「サムライブルー」。気がつけば最近、サッカー協会は、この言葉を公式に使い始めている。「南アフリカvsサムライブルー」。「サムライブルーメンバーの中村憲剛が怪我のため不参加となり.興梠慎三選手を追加招集することが決定しました」等々、プレスリリースにも日本代表に代わる言葉として使われている。メディアに対して積極的な使用を、無言で促しているわけだ。

「サムライブルー」は、2006年ワールドカップに臨む日本代表のキャッチフレーズとして生まれた言葉。しかし、ドイツワールドカップ終了後は、すっかり聞かれなくなっていた。賞味期限は終了したものと思っていた。
 良いイメージを抱かせる言葉ならともかく、実際は、できれば思い出したくない言葉になる。それはそのままジーコジャパンの戦いを彷彿させるからだ。

「サムライ」らしさ、言い換えれば武士っぽい格好良さは、そこに少しも感じられなかった。初戦でオーストラリアに1−3で敗れた瞬間、「なーんだ」と、失望した人は少なくないはずだが、「サムライブルー」なるバブルっぽいネーミングも、それに輪を掛けたことは間違いない。薄っぺらさを露呈させる結果になった。

 案の定、日本のサッカー界は、「サムライブルー」の敗戦を機にすっかり冷え込むことになった。これをもって、サッカーバブルは完全に崩壊した。浮ついたムードは一掃されることになった。

 そのバブルの象徴とも言うべきキャッチフレーズが、ここに再び登場したのである。流行遅れの言葉、もはや死語だと思っていた言葉、好ましくないイメージが染みついた言葉を、いま、あえて持ち出すセンスに疑問を感じる。バブル社会をイメージさせるキャッチコピーに難あり。時代の空気が読めていないんじゃないのと言いたくなる。

 夢をもう一度、バブルをもう一度。いまの日本経済には一切期待できない夢を、サッカーに求めようとしたいのだろうけれど、それが読めるだけに「さむーく」なる。

 岡田サンの「ベスト4」発言も、誰かに言わされているんじゃないかと、勘ぐりたくなる。サッカーにあまり詳しくない人に、関心を向けさせるためには、ベスト16ではダメだ。グループリーグ1勝では、産業は拡大しない。景気を上向かせるためにはアドバルーンをぶち上げ、浮動票を取り込む必要がある。

 一方で、デカすぎる目標は、現実的な目標にならない。ノルマにもならない。サッカーに詳しい人は、狐につままれた状態だ。肯定もしないが、否定もしない状態にある。「ベスト4」は、相対的に見て、サッカー産業的にはメリットのある、美味しい発言に見えてくる。

 しかし、「サムライブルー」が南アワールドカップで、前回並の成績に終わったとすれば、再度、化けの皮は剥がれることになる。4年前と同じ状態を招くことになる。いや、それ以上の落ち込みが予想される。サッカーに愛想を尽かす人は大量に発生するだろう。

 薄っぺらで、嘘っぽい、誇大広告はやめましょうと僕は言いたい。誠実に、むしろ地味に、この際、商売は度外視していきましょうと。


 最後に、一つご報告。

 12月14日19時から、日本サッカー協会のサッカーミュージアム内の「ヴァーチャルスタジアム」で、徹底生討論を行います。お題は「2010年ワールドカップ、南アフリカを楽しもう」。僕もパネリストとして参加します。定員は200人。入場無料で先着順です。詳しい内容並びに応募はこちらから。現地観戦に少しでも興味がある方は、是非足を運んでみてください。