シャワーの最中にものすごいインスピレーションが降りてきた! 誰にでもこんな経験、あるのではないでしょうか。でも、浴室を出てからそのアイデアを思い出せますか? うまくいく時もあれば、ダメな場合もあるのでは。そもそも、どうしてシャワーの中だと、インスピレーションを得やすいのでしょうか。この記事ではそのメカニズムを確認し、ひらめきをほかの場面でも起こせないか、可能性を探っていきます。

なぜ、ひらめきはシャワーの中でやってくる(ような気がする)のか

そもそも、なぜいつもシャワーを浴びている時に限って、ものすごい天啓を受けてしまうのでしょうか。端的に言えば、シャワーは瞑想と同じ...は言いすぎにしても、シャワー中は瞑想に近い精神状態になりやすいからです。というのも、浴室での行動はルーチン化しているので、体がその動作をこなしている間に、心は自由に遊んでいられるのです。それに、シャワー中はリラックスできます。この2つの相乗効果に、脳内物質の影響が加わると(ちなみに、シャワーを浴びると良い気分転換になるのは、この脳内物質のおかげです)、アイデアがどんどん湧き出てくる完璧な環境が整います。

瞑想に近いこの状態のことを、心理学の分野では「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」と呼びます。「Wired」のNick Stockton氏は次のように説明しています

思いもよらないアイデアを思いつく理由に関する実験は、まだあまり行われていません。しかし、このような発想を促進する精神状態を説明しうる理論が、心理学分野には存在します。デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)というものです。

この状態の時は「周囲のことには関心が向かなくなり、内面の考えに関心が傾きます」と、フィラデルフィアにあるドレクセル大学で創造性と注意の分散について研究している心理学者のJohn Kounios氏は説明します。

(この精神状態になりやすい、入浴、長距離ドライブ、散歩といった)活動の共通点は、肉体または精神が活性化されているものの、その度合いはさほど高くないということです。また、退屈せずに続けられる程度には、慣れていて気楽にできる活動でなくてはいけません。また、意識の流れが途切れてしまわないよう、活動をある程度の長さで続けることも必要です。

Kounios氏によると、私たちの脳は基本的に、物事を周辺の情報と一緒に整理しています。窓は建物の一部分、星は夜空にあるといったように。アイデアはこれらが相互に混じりあって生まれるものですが、何か特定のタスクに集中していると、考え方が一方向に固定されてしまいがちです。

要するに、タイミングと雰囲気さえ揃えば、毎日目にしているものでさえ突如として、斬新かつ新鮮なアイデアのヒントを与えてくれることがあるのです。ライフハッカーでは以前にも、この点を取り上げた短い記事を取り上げていますが、これはLeo Widrich氏が「Buffer blog」で同じ話題を取り上げていたのを参照したものです。

Widrich氏の説明によれば、私たちの脳がこうした瞑想状態になり、インスピレーションを受けやすくなるのは、脳内物質が出て、注意が分散し、リラックスしているという3つの条件が揃った時なのだそうです。

もう1つの必須要素は注意の分散だと、ハーバード大学の研究者であるShelly Carson氏は言います。

「言い換えると、注意が分散されることで一休みする余地ができ、その結果、無意味な解決策への固執から解放される場合があります」。

とりわけ、特定の問題に真剣に取り組んで長い1日を過ごしたあとにシャワーに飛び込んだ場合は、専門用語で言う「アイデアのインキュベーション(孵化)期間」が始まりやすいのです。潜在意識はそれまでにも、直面する問題の解決のために熱心にはたらいていました。ひとたび心を自由に解き放つと、その意識が浮上してきて、できあがったアイデアが顕在意識に植えつけられることがあります。

さて、ドーパミンの放出を受け、さらにシャワーや料理のようなきわめて反復的なタスクによって簡単に注意がそれるようになったなら、クリエイティブな状態になるためにきわめて重要な最後の条件は、心がリラックスしていることだとJonah Lehrer氏は言います。

