映画『ブラックパンサー』の世界は「アフリカ×未来」でつくられている──その背景をデザイナーが語った

全米で大ヒットを記録している映画『ブラックパンサー』の衣装やデザインは、女性ばかりの制作担当者が生み出したものだ。デザインのテーマである「未来のアフリカ」に基づいて、いかに衣装から武器、交通機関、言語などがつくられていったのか。その舞台裏をデザイナーたちが語った。
映画『ブラックパンサー』の世界は「アフリカ×未来」でつくられている──その背景をデザイナーが語った

映画ブラックパンサー』の世界では、未来は女性たちがつくっている。確かに設定上の主役は男性であるティ・チャラだが、ボディーガードもアドヴァイザーも、主任技術者もすべて女性だ。

同じことが、カメラの向こうにいる制作スタッフにも言える。映画の設定(アフリカの架空の国ワカンダ)のデザインは、プロダクションデザイナーのハンナ・ビークラー(『ムーンライト』、ビヨンセのアルバム『レモネード』)と、衣装デザイナーのルース・カーター(『アミスタッド』、『グローリー/明日への行進』)がほとんどを手掛けている。

ビークラーは次のように語る。「大変だったのは、アフリカの未来的なものについて想像することでした。植民地化されず、独自の文化を守り続けていたとしたら、アフリカの人々は何を成し遂げていたでしょうか。彼らの文化はどのように融合されていたのでしょうか」。その答えは、『アイアンマン』の主人公トニー・スタークも絶対に夢見ないような未来だ。

スーパースーツ

PHOTOGRAPH BY MARCO GROB

映画の世界では、ワカンダの富の源である「ヴィブラニウム」(架空のレアメタル)が、武器からファッションに至るあらゆるものの原動力になっている。ティ・チャラのボディスーツが銀色に輝いていることは一目瞭然だが、衣装デザインの細かい部分は見逃しているかもしれない。「小さなピラミッドのパターンはマリ共和国から拝借しています。近づいてよく見れば、このスーツとアフリカとのつながりがわかります」とカーターは述べる。

言語

IMAGE COURETESY OF MARVEL STUDIOS 2018

ワカンダ国民はたいてい英語を話すが、現地の言語も存在する。ビークラーは、4~5世紀のナイジェリアで使われていた象形文字を基に、現地語の文字セットをつくり上げた。これらの文字は、道路標識や戦闘用具、ティ・チャラの王宮の壁で見ることができる(壁に書かれた文字を簡単に訳すと、「われら、ヒョウの王のもとに集結する」となる)。

公共交通

ワカンダの中心都市であるゴールデン・シティには、主要な公共交通機関が2つある。ステップタウンの路面電車と、ハイパーループだ。どちらも人々が思い描く未来の鉄道のイメージを満たすようにデザインされた、とビークラーは説明する。

ライアン・クーグラー監督はカリフォルニア州オークランド育ちなので、ベイエリア高速鉄道(BART)システムの影響は大きい。当然のことながら、ヴィブラニウムのおかげで、車両はかなりエネルギー効率がいい。

装飾品

PHOTOGRAPH BY MARCO GROB

クーグラー監督が『ブラックパンサー』で掲げていた目標のひとつが、すべての技術に複数の機能をもたせることだった。例えば、「キモヨビーズ」は宝石としてだけでなく、通信装置や医療機器としても使用される。「わたしが最も追求したかった疑問は、どうすればアフリカらしく見えるかということでした。そこで『人間らしくしよう、触覚性を高くしよう』ということになりました」

空軍のパワー

IMAGE COURTESY OF MARVEL STUDIOS 2018

ワカンダには主要な航空機が3種類ある。戦闘機のような「タロン・ファイター」、生体模倣技術を駆使してトンボのように見える「ドラゴン・フライヤー」、そしてティ・チャラが乗る大統領専用機「ロイヤル・タロン・ファイター」だ。

「ロイヤル・タロンを上から見た姿は、アフリカの仮面をモチーフにしています。内部は豪華です。技術が駆使されていますが、普通の飛行機とは違います」とビークラーは述べる。

建築

ゴールデン・シティには光り輝くガラスの超高層ビルがそびえ立っているが、そのルーツはアフリカの建築様式にある。上部が伝統的なわらぶき小屋の円筒形の屋根になっているのだ。

「まずはトンブクトゥ(古代から栄えたマリ共和国の都市)の基礎部分と、マリ共和国のピラミッドを深く掘り下げて構造をつかんでいきました」と、ビークラーは説明する。ゴールデン・シティにはステップタウンという地区もあり、そこでは流行の最先端を行く人たちが「アフロパンク風」の服を着ていると、カーターは説明する。

戦士

PHOTOGRAPH BY MARCO GROB

ティ・チャラの護衛部隊「ドーラ・ミラージュ」は、米国のシークレットサーヴィスやネイヴィーシールズに相当する部隊だ。その装備は、王室の威厳と戦いやすさを兼ね備えている必要がある。

首のリングは、戦士を守ると同時に階級を表している。ビーズで飾られた甲冑は、ドーラの兵士たちが自分の娘へと引き継いでいける家族のお守りとしての役割も果たす。カーターのデザインは、東アフリカに住むマサイ族のビーズ飾りがベースとなっている。

武器

PHOTOGRAPH BY MARCO GROB

ワカンダが誇る最先端技術の作品はすべて、ひとりの女性の手によるものだ。その女性とは、ワカンダ・デザイン・グループの責任者であるティ・チャラの妹シュリ(レディーシャ・ライト)である。「シュリは『アイアン・マン』の主人公である天才科学者トニー・スタークやイーロン・マスクのような存在です」とクーグラーは言う。

彼女がつくる甲冑手袋は、ヴィブラニウムの力を利用して、相手に脳しんとうを起こさせる超音波を発する。だが、最高にクールな傑作といえば、ハイテクのリング型ブレードだろう(下の画像)。ルピタ・ニョンゴ演じるナキアが見事な溶接で仕上げたものだ。

PHOTOGRAPH BY MATT KENNEDY

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TEXT BY ANGELA WATERCUTTER

TRANSLATION BY MIHO AMANO/GALILEO