no other way. This is not philosophy. This is physics.)

アインシュタインがこう言ったという証拠はどこにもありません。自分の思い通りの現実が手に入る、なんてことは認知的不協和とかハルシネーションにでもならないとムリ。

3. 国際法が存在するのは国際法の本の中だけだ(International law exists only in textbooks on international law.)

これは文化人類学者アシュリー・モンタグ(Ashley Montagu)がアインシュタインとの対談で述べた言葉。

4. 悪は、人間が心の中に神の愛を持っていないときに起こる現象だ。それは熱がないときの冷たさ、光がないときの闇のようなもの(Evil is the result of what happens when man does not have God's love present in his heart. It's like the cold that comes when there is no heat or the darkness that comes when there is no light.)

もう10年以上前からメールで拡散してる逸話。神と悪の性質をめぐって、無神論の教授と生意気な若い学生が問答を始めるんですが、学生がじわじわ緻密なロジックで教授を追い詰め、神が万物の創造主だということを完膚なきまでに証明します、その学生が若き日のアルベルト・アインシュタインだった、というオチ(日本語訳ここ)。ところがどっこい、これアルベルト・アインシュタインじゃないんです。逸話が広まった経緯はSnopesに出てます。

5. 人はみな天才なのに、魚を木登りで評価したら、魚は自分がバカだと思い込んで一生を過ごすことになる(Everyone is a genius. But if you judge a fish by its ability to climb a tree, it will live its whole life believing that it is stupid.)

勇気づけられる言葉だけど、残念ながらアインシュタインの言葉ではありません。Quote Investigatorの解説にあるように、 20世紀には動物に無理難題やらせる喩え話がなんか流行ったんですね。でもこれはアインシュタインじゃないとのこと。

6. 神は賽を投げない(I refuse to believe that God plays dice with the universe.)

これも厳密には違うようです。1942年にアインシュタインがプリンストン大学のコルネリウス・ランチョスCornelius Lanczos)に宛てた書簡からの引用ということになってるのですが、「Albert Einstein, the Human Side: New Glimpses from His Archives」という本によれば、元々の記述はもっともっと長いのです。「僕と同じ物理観(シンプルで整合性のある何かを通して現実を理解しようという態度)をもつ人は僕の知る限り君だけだ…神の切るカードを覗き見ることは難しい。だが神が賽を投げ『テレパシー』的な方法を使うなんて…僕は一瞬たりとも信じられない(You are the only person I know who has the same attitude towards physics as I have: belief in the comprehension of reality through something basically simple and unified... It seems hard to sneak a look at God's cards. But that He plays dice and uses 'telepathic' methods... is something that I cannot believe for a single moment)」

7. 頭のいいバカは物事を必要以上に大きくし、複雑にし、凶暴にする。逆の方向に転換するにはわずかの才とたくさんの勇気がありさえすればいい(Any intelligent fool can make things bigger, more complex, and more violent. It takes a touch of genius—and a lot of courage to move in the opposite direction.)

これは1973年にE.F. シューマッハーが書いた本『Small is Beautiful: A Study of Economics As If People Mattered』の言葉です。

8. 数えれられることすべてが大事なわけではないし、大事なことすべてが数えられるわけではない(Not everything that can be counted counts, and not everything that counts can be counted.)

いい言葉ですね。でもこれもアインシュタインの口から出た言葉ではありません。 Quote Investigatorによると、1963年に社会学者ウィリアム・ブルース・キャメロン(William Bruce Cameron)が書いた論文のこの言葉が出元。「社会学者が求めるデータが全部数えられるものだったらどんなにかいいだろう。そしたら経済学者がやってるみたいに、データをIBMのマシンに通せば一発でチャートができるのに。とは思うが、数えられるものすべてが大事なわけではないし、大事なことすべてが数えられるわけでもないのだ」

9. わたしに畏敬の念をいだかせるものはふたつ。星がちりばめられた空と内なる倫理的宇宙(Two things inspire me to awe: the starry heavens and the moral universe within.)

これも星空の下でヨガ組む人の写真に載せると信じられないほど人気の名言ですけど、鋭い人はピピンとくるようにアインシュタインの言葉ではありません。イマニュエル・カントが『実践理性批判』の最後に書いたこの有名な一節です。「已むことなき畏敬もて われは見つむ二つのもの わが上なる星きらめく天空とわが内なる道徳律とを(Two things fill the mind with ever-increasing wonder and awe, the more often and the more intensely the mind of thought is drawn to them: the starry heavens above me and moral law within me)」。カントの墓碑銘でもあります。

Matt Novak(原文/satomi)