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第25回:元リーフタクシー運転手、最新型リーフに仰天する(その3)
リーフとリーフを取り巻く環境(都心ドライブ編)

2016.03.31 矢貫 隆の現場が俺を呼んでいる!? 矢貫 隆

2年半

2年半ぶりである。

リーフタクシー運転手を辞めて以来、久しぶりに「リーフ」のハンドルを握り都心を走った。そしてすぐに気がついたのは、リーフタクシーの姿がどこにも見当たらないことだった。

都内の某タクシー会社で潜入取材をしていた頃、5万台ほどある東京のタクシー(個人タクシーを含む)のなかで、リーフ(初期型)と「三菱i-MiEV」を合わせた電気自動車のタクシーは個人タクシーの1台を含め19台しかなくて(リーフタクシーの営業日誌、第4回第7回第17回参照)、いや、言い方を変えると、19台あったわけだけれど、徐々にその姿は消え、今ではすっかりいなくなってしまったかのようだ(少数は営業しているはず。けれど確認できず)。

理由の大きなひとつは電費の悪さ。真冬になったら40kmくらいしか走れないのでは、タクシー用車両として使うには無理がありすぎた(リーフタクシーの営業日誌最終回参照)。

と、過去の体験に照らし合わせて判断すれば、2年半の間にリーフタクシーの多くが姿を消したのは当然の結果だったように思う。

されど2年半なのである。

この2年半の間、かつて電費の悪さに泣かされた元リーフタクシー運転手の知らぬ間に、リーフとリーフを取り巻く環境は(その1)と(その2)で書いたごとく、すごいとしか言いようがない、まさに劇的な向上を遂げていたのだった。

数も増えた。

リーフタクシーは姿を消したけれど、一方、街で見かけるリーフの数は確実に多くなっている。リーフの販売台数が1万台を超えたという話をリーフタクシーで営業をしていた頃に聞いたけれど、その数は今や5万台だという。

販売開始からの累計販売台数は世界で20万台。そのうちの90%が北米、日本、欧州の3市場で占められている。販売台数の最多は北米で、9万台超、日本は2番目で約5万台、欧州は約4万台。
販売開始からの累計販売台数は世界で20万台。そのうちの90%が北米、日本、欧州の3市場で占められている。販売台数の最多は北米で、9万台超、日本は2番目で約5万台、欧州は約4万台。 拡大
 
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200km 

注文した日替わりランチを前にしても腕組みしたまま箸が進まず、私は、最新型と初期型とで信じがたいほど違うリーフの電費にあらためて戸惑っていた。

かつて潜入取材を続けたタクシー会社がある板橋区を走りまわり、運転手時代に何度か利用したことがある近所のファミレスに入ったと思ってもらいたい。午前10時前に横浜の日産自動車グローバル本社をスタートし、ファミレスに入った時点での走行距離は73km。初期型リーフタクシーなら、とっくに最初の充電を済ませ、ぜんぜん大げさじゃなく、そろそろ2回目の充電の心配をしないといけない頃である。

ところが、なのだ。

バッテリー残量を示す目盛りは4個減っただけ。目盛りの数はまだ8個あり、現状で、あと124km走れると表示がでている。

実を言うと、今回の試乗では急速充電に少なくとも1回、場合によっては2回は駆け込むことになるだろうと覚悟していた。最新型は航続距離が280kmに、なんていう日産自動車の発表やwebCGの記事を目にしても、そんなのまるで信じていない私だった。話半分、いや、真冬だし、話3分の1に聞いておこうとハナから疑ってかかっていた。とにかく電費データをぜんぜん信用していないものだから、急速充電への駆け込みを想定して試乗に臨んでいたのだ。

けれど、なのである。無充電で200km近く走れる。それはもう疑いようもない現実として私の前にあった。

73km走ってバッテリー残量は8目盛。124km走行可能と表示されているので、単純に計算して197km走行可能ということになる。
73km走ってバッテリー残量は8目盛。124km走行可能と表示されているので、単純に計算して197km走行可能ということになる。 拡大
リーフタクシーの運転手をしていた時、よく走った皇居周辺にて。後ろに見えるのが東京駅。
リーフタクシーの運転手をしていた時、よく走った皇居周辺にて。後ろに見えるのが東京駅。 拡大

マジですか!?

