今日の映画 – 記者たち 衝撃と畏怖の真実(Shock and Awe)

Shock and Awe

映画レビュー

つい最近観たばかりの映画「バイス」の後1/3を別の視点から見たような映画。確実な証拠もないまま「大量破壊兵器を開発、保持している」という”言いがかり”を付けてイラク戦争を仕掛けたアメリカ政府を裏側を見せたのが「バイス」なら、外部の報道メディアからの視点で見せたのがこの映画。

ジョージ・W・ブッシュ、チェイニー、ラムズフェルドなどの実在の人物と彼らが果たした役割を「バイス」で予習していたので分かりやすかった。逆に、映画はドキュメンタリー映像を交えて快調なテンポで進んでいくので、事前の予備知識が無かったら付いていくのはしんどかったかも知れない。

映画の舞台は「ナイト リッダー」というニュース配信会社のワシントン支局。アメリカの新聞社は日本と違って全国紙はUSA Todayだけで、その他は全て地方紙。規模の小さな地方紙の取材力には限界があるので、ナイト・リッダ-は取材して作った記事を傘下の複数の新聞社へ提供する会社だったようだ。この映画で取り上げているのは2003年のイラク戦争の前後だが、ナイト・リッダ-は2006年に他社に買収されてその歴史を終えている。映画の中でも、記者たちはワシントン・ポストやニューヨーク・タイムスに対してコンプレックス色の強いライバル心を持っているようだったから、メディアの序列という面では弱小だったと思われる。

「バイス」では、自分の都合で事実を捻じ曲げてイラク戦争へと走り、結果としてイラク国民、アメリカ軍兵士がそのツケを払わせたアメリカ政府とその関係者に対する批判が根底にある。この映画は、それに加えて、アメリカ政府のフェイク発表をそのまま真に受けて裏も取らずに報道したニュースメディアに対する痛烈な批判、さらにその報道を真に受けた我々一般人への警鐘が込められている。たしかに、当時は日本のニュースを見聞きしてサダム・フセインは大量破壊兵器を持っているのだろうくらいに思っていたので、メディアの影響力は改めて恐ろしいと思う。

原題の「Shock and Awe」はイラク戦争のアメリカ側の作戦名。日本では「記者たち~」という邦題でウッディ・ハレルソンとジェームズ・マースデンの記者コンビをフィーチャーしているが、アメリカのポスターでは、編集長役でこの映画の監督も兼ねているロブ・ライナー、伝説の記者としてええとこどりしたトミー・リー・ジョーンズとの4人が並んでいる。ゲスト的なトミー・リー・ジョーンズはさておき、存在感があったのはロブ・ライナー。

ホワイトハウスの悪さを新聞記者が暴くという点では「大統領の陰謀」を連想し、比べてしまう。事実に基づいた映画の宿命で、ニクソンを辞職に追いやるのと、大量破壊兵器が見つからなくても任期を全うしたブッシュとの違いで、インパクトの面では「大統領の陰謀」に及ばないのは致し方ない。アメリカ映画には大作ではないが、社会的正義をテーマにした程々のサイズの映画が伝統的に作られ続けている。この映画も人気リストには入らなくても、記憶に残っていく映画かなと思う。

予告編

2019年に観た映画

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