SECRET GUYZ

インタビュー:SECRET GUYZ

セクシュアリティの多様さをエンタメで認知。FtMアイドルの挑戦

テキスト:
Time Out Tokyo Editors
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タイムアウト東京 > LGBT > インタビュー:SECRET GUYZ

テキスト:ヒラマツマユコ(ライター)
 

2016年11月30日に6枚目のシングルを発売し、12月1日には初のワンマンライブを渋谷で成功させたFtM(Female to Male)アイドルグループ「SECRET GUYZ(シークレットガイズ)」。2017年4、5月には日本ツアーの開催も決定した。メンバーは、吉原シュート、諭吉、池田タイキの3人。今回は、そんな精力的な活動を展開中の3人に、LGBTを広く知ってもらうための活動について、ららぽーと豊洲にて行われたリリースイベントの合間に話を聞いた。

―LGBTひいてはFtMトランスジェンダーの認知度を上げるための活動として、日本の「アイドル」という職業を選んだ理由は何ですか。

諭吉:歌って踊るエンターテインメントで観客を沸かせる「(日本の)アイドル」の、「目に見えること」の分かりやすさが重要だと思っているからです。

タイキ:たとえば、「オネエ」と呼ばれる方たちは、タレントとしてテレビ番組へ出演したり、日本ではすでにかなりの認知度があって、発信する手法を持っています。ですが、FtMという存在はまだその段階に至っていない。エンターテインメントの面白さでまず存在を知ってもらって、後からFtMである僕たちを認知してもらうというか。人々の笑顔を作る仕事である「アイドル」を選んだ理由はそういったことですかね。

―エンターテインメントの楽しさや面白さを全面に出すことで、LGBTについて知ってもらうための入り口になれば、という意識なんですね。

諭吉:そうですね、深刻になってしまうのは避けたいんです。「(FtMを)どういう風に扱っていいか分からない」となってしまうのは本末転倒なので。日本のメディアではまだ前例が少ない、要するに「得体の知れない存在」だから、僕たちが先頭を切っていこうとしているわけです。そういうスタート時点で重たい印象を与えたくないんです。そのための「アイドル」なんじゃないでしょうか。

シュート:「アイドル」は日本では本当に浸透している文化なので、誰にでもウケやすい存在です。そのジャンルにSECRET GUYZが入るということは、すでに開かれた入り口に僕たちがいるということ。だから皆も入って来やすいんじゃないかと思っています。

SECRET GUYZ
吉原シュート

諭吉:「FtMである僕たちにもできるんだぞ」っていうのを見せられたら、という想いで活動しています。

タイキ:今日のようなリリースイベントのように、ショッピングモールでライブをすることがあるんですが、いつも小さなお子さんたちがノリノリで踊ってくれるんですよ。きっと僕たちのセクシュアリティなんて関係なくて、FtMだから応援してくれてるわけじゃない。それはすごく嬉しいことです。なので、最近は「自分たちがトランスジェンダーであること」をあえて前面に出すということは、あまりしていません。エンターテインメントに徹することが入り口としての役目でもあるのかなあと。

―以前『スポニチ アネックス』のインタビューに答えていらっしゃるのを拝読したのですが、「当事者ファンが少ないこと」について言及されているのが印象的でした。その点について、もう少し掘り下げてみたいのですが、単純に寂しさみたいな想いはおありですか。

シュート:そうですね、寂しさを感じないといったら嘘になりますが、たとえば、某国民的アイドルグループだって、日本では知らない人がいないと言っても過言ではないですが、皆が皆、彼女たちのことを「好き」かと言うと、そんなことはないですよね。

タイキ:だから、やはり「アイドル」である僕たちのことを、とにかく存在だけは、名前だけは、知っていてほしいという想いがあります。もちろん応援してくれたらすごい嬉しいですけど、まずは知ってもらうことからですね。

―当事者の方たちにも、まずは認知してもらいたいということですね。実は今日のイベントで、SECRET GUYZのグッズではない(ロゴの入っていない)自前のレインボーフラッグを持っている方をお見かけしました。当事者ファン、もしくはLGBTやセクシュアルマイノリティに元々関心があった方が、応援していることが伝わってきて、思わず私が嬉しくなってしまいました。