「クリエイティブなひらめきを得るうえで、心がリラックスした状態であることがそこまで重要なのはなぜでしょうか。心がくつろいでいる時(つまり、脳の中で例のアルファ波がさざ波を立てている時)は、注意のスポットライトが内面に向かいやすくなります。右脳から出ている遠隔連想の流れに注意が向くようになるのです。これとは逆に、何かに真剣に集中している時は、注意は外側に、解決しようとしている問題の細部に向かいがちです。こうした注意の形も、問題を分析して解決すべき時には必要なのですが、(物事の隠れた)関連に気づくという、ひらめきにつながるプロセスにとっては妨げとなります。

「だからこそ、物事の本質に気づくのはシャワーの最中である場合が多いのです。多くの人にとっては、それは1日のうちでもっともリラックスできる時間ですから」と、Joydeep Bhattacharya氏も言っています。湯で体がほぐれて、メールチェックもできない状況に置かれてようやく、頭の奥で物事の本質を語っている静かな声に耳を傾けられるようになるのです。答えはすでにそこにあったのですが、注意が向いていなかっただけなのです」。

Widrich氏はこの記事の続きで、覚えておくべき重要な点を指摘しています。このようにリラックスできて、内省によるひらめきを得られるのは、何もシャワーの最中だけではない、ということです。リラックスして、集中が分散していて、精神的に良い状態にあればいつでも、良いアイデアが出ておかしくないのです。人によっては、料理や掃除の最中に瞑想に近い状態になるかもしれません。帰省のための長距離ドライブ中に何かを思いつく人もいれば、飛行機の中でほかにすることがなくて...という人もいるでしょう。

こうしたアイデアを思いつきやすい条件を自覚しておくことは、必要な時にいつでもひらめきを起こせるようにするための第一歩です。

シャワーを浴びずにひらめきを得るには

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ひらめきに必要な半瞑想状態がどのようなものかを理解すれば、心を自由に遊ばせられる状況を作り出すのが少しは簡単になります。もちろん、ブレインストーミングが必要な時にいつでもシャワーに飛び込むという手もあるでしょうが、そんなことを仕事の最中にできる人は限られています。瞑想と同じような「心の一休み」につながる、ほかの方法を探してみましょう。

例えば、気分転換にちょっと散歩してみるのも一法です。在宅ワークをしているなら、ちょっと掃除でもすれば考える余裕ができるかも。ぼんやり空想の世界に遊ぶのも、脳にとって良いことです。いずれにせよ、決まった時間ごとに仕事を離れてきちんと休憩をとるのは、やる気とクリエイティビティを保つうえで必要不可欠。根を詰めて考え込んでいる問題からちょっと離れる機会を得て初めて、脳はその問題に斬新なアプローチで取り組めるようになるのです。

WiredのStockton氏はこう説明しています。

(前略)特定の問題に取り組んでいる時、脳は1つか、せいぜい2、3の戦略に固着しがちです。Kounios氏はこの状態を、精神の車輪が「わだち」にはまり込んだようなもの、とたとえています。「でも休憩をとれば、こうした思考のパターンに支配されることはなくなります」。問題はいったん精神のわだちを離れて、頭の中にあるほかのアイデアと混じりあいます。そうするうちに、しっくり噛みあうアイデアが見つかって、解決に向かって一気呵成に動き出すのです。この過程を「固着の忘却」と呼びます。

シャワーでの思いつき」は、特定の問題にいつも付随するわけではありませんが、固着の忘却は、Kounios氏のような心理学者にとって、捉えどころのない天啓のカクテルを理解する手がかりになります。

脳がどのようにして、うまく噛みあうアイデアを決めているのかは、よくわかりません。ただ、脳が自由に遊べている時ほどうまくいくのは間違いありません。研究によると、前向きな気分の時のほうが、脳はクリエイティブな発想のネットワークを大きく形成できることがわかっています。不安にさいなまれている時はクリエイティビティを発揮しづらいので、これは腑に落ちます。

このことは、瞑想をしてもブレインストーミングがうまくいくとは限らない原因の一部でもあります。たしかに、必要な時に心を鎮める方法はいくつもありますが、世に溢れる瞑想法が目標としているのは「ブレインストーミングしやすいように心を空っぽにすること」ではなく「心を空っぽにすること」そのものなのです。ブレインストーミングのためには、瞑想ではなく「適度に脳を活性化させるけれども、心を完全に没入させる必要はない」程度の活動を見つけなくてはいけません。

