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コラム
2024/05/22
関内外クリエイターズと公益財団法人横浜市芸術文化振興財団が主催する関内外OPEN!が、地域まちづくりに関して特に著しい功績のあった活動として認められ、「第11回 横浜・人・まち・デザイン賞〈地域まちづくり部門〉」を受賞しました。 15回の開催を重ね、都市における新しい地域との関わり方の可能性を示していること、また、クリエイターが集まっていることが地域の魅力の一つになっていることが評価されての受賞となりました。 また、活動を支援した団体として「関内まちづくり振興会」「関内桜通り振興会」も支援賞を受賞されました。今後も、魅力あるまちづくりのため、地域の多様な方々と協働できればと思います。  
コラム
2024/05/17
 BUKATSUDO×アーツコミッション・ヨコハマ共同企画として2023年度より始まった、視察交流体験プログラム「令和の横浜使節団」。まちづくり・デザイン・ものづくり・食文化等をテーマに、横浜の人々が他都市のヒト・コト・ハコ(場所・街)について現地への訪問と交流の中で学び、感じたものを横浜に持ち帰るプログラムです。  名前の由来は岩倉具視を全権大使とする、1871年に横浜港から出航した「岩倉使節団」。諸外国の優れた文化や技術を学び持ち帰った志や、旅立ちを支えた横浜の文化・背景を継承する、横浜の造船ドック跡地・BUKATSUDO発の学びの旅です。  2023年夏の第一弾に続き、2024年3月1日-2日に第2回を実施。訪問先は信州です。信州アーツカウンシルの全面協力の元、⾧野県で活躍する様々なジャンルの拠点や活動を訪問し、信州の文化活動や持続可能なまちづくりを視察しました。   1日目/上田市内を視察   旅の始まりは、長野県は上田市にある「犀の角」から。海野町商店街の一角にある、劇場/ゲストハウスを有する民間の文化施設です。演劇・音楽・アートなど様々な表現活動や地域住民・アーティストの交流の場として運営されています。 参加者の自己紹介やオリエンテーションからスタート。合間の昼食には上田グルメをご紹介いただき、歓談しながら現地の味を楽しみました。午後は見学に先立ち、上田の方々から取り組みを伺います。 信州アーツカウンシル ゼネラルコーディネーターの野村政之さんには、文化芸術を媒介に協働する協働するモデルなどをご紹介いただきました。信州アーツカウンシルの活動の柱として、文化芸術活動の担い手を支援すること、信州の多様な文化を多様な主体が支えることの2つを重要視しているそうです。 犀の角代表の荒井洋文さんより、犀の角の成り立ちを伺いました。人口15万人の地方都市で小劇場を成立させるための仕組みや、様々な価値観や特徴を持った人が居ることができる、「変な人でも住みやすい街に」という考え方をお話いただきました。そして市民により街なかに助け合いと新しい繋がりを作る活動「のきした」や、そこから広がった様々な取り組みもご紹介いただきました。「のきした」は、この後に登場するNPO法人場作りネット、上田映劇、NPO法人リベルテとも活動を共にしています。 続いてNPO法人場作りネット やどかりハウスコーディネーターの秋山紅葉さんのお話へ。「やどかりハウス」は雨風をしのげる駆け込み宿です。コロナ禍をきっかけに、困難な状況にある方からの生活相談を受けるNPO法人場作りネットと犀の角が共同で「のきした」の活動として始めました。困りごとの前にどうすることもできないとき、助けるー助けてもらうという上下のある関係性ではない、自分や相手を知ろうとする、水平な関係が生まれることがあるといいます。 NPO法人 上田映劇の理事も務める、草の根文化芸術コーディネーターの直井恵さんより、「上田映劇」の取り組みを伺いました。一度は閉館しつつも市民の手により再開した上田映劇。映画館を学校に行きにくい・行かない子どもたちの居場所として活用すべく、「うえだ子どもシネマクラブ」では鑑賞会やコミュニティカフェを開いています。 (*ACYフォーラムvol.3レポート でも取り組みをご紹介しています) NPO法人リベルテの理事長 武捨和貴さんには、障害福祉制度を使い運営しているアトリエや、「路地の開き」という街なかに開いていくプロジェクトをご紹介いただきました。メンバーさんと呼ばれる利用者の方々がその人らしく、自由にいられることを大切にしています。メンバーさんやリベルテのスタッフに加え、地域の方や「のきした」参加者も交えて行ったパレードやまち歩きのプログラムは街の景色を変えているようです。 お話を伺った後は、各施設の見学に行きます。まずは犀の角の中をご案内いただきます。 見学時にはさらに地域の内外の方に利用してもらえるようにコワーキングスペースや印刷スタジオを作るべく改装中でした。3階は稽古場として使用したり、貸しスタジオとして利用されているそう。ゲストハウス棟も母屋のすぐ隣です。 犀の角から上田映劇、リベルテのアトリエは徒歩圏内。上田の街は自動車を使わずに移動できる距離感に面白い場所・ことが集まる魅力的なコンパクトシティです。 街歩きを楽しみながら、移動します。 かつては芝居小屋だったレトロな外観の上田映劇。 上田映劇の別館、「トラゥム・ライゼ」には「うえだ子どもシネマクラブ」や「のきした」で活動する子どもや若者たちのための部室のようなスペースが設けられています。写真右側に写る「お願いボード」はやってほしいこと・やったことを見えるようにするために設置しているとのこと。 リベルテのアトリエの1つ、「roji(路地)」。名前のように路地の突き当りにあります。地域の方と一緒に前庭(公園)をつくり、交流の場にもなりました。 アトリエの中で上田獅子が登場!リベルテでは張り子で作られた獅子のグッズも作られています。上田では大正時代に農民美術運動が起こり、農閑期に工芸品をつくる伝統があるそうです。土地に根付く風土や文化を感じさせます。 各拠点を移動する合間も気になるお店や風景がたくさん。参加者同士でおしゃべりをしながら歩きます。   2日目/上田市と長野市を視察   2日目は古いモノと素敵なモノが集まる市場、261(にーろく市)の見学からスタート。表通りから一本入った路地沿いで、3ヵ月に1度開かれるマーケットです。レトロで味のある建物などを会場に、古道具やクラフト雑貨、おいしいものなどのお店が出店します。 街に活気をもたらしたきっかけは、元銭湯の倉庫「26bldg(ニィロクビルヂング)」。261のほかに空き家見学会も行われるなど、エリアリノベーションの動きが広がっています。 「26bldg」の1階には「古道具にろく」。261の日はフードやドリンクのお店も並びます。 261の由来になった元銭湯の会場。脱衣所や浴室も展示や販売に使われています。 道の軒先もマーケットに。 261を楽しんだ後は、しなの鉄道で長野市に移動します。 訪問先は長野県が主催する「くらしふとカンファレンス2024」。気候変動やゼロカーボンに取り組む実践者と、持続可能な地域づくりに取り組む個人・企業・行政プレイヤーが出会い、ゼロカーボンを通じてより豊かな信州を共に創っていくための共創型カンファレンスです。 分科会② まちづくりと共創「幸福度と脱炭素、両輪駆動のまちづくり〜信州独自のスタイルを模索する~」の様子 人の集約や移動に着目し、脱炭素の取り組みは個人の幸福度を高めるまちの使い方につながる可能性があるのではという提言や県内での事例紹介がありました。 越境/共創ピッチA 「○○×ゼロカーボン~異なる分野・切り口からのチャレンジ~」の様子 様々なジャンルの事例としてプロサッカーチームや古民家再生、シビック・イノベーション拠点と並び信州アーツカウンシルの取り組みが紹介されました。会場にもマイクが渡り、全員が一言を述べる場面も。各人の思いや考えをフラットに交換する時間になりました。   信州での学びを振り返る   信州を訪ねてから数週間がたった頃、横浜からの参加者と、受け入れてくださった上田の方々とでふりかえり会を行いました。 参加者からは、「上田ではコミュニティ・文化芸術・福祉が有機的につながっていて、地域の新しい価値の生まれ方として興味深かった」「各々の活動がおもしろいが、どうしたら持続可能でいられるのだろうか」「くらしふとカンファレンスではフラットな場をつくろうとしていてよかった。古民家プロジェクトの方々が横浜を訪れることになり、つながりができたのも嬉しかった」などという意見がでました。 犀の角の荒井さんからは「上田を評価してくださって嬉しい反面、サステナブルという意味では犀の角ややどかりハウスは経営危機に瀕し続けています。しかし、サステナブルではないからこその面白みもあって、それゆえにできているのかなとも感じます」とお話され、信州アーツカウンシルの野村さんは「上田の方々はケアに対するクリエイティビティに富んでいます。弱さの解決方法は強くなることではないのですよね。広がりのポテンシャルがあります」と語ります。 信州の方々からも「相互の行き来、交流、外からの目があるから分かることがあった」「日々起きていることを次のレイヤーで見ることができるようになってきた」という感想もあり、参加者は、相互に場所と時間を共有することで通じ合うものを見つけているようでした。   街と文化を見て回り、交流や対話が生まれることとなった令和の横浜使節団信州編。観光よりも一歩踏み込んだ関係性が作られ、何度でも訪れたくなる身近な地域になりました。2024年度の使節団も計画中です。続報をお待ちください。   文・写真:アーツコミッション・ヨコハマ
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助成
2024/04/10
2024年度 ACYアーティスト・フェローシップ助成 申請を締め切りました。 沢山のご申請ありがとうございました。 一次選考の結果は、一次選考通過者にのみ2024年5月9日までに電子メールにて連絡します。 一次選考:書類選考 二次選考:面談選考(開催日:2024年5月18日 午後)※オンライン会議システムでの実施を予定 ※面談選考は、展覧会や公演の本番などのやむを得ない場合を除き、原則ご参加ください。 なお、選考結果は、採択・不採択に関わらず、2024年5月下旬ごろ、すべての申請者に電子メールにてご連絡します。
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コラム
2022/03/18
関内外エリア(横浜・都心臨海部)のクリエイターが一斉にアトリエ・事務所を地域に開くオープンスタジオイベントとして2009年に始まった「関内外OPEN!」。2016年には車道を封鎖し家具や屋台を設えた屋外空間でワークショップなども行うイベント「道路のパークフェス」に発展するなど変遷を経て、2021年は横浜市役所の元駐車場である関内えきちか広場に期間限定の「クリエイターのまち」を出現させた。今回のイベントづくりのプロセスや関内外OPEN!の今後について、ディレクターの安食真さん(スタジオニブロール)、岡部正裕さん(voids)、小泉瑛一さん(about your city)に伺った。 クリエイターの町内会を可視化する ― 今回の関内外OPEN!13ではそれぞれどんな役割分担だったのでしょうか。 安食 何をやるかといったことは全部皆で話し合いながら決めていきましたが、僕は主にコンセプトやタイトルの話し合いをまとめる役割、小泉さんが会場の特にどんなパビリオンを作るかとかいう部分、岡部さんがデザイン周り、といった分担でした。 ー コンセプトはどんな流れでまとめていったんですか。 安食 関内外OPEN!は同じエリアに拠点を持つ物理的な距離が近い人たちの集まりで、日頃の交流を持てることが大きな強みです。しかし、コロナ禍でオンラインミーティングが主流になり、偶然会う機会も少なくなりました。近い距離にいる人の方が遠くなってしまった感覚があります。 僕たちが幹事をバトンタッチされた一昨年の関内外OPEN!12も、コロナの感染状況をみて動画を中心としたオンライン開催にしました。その時、僕ら幹事が思ったのは、いろんな人と深く関われたという実感があまり持てなかったということ。関内外OPEN!13は、「普通にみんなと話したい」という共通認識のもと、もう一度関内外OPEN!に参加する人たちが直接交流できるものにしていくというのがスタートでした。「物理的な距離が近いクリエイターのコミュニティのあり方ってなんだろう」という問いを立てました。 そこから議論を重ね、「クリエイターの町内会」のようなものにしていきたいという方向性を打ち出しました。関内外OPEN!13でやりたかったのは、コロナ禍で失われたご近所話やクリエイターが多く集まる関内外を可視化していきたいということだったんですね。そこで生み出したコンセプト・タイトルになっているのが「関内外一丁目」です。 そのための会場を探して、ちょうどこの空き地を使えるという話になりました。人工芝が敷かれただだっ広い場所だったので、関内外一丁目を表現するパビリオンを作ったらどうだろうと小泉さんからアイデアが出たんです。 小泉 ウェブで一生懸命発信するだけだと関係者にしか伝わらないけど、パビリオンは作ることで街行く人の目 に触れますよね。そういった建築が街に突然現れたら、その意図が100パーセント伝わるかは別ですが、いろんな人たちがお店をやったり何か作ったりしているなということは分かる。「道路のパークフェス」をやっていた時も同じだったと思いますが