諭吉:見てますね~!(笑)

―先日のワンマンライブに遊びに行かせていただいた際には、フロアで無数のレインボーフラッグが振られている光景に感動を覚えました。まさか「(日本の)アイドルのライブ」というセクシュアルマイノリティとは縁が薄そうな空間で、そんな光景が見られるとは思ってもみなかったので。

諭吉:ありがとうございます。そうなんですよ!本当にSECRET GUYZがLGBTについて知るきっかけになったと言ってくれる方も、少しずつですが確実にいて、入り口として機能している実感が徐々に得られています。これから、どんどんそういった子たちと一緒に「虹の架け橋」を建設していきたいです。今年(2016年)は、東京レインボープライドなどのイベントにも出させていただいたんですけど、特にセクシュアルマイノリティ系のイベントは、これまで縁のなかった方にとっては現場に行かないと分からないことが多いじゃないですか。雰囲気など、何もかも。なので、僕たちのライブを見に来るつもりで、そういう場に足を運んでもらえるだけでも、すごく意味があるんじゃないかと思います。

SECRET GUYZ
諭吉

―確かに、そうですね。ただ一方で、私はトランスジェンダー当事者というわけではないですが、フェミニズムやクィアなことについて考える機会が多かったり、取材をした経験が多少あって、正直にお話しすると、SECRET GUYZのPVを見たときにいくつか気になるところがありまして……。たとえば、『SKY MARCH』で、ジェンダー差の象徴ともとれてしまう「学生服」の人たちでバックが埋め尽くされたり、『私のカレーは世界一』ではカレーを作る主婦風な人たちの大多数が女性であったり、どうしてもそういうことが気になってしまうんです。そういったPVのキャスティングだったり、ほかにも曲の歌詞だったり、制作サイドにはどれくらい3名の意見が反映されているんですか。

タイキ:気になる例として挙げてくださった2曲のほかにも、実は僕たちの曲、特にPVを作成しているシングルのタイトル曲のほとんどには裏テーマみたいなものがあります。

諭吉:例に挙げてくださった、制服姿の子たちがたくさん登場する『SKY MARCH』は、未来の希望について歌っている曲です。なので、「未来を担う存在」の象徴として広く一般に分かりやすい「学生服」を身に着けた学生さんたちに登場してもらい、レインボーフラッグを振ってもらいました。それは僕たちのリクエストによるものです。

タイキ:カレーを題材にした『私のカレーは世界一』も質問のたとえに挙げてくださいましたが、この曲では、今もなお男女間の格差やセクシュアルマイノリティに対する差別が厳しい一国であるインドの情勢に対して、インドの伝統的な民族衣装(を意識して作られた衣装)をFtMの僕たちが纏って踊ることで、反発するというか、立ち向かうようなメッセージを込めたつもりです。それも僕たちの意見が反映されています。

―そうだったんですね、ありがとうございます。ちなみに、少し個人的な切り口になってしまいますが、たまたま親しい知人でFtM(tX)トランスジェンダーの子がいて、最近話す機会があったのでSECRET GUYZの印象を聞いてみたところ、「応援したい気持ちはあるけれど、見ているのがちょっとしんどいかも」と話していました。それにはアイドルという職業自体に、性を消費されるようなイメージが強いせいもあると思います。その点、むしろご自身たちもSECRET GUYZを始めるときには、相当勇気が要ったのではないかと思いますが、いかがでしたか。自ら消費されに行くような感覚もあったのでは?

諭吉:僕は元々吉本に所属して芸能活動をしていたし、シュートも舞台などに立つ人間だったけど、タイキはSECRET GUYZを始めなかったら、周りに公表して生きていくつもりとかなかったよね。

タイキ:そうですね、声をかけてもらわなかったら、本当になるべく周りに言わずに生きていく道を選んでいたと思います。でも、結局1周回って原点に戻ってきちゃうっていうか、やっぱりジェンダーの葛藤とか、色々あっての今の自分なので。その自分が、誰かを元気付けられるとか、誰かに応援してもらえるということで、今は逆に元気をもらっています。以前、実際に当事者の方で、「自分はSECRET GUYZの活動を心からは歓迎できない気持ちがあります。それでも、応援してます」と言って握手をしてくれた方がいました。そうして会いに来てくれたことがすごく嬉しかったし、その言葉で僕たちがひるんじゃだめだなと思って、すごく奮い立たせてもらいました。

SECRET GUYZ
池田タイキ

諭吉:やはりセクシュアリティやジェンダーのことに限らず十人十色、いろんな人がいますから、あらゆる批判的なご意見もあって当たり前。どれも間違いじゃないですし。反対意見があるからこそ、議論になるし、考えてもらうきっかけにもなります。それは感謝するべきことだと思っていますね。

シュート:こう言うとちょっと語弊もあるかもしれませんが、批判的な意見もあるからこそ、逆にちょっと知名度が上がってきた実感とかもあって、ある種の嬉しさもあります。出る杭は打たれるじゃないですけど、芸能の世界なんて売れれば売れるほど叩かれるみたいなところもあるじゃないですか。「叩かれるくらいには、知ってもらえてるんだな」とも思えますね。

―それでは最後に、今後の展望というか、これから展開したいことのイメージなどあれば教えてください。

シュート:次のステップとしては、今のこの僕たちの活動って間口を広く設けているつもりなんですが、それでも「最初の一歩」が踏み出せないという声が寄せられるので、もっと気軽に来れるライブなど、環境作りについて考えています。「ネットとかでは見ていて、気になっているんだけど、一人でライブに行くにはあと一歩踏み出せない」みたいな子がすごく多いんです。そういう意見があるのは、「僕たちがFtMトランスジェンダーだから」なのかどうかは分かりませんが、少なからず、そういうマイノリティ性が来づらさに影響することは、どうしてもあると思います。でも、もちろんそのこと自体をどうこうするのではなくて、僕たちがやっているエンターテインメントの魅力で、そういう子たちもどんどん来れるように、もっと来たくなるように、頑張っていくしかないですね。

諭吉:そういった想いとともに、やはりずっと掲げ続けてきた「両国国技館」でのライブ、実現させたいですね。

シュート:もう行きましょう!

―もういっそ土俵に上がっていただきたい勢いです!

諭吉:もう相撲とっちゃいますか(笑)。それこそ色々話題になるでしょうね。

―そういう意味での「国技館」なんですよね。基本的には女人禁制であるという(両国国技館では既に女性プロレスや女性アーティストのコンサートなどが行われた前例はあるが、SECRET GUYZはあえて女人禁制であった歴史を意識した上でライブを行いたいと目標を掲げている)。

諭吉:そうですね。それももちろんありますし、あとはシンプルに、大きなステージに立つことで、まだまだ自分を出せずに苦しんでいる皆の、教科書のようになりたいという想いもあります。

―確かにSECRET GUYZを見て、初めて自分が苦しんでいたことの理由に気が付いたりする人もいるかもしれませんね。可視化されていることで、「こういう人たちがいるんだ」「自分ももしかしたら」と思えるというか。小学校とか、そういうすごく狭い世界にいると、なかなかそもそも気付けないということもあり得ますし、多く人の支持を集めている「アイドル」が、自分と一緒だと思えたり、似ていると思えたりすると、気付くきっかけとしてとてもポジティブで素敵ですね。

諭吉:そうですよね。だから、結果論でいくと、本当に僕たちは革命を起こさないといけないんだと思います。先頭に立って、それをやっていくつもりです。

―そういえば、たった今思いついてしまった質問なんですが、たとえば、紅白のオファーが来た場合って、どうしますか。

3人:あ~(笑)。

諭吉:い、つ、も、は、僕たち「桃組」って言ってるんですけど、そこはもうー……。

3人:白組で!!

諭吉:ね。白組で行きたいです。それはもう、僕たちが白組で舞台に立てたら、それこそすごい意義のあることですよね。

―そうですね。せっかくですからぜひ行っていただきたいです。楽しみにしています。

諭吉:せっかくですからね(笑)。もう行っちゃいましょう! いやー、本当思いつきでいい質問、ありがとうございますー(笑)。

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