シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

疑惑のチャンピオン

2016-07-14 | シネマ か行

「ペレ」はサッカーの伝説の人でしたが、こちらも自転車界の伝説の人…になるはずだった人。ランスアームストロングと言えば自転車の門外漢でも知っている名前でしょう。

自転車の最高峰のレース、ツールドフランスで前人未到の7連覇を成し遂げたアメリカ人のヒーローは実はドーピングをしていたことが発覚し2012年すべてのタイトルははく奪され、自転車界から永久追放された。

ランスアームストロングベンフォスターが、どのようにドーピングに染まって行ったのか。当然その過程を見られるであろうことを予想して見に行ったわけですが、たった25歳でガンに侵され過酷な化学療法で見事ガンを克服した彼が勝利に固執するあまり追い詰められてついにドーピングに手を染める…といったような展開を想像していたワタクシはしょっぱなから驚かされた。彼はガンにかかる以前からドーピングを行っており、ガンを克服してからは自らドーピングを積極的に研究している医師ミケーレフェラーリギョームカネに会いに行き、自分から積極的にドーピングを行い、それを自分のチームメイトにも推奨(強制?)していた。

そうだったのか、、、スポンサーとか周囲の期待とかそういうもののプレッシャーに負けてしまってやむなく薬に手を出してしまった堕ちたヒーローだと勝手に思っていたのだけど全然違っていた。

彼はフェラーリ医師の指導の下、ドーピングだけでなく、ドーピングの証拠を隠す方法も巧みに実行していて、ドーピングの検査に来た検査官を待たせて点滴を絞り出して入れて成分を薄めたり、ドーピングしていない時の血液を試合後に戻すなどおぞましい(という強い言葉を使っていいくらいの)行為まで普通に行っていた。

1回目のツールドフランスでの優勝の時、ヒルクライムで驚異的な走りを見せたアームストロングに疑惑を持ったのはたった一人(いや、心の中の疑惑に目をつぶらなかったのはたった一人と言うべきか)アイルランド人ジャーナリストのデイヴィッドウォルシュクリスオダウドだけだった。彼はここからずっとアームストロングのドーピング疑惑を追い続けることになる。しかしなかなか決定的な証拠を挙げることはできないし、その疑惑を追っているというだけで周囲からつまはじきにされた。(それもすべてアームストロング側の裏工作だった)

ランスアームストロングというヒーローを得た自転車界、スポンサー、ファン、ガン治療の支援団体などなどなど、すべてが彼を中心に回り始め、この良い雰囲気を壊す奴は許されないという空気が広がり始める。皆がだんまりを決め込んでいれば、何も問題なんてない。恐ろしい悪循環の始まりだ。

アームストロングはキング。何をやってももうアンタッチャブルな存在。ドーピング疑惑を堂々と否定し、自らアンチドーピング機関に高額のドーピング血液検査の機械を贈るというなんとも傲慢で高慢ちきなことまでやってみせている。

そんなキングにもほころびが出来始める。常にアームストロングの影にいた元チームメイトのフロイドランディスジェシープレモンスがドーピング検査に引っかかる。アームストロングに冷たくあしらわれた彼はデイヴィッドウォルシュに連絡を入れた…そうなると彼に優勝報酬を支払わされた会社側も黙ってはいなかった。

ベンフォスターが見せるアームストロングの勝利への異常なまでの執着に一気に引き込まれる。アームストロングの人生そのものがまるで暗示にかかったようにドーピングへと突っ走っていく。彼に罪悪感はかけらもなく、周囲もそれを引きとめることなく一緒に乗っかってオイシイ思いをしようとしている。そこは自転車界だけではなく巨額のカネが動くスポーツ界全体の腐敗も示している。

周りのみんなが「せっかく盛り上がってるのに雰囲気ぶち壊すようなこと言うなよな」という空気の中で、疑惑を堂々と口にし調べていったデイヴィッドウォルシュのジャーナリスト根性に脱帽しました。彼こそが本物のスポーツファンと言えるのではないでしょうか。

上映時間103分。もう少し長くてもいいから、アームストロングの奥さんがドーピングとそれがバレたときにどういう反応をしたのかというのが見たかった気がします。出会いと結婚式のシーンだけ一瞬ありましたが、後は存在していないかのようだったので。(奥さん側に許可取れなかったとかそういう問題かな?)それ以外はスリリングな演出でとても良かったと思います。

オリンピックを前にロシアが組織的なドーピング違反で出場停止なんて言っていますが、本当にロシアだけ…???



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