上記のような精神活動にまさに当てはまっているのが、シャワーを浴びる行為だというわけです。しかし筆者は、掃除機をかける時も似たような精神状態になると気づいたそう。皿洗いや洗濯をこなすのも、好きな仕事ではないけれど、同じような気分転換になるようです。半瞑想状態になるための時間を利用して、やろうと思いつつ後回しにしていた作業(壁の塗りかえや芝刈り、ハイキング、街中での長時間ドライブなど)を片づけてしまえるなら、一石二鳥です。「クリエイティブになれる時間」を少しでも多く確保したいのなら、「何かをこなしつつ、100%集中する必要はない」という条件を満たすものなら、何でも試す価値があります。

時間帯も関係します。脳に効くメディア「Mental Floss」によると、早朝や深夜など、疲労のせいでボンヤリしている時にはアイデアは生まれにくいそうです。そのおもな理由は、こうした時間帯には疲れて焦っているから。それよりも、夕方や日中の休憩時間、仕事が終わってすぐなどがオススメとのこと。

アイデアが降りてきたら、いつでも捕まえられる態勢を

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こうしてインスピレーションを得られそうな機会を探し求めるのには問題点もあります。機会をお膳立てしようとするあまり、その狙いが台無しになる、というのも問題のひとつ。要するに、普通にしていれば「精神の一休みタイム」になるところを、「精神の活動タイム」に変えようとするあなたの意図を、脳が察知してしまうのです。これではアイデアも降りてきません。散歩にノートを持ち歩くようにしてからあまりインスピレーションを得られなくなった気がするという人は、これが原因かもしれません。降りてきたアイデアを捕まえるというのは、もう少し複雑なことなのです。アイデアを記録しやすくするのも必要ですが、ノートを持っていることを脳に意識させないために、ちょっと策を弄さなくてはいけないのです。

まず、ノートを視界に入れないようにし、散歩に行く時はノートに注意を向けないようにしましょう。普段は手ぶらで散歩に行くのなら、ノートを持ち歩くためだけにカバンを用意するのはやめておきましょう。それより、ポケットに入るサイズのノートを探して、ノートのことは意識しないようにしましょう。シャワーの中でアイデアを得やすい人は、以前の記事でも紹介した、この素晴らしい防水メモパッドを手に入れましょう。その場合も、メモパッドを固定しておくのは、シャワーの壁の、普段は見ない側にしておくと良いです。

肝心なのは、瞑想状態に至るプロセスをできるだけ簡単にしておくこと。そうでないと、脳は「するべき仕事がある」と思い込み、ついにインスピレーションが降りてきても、それに気づけなくなってしまいます。思い出してください、「アイデアは、注意が分散して精神がくつろいでいる時にやってくる」のです。脳にタスクを与えてしまうと、このプロセスの妨げになりかねません。そのタスクがたとえ「インスピレーションを捕まえる」というものであっても。

最後にもうひとつ!

ひらめきの訪れる瞬間をできるだけ増やそうという努力はもちろん大切なのですが、クリエイティビティとは「プロセス」なのだと肝に銘じておきましょう。一朝一夕にできるものではありません。インスピレーションの源となる経験、解決すべき問題、精神の車輪が回り出すための最初の一押し...などが必要です。時には、とりあえず舞台に上がって動いてみて、インスピレーションが訪れるまで放っておくことも必要です。

これらのアドバイスを活かして脳を手なずけ、必要な時にいつでもクリエイティブな思考に没入できるように、かつインスピレーションが訪れた時にはそれを最大限に活用できるようになれば理想的です。問題のまっただ中に飛び込んで、手当り次第に取っ組みあいをしても、どうにもならない局面もあります。繰り返しますが、ひらめきを得ようとして躍起になればなるほど、うまくいかなくなるものです。ちょっと休憩したり、ほかのことをしたりしていれば、そのうちインスピレーションがやってくるかもしれません。それをうまく活かせるよう、備えを万全にしておきましょう。

Alan Henry(原文/訳:江藤千夏/ガリレオ)

Title photo made using Blan-K (Shutterstock), Malinka1 (Shutterstock), and Miguel Angel Salinas Salinas (Shutterstock). Additional photos by Steven Depolo, Benjamin Linh VU, and Emma Larkins.