2010-01-11

不思議な映画を観た

「厄介な男・・からっぽな世界の生き方THE BOTHERSOME MAN(2006)」というヘンテコリンなノルウェー映画を観た。(ネタバレあり)





ある平凡な男が地下鉄に飛び込むところから始まる。暗転後、バスで荒涼とした場所に下ろされる。そこから大都会へ連れて来られるが、何か変だ。住まいや仕事から何から何まで与えてもらえる「理想的な」世界と思いきや。「欲望」は全て満たされているが、逆に欲望の対象がない、あるいは、何も求めてはいけない。しかし、何かが足りない。総じて言えば「生きている感覚」。何でもない食べ物の匂いや味、子どものはしゃぐ声、水辺の音など。女と関係しても感覚的なエクスタシーがない。セックスはいつでもOKだが、関係はいたって希薄。誰とでも関係するが一人に執着することは一切ない。つまり誰でもいい、だから自分を必要とする人がいない!この空虚感に絶望して地下鉄に飛び込む。冒頭の場面と同じ。


ところが死なない。死ねないらしい。同じ感覚の人間もいるらしい。その男のことが気になる。その男の地下にある部屋に押入る。いい匂いがする。懐かしい匂いが。壁から匂ってくるらしい。子どものはしゃぐ声も聞こえる。その発生源を目指して壁に穴を穿っていく。





やっと手が出せる穴ができる。突き出した手にサンドイッチが握られる。なんという美味さだ。男は貪り食う。しかしその時駆けつけた係官に逮捕される。そしてこの世界から追放される、というストーリー。


死後の世界とも考えられるし、北欧的福祉社会の究極の反ユートピアとも、はたまた「優しい」全体主義社会とも考えられる。「生きる感覚」がまったくない世界を提示し、「生きる感覚」を逆に意識化させられるという不思議な映画ではある。