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メディアを通さなくてもいい――「メディアスキップ」の時代のお仕事(1/3 ページ)

» 2018年11月27日 11時44分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

 毎年、そして毎日のように、国内・海外の発表会やイベントに出ている。そこで起きたことを記録し、分析し、伝えるのがライターの仕事の一部だからだ。ある意味これは、「メディア」という仕事が定着したこの50年、変わらず続いていることのように思う。

この記事について

この記事は、毎週金曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2018年11月16日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額648円・税込)の申し込みはこちらから。


 とはいえ、その辺の状況には、ここ数年、はっきりとした変化が生まれているように思う。特に今年はそのことを強く感じた。

 極端にいえば、「過去50年と同じメディアの仕事は、もう役割を終えつつあるのではないか」という疑念だ。

 その辺について、ちょっと、筆者が考えていることをまとめておきたいと思う。業種やジャンルによっても違いが大きいので、現状ではある種の「極論」である。そのことをご理解の上、お読みいただきたい。だが、メディア関係者だけでなく、消費者も考えておく必要がある流れだと思っている。

記者よりも「お客様」が優先

 「だって、もう“プレス”カンファレンスとは言ってないですからね」

 6月にE3を取材した時のことだ。ソニー・インタラクティブ・エンタテインメント ワールドワイドスタジオ・プレジデントの吉田修平氏こと吉Pは、筆者の問いにそう答えた。

photo E3におけるSIEの発表

 E3でのSIEのカンファレンスは、プレスにとってはなかなかに難題だった。会場内でゲームのデモが流されるが、その説明はない。ゲームのデモのたびに会場を移動するので面倒。そして、席も広いものではない。

 発表が終わると、一般ユーザーよりも一足先にゲームをプレイすることができて、それがなによりの「情報」なのだが、ゲーム専門のメディアでない場合、ちょっと伝えにくいところがあった。

 だが、こうした不満は現地に「いない」人には無関係なことだ。SIEはストリーミング配信で様子を、全世界のユーザーに伝えていた。イベント開始前や、記者が会場を移動している間には、MCを立てた独自の実況番組が流れており、そこでのみ公開された情報も多い。すなわち、この「カンファレンス」はあくまでストリーミングを見ているゲーマーが主役であり、現地のプレスは主役でも主体でもないのだ。

 こういう話になると、「プレスが主役じゃないといかん、というのか」と感じるかもしれない。いや、筆者が言いたいのはむしろ逆なのだ。

 「取材しにくい。ひどい」と不機嫌になる同業者の顔を横目に見ながら、筆者はこう考えていた。

 「いや、我々に便宜を図ってもらえないからといって、怒るのは筋違いでは?」と。

 企業と消費者の関係を考えれば、「プレスイベント」はあくまで方法論でしかなく、唯一の手法でも最高の手法でもない。プレスとはあくまで「消費者になにかを伝える人々」であって特権階級でもなんでもない。情報が伝わる経路が変わっていくのならば、「こうなるのが必然」なのである。

 現在のプレス発表は、インターネットを介してストリーミング配信されるのが当たり前になってきた。そのことは、プレスにとっても消費者にとってもいいことだ。

 一方で、そうした場には、いわゆる「記者」「ライター」ではなく、「インフルエンサー」と呼ばれる人々が関わることも増えている。宣伝してもらうために「伝播力」「影響力」のある人々に優先権を与え、伝えてもらうことが増えている。

 記者でない、専門教育を受けていない人間が優先なのか、と憤慨する人もいる。まあ、筆者もそういう気持ちを感じる時がないとはいわない。

 だが、である。

 それもまた「選択」に過ぎないのだ。

 企業側の選択として、記者を優先にするよりもインフルエンサーを優先にした方が効果がある、と思うなら、「そうなるだけ」だ。記者だから先に聞ける、先に使えると誰が決めたのだ。お互いにメリットがあってそうなっているだけで、「記者優先」である理由など、本来どこにもないのだ。

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