リーフタクシー運転手だった頃、最少でも日に1度は急速充電のために駆け込んだ千代田区役所の地下駐車場。急速充電器をセットしたら職員食堂でランチ、午後の充電時は1階のさくらベーカリーでコーヒータイム(リーフタクシーの営業日誌、第23回参照)。あの懐かしの千代田区役所である。

区役所の地下駐車場に到着した時点での走行距離は101.5km。バッテリー残量を示す12個の目盛りは、ちょうど半分減って6個、航続可能距離はあと93kmと表示されていた。

この一連の数字は要するに「充電不要」を教えているわけだけれど、せっかくだから充電していく。

充電器の横に「充電中にクルマから離れないでください」旨の注意書きを発見。私がリーフタクシーの充電に立ち寄っていた頃にこんな張り紙はなかった。だからこそ充電中のランチであり、さくらベーカリーだったわけである。

つまり?

どうやら、この急速充電施設、私が通いつめていた頃に比べ利用者がぐんと増えた、充電スポットとして人気があるらしい、との推測がつく。

先客の、i-MiEVの若いお兄さんに聞いてみた。

「1年くらい前から、電気自動車、ここにたくさん集まってくるようになった感じです。以前はどこで充電しても無料だったじゃないですか、でも、近ごろは、半分くらいの充電施設で施設利用料として500円かかるようになった。それが関係あるのかもしれません。ここは無料ですから。それに、そもそも電気自動車が増えましたよね」

このお兄さんの名誉のために言っておく。
いきなり話しかけてきた相手は真っ黒いサングラスをかけて地下駐車場をうろつく怪しげな人物(=私)である。i-MiEVのお兄さん、「な、なんだ、こいつ!?」みたいな警戒感いっぱいだったから、最初からこんなに人なつっこくしゃべってくれたわけでは、もちろんない。

不動産関係の仕事に就いていると話してくれた32歳の金井冬樹さんである。i-MiEVは仕事の足で、もっぱら都内を走り、急速充電は決まって千代田区役所なのだと彼は言った。

初期型のi-MiEVだけに、彼が電費の悪さに泣いているであろうことは容易に想像がついてしまうわけである。

どのくらい走れます?

「フル充電状態で100kmと表示されますけど、実際に走れるのは夏なら半分、冬なら3分の1というところです」

やっぱり。

初期型リーフタクシーといっしょだ。

すると、今度は彼が私に聞いた。

「新型リーフって、どのくらい走れるんですか?」

200km。

「マジですか!?」

マジです。

リーフの充電は30分で完了し、バッテリー残量は90%まで回復。航続可能距離は、あと175kmに変わった。

このとき私の脳裏に浮かんだのは、リーフの電費とリーフを取り巻く環境の劇的な向上だった。

元リーフタクシー運転手の頭に刷り込まれた「リーフ(の電費)はダメ」の思いがきれいさっぱり消え去っていく。

この調子なら遠出もいけるんじゃないか?

たとえばどこかの漁港の食堂においしい魚を食べに行く。そんな小さな旅だってできるんじゃないか?

翌週、最新型リーフを走らせ小田原漁港に向かう私がいた。

(文=矢貫隆)

千代田区役所の地下駐車場にある急速充電施設。利用料は必要なく、駐車料金も30分までは無料。先客の「三菱i-MiEV」。
千代田区役所の地下駐車場にある急速充電施設。利用料は必要なく、駐車料金も30分までは無料。先客の「三菱i-MiEV」。 拡大
2年半前にはなかった利用についての注意書き。
2年半前にはなかった利用についての注意書き。 拡大
金井冬樹さん。仕事ではもっぱら都内を走っているが、会社も自宅も千葉県。自宅には充電設備があるのだという。
金井冬樹さん。仕事ではもっぱら都内を走っているが、会社も自宅も千葉県。自宅には充電設備があるのだという。 拡大
久しぶりの充電操作にちょっと手間取ってしまった元リーフタクシー運転手。
久しぶりの充電操作にちょっと手間取ってしまった元リーフタクシー運転手。 拡大
以前は黒いボディーのリーフタクシーだったが、とても懐かしい風景だ。
以前は黒いボディーのリーフタクシーだったが、とても懐かしい風景だ。 拡大
矢貫 隆

矢貫 隆

1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。

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