成功を手にし、サポーターのアイドルとなって、2010年ワールドカップでドイツ代表正GKを務める夢をつかもうとしていたのに、なぜ彼は電車に身を投げ、自ら命を絶ってしまったのか? なぜ、ハノーファーGKロベルト・エンケは自殺したのだろうか? スポーツ界だけでなく、ドイツ全体がそう疑問を投げかけている。

おそらくその答えは、彼が家族に残した遺書のなかに書かれているだろう。その内容は明かされていない。13時(現地時間)からハノーファーのクラブオフィスで開かれる記者会見で、おそらくは悲劇の詳細がいくつか明らかになると見られる。一方、12時30分から予定されていたドイツ代表の記者会見は延期された。

ドイツ代表のヨアヒム・レーヴ監督は11日、喪に服して予定されていた練習をキャンセルした。さらに、14日に予定されているチリ代表との親善試合を中止する可能性も浮上している。ベルリンの壁崩壊20周年を祝った翌日、ドイツは痛みと苦悩とともに目を覚ますことになった。アンジェラ・メルケル首相も未亡人に手紙を送り、エンケの死に対して哀悼の意を伝えている。政府が明かしたもので、「手紙は非常にプライベートなもので、その内容は明かされてはいけない」という。

ハノーファーの警察による記者会見では、エンケの死が自殺だったことが確認されている。エンケは通常どおりにハノーファーのGKコーチと練習をしたあとに、家へ帰らなかった。代理人が携帯電話で長いこと連絡をとったものの、応答はなし。代理人は「心配して、テレザ夫人を探しに行かせ、私は警察に知らせた」と話している。

もっとも彼の傍にいた人たちですら、彼が幸せでなかったことを知らなかったのは明らかだ。ドイツ『ビルト』によれば、エンケは以前から精神療法を受けていたという。チームドクターは「2日前にかなり話をした。私は彼に、患っていた感染症はもう大丈夫だと言った。彼は何も言わなかったし、精神的な問題を抱えているとは分からなかった」とコメントしている。

事故発生を受けて警察がすぐにテレザ夫人へ知らせると、夫人は現場へ向かったが、夫の遺体を見てショックを受け、病院へと運ばれた。週刊誌『フォーカス』の電子版は、2003年にエンケが残した言葉を伝えている。

「さらに不幸せになりかねない状況になる前に、完全に決着をつける方が良い」

エンケとテレザ夫人は06年、当時の2歳の長女ララちゃんを心臓の病気で亡くしている。夫妻は5月、現在8カ月となるレイラちゃんを養子として迎えたが、長女を失った痛みは埋まっていなかったのだろう。エンケが自ら命を絶った場所は、長女レイラちゃんが埋められた墓地の近くだった。