中国がダム建設再開へ圧力 苦境に立つミャンマーのスー・チー氏

ミャンマー北部で中国が進めるミッソンダム建設予定地。完成すれば、観光名所でもある周辺地域は、対岸のこの茶店を含め水没する(吉村英輝撮影)
ミャンマー北部で中国が進めるミッソンダム建設予定地。完成すれば、観光名所でもある周辺地域は、対岸のこの茶店を含め水没する(吉村英輝撮影)

 ミャンマーで、隣国の中国が進めるダム建設の再開をめぐり、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が苦境に立たされている。民主化運動指導者として住民のダム反対運動を支援してきたが、新政権にとって中国は少数民族との和平で協力が不可欠。両者の間で板挟みになっている。

 北部カチン州の州都ミッチーナから車で約1時間。山間部を抜けると、2本の渓流が合流する景勝が眼下に広がった。ミャンマーを北から南に縦断する大河イラワジの始点となるミッソンには近年、中国からも国境を車で越えて多くの観光客が訪れる。

 対岸の山肌が、削られ赤く露出していた。周囲は掘り返され、澄んでいた川の水は濁っていた。茶店を経営し20年という女性は、ダム建設予定地への道路掘削工事跡だと教えてくれた。「中国企業は『調査』というが砂金採取が目的。賄賂を受けた地方政府も取り締まらない」と吐き捨てた。

 ダムが完成し水位が上がれば、約40軒の茶店とともに観光名所は水没する。多くの住民は移住したが、女性は「代替地は不便で商売もできない。本当に完成したら立ち退き料も上がる」と居座った。

 ミッソンダムは2010年に着工した。06年、欧米の制裁下にあったミャンマーの旧軍事政権が、蜜月を深めた中国との共同建設に合意した。総事業費は36億ドル(約4200億円)。原子力発電所6基分相当の600万キロワットを発電し、9割を中国に輸出する計画だった。だが、民政移管完了から半年後の11年9月、テイン・セイン前大統領は、国民の批判を理由に、工事の中断を突然発表した。

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