この企画では、千葉県・鴨川シーワールドで生活する生き物たちの出産・子育てを、飼育員が詳しく解説します。4回目は「イルカ」。今回は、ショーで活躍するイルカに技を身につけてもらうトレーニング方法について、高見汐里トレーナーに教えてもらいます。

自然界での動作を導き出していく

トレーニング中のイルカたち

ダイナミックなジャンプやスピーディーな身のこなしで人気を博しているイルカショー。ショーでの演技は、もともと自然界で行っていた動作を、トレーニングによって導き出したものです。トレーニングは、"オペラント条件付け"と呼ばれる原理にのっとって行い、良い行動をしたらエサを与え、最終的にサインによって動作を行うように指導していきます。

徐々にボールの高さを上げていく

例えば、高さ5mのボールめがけて飛び上がるハイジャンプのトレーニングは、イルカの口先にボールをタッチし、OKの合図の笛を吹くという行程を繰り返すというもの。これにより、ボールにタッチすれば良いとイルカが理解すれば、徐々に高さを上げたボールめがけて、ジャンプするようになります。

他の動作も教えながら、約1~2週間でハイジャンプは完成しますが、宙返りなどの複雑な演技は、数週間を要することもあります。

仲間と共にダイナミックなハイジャンプ!!

子どものイルカは母親から技を覚える

言葉の通じない動物たちに演技を教えることは、とても大変です。トレーニングが行き詰まることもありますが、その原因のほとんどがトレーナー側にあり、簡単な演技でも教えられないことがあります。トレーナーの意図がイルカに正しく理解されているか、常に注意しなくてはなりません。

しかし中には、仲間の動きをまねして技を習得するイルカもいます。特に子どものイルカは、母親の動作のまねをして一緒にジャンプをしたり、回転や逆立ち尾びれ振りをしたりするなど、好奇心旺盛。覚えたての動作を自慢するかのように、トレーナーの前で何度も披露したり、黙々と宙返りの練習をしたりする頑張り屋のイルカもいるのです。

健康管理にトレーニングが奏功

適度な運動にもなるトレーニングは、イルカたちにとって良い刺激になるばかりか、体温測定や採血、身体測定などの健康管理にも役立っています。これまで検査を行う時は、プールの水を抜き、動物を担架でクレーンにつり上げる方法をとっていました。

腹部を水面に上げてもらうことで、直腸の温度を測ることもできる

しかし今では、イルカたちに腹部を水面に上げてもらうことで、直腸の温度が測れます。尾びれを持たせてもらうことも、設置された体重計に自ら乗り上がってもらうことも可能となり、採血や体重測定もスムーズに進むようになりました。

尾びれを持たせてもらうことで、採血が可能となった

このように、イルカたちの健康診断やショーができるのも、トレーナーとの信頼関係があるからこそ。日々の付き合いを大切にし、謙虚な気持ちをもってこれからもトレーナーとしての腕を磨いていきたいです。

筆者プロフィール: 高見汐里

鴨川シーワールド海獣展示二課所属。2010年の入社で、現在はイルカトレーナー7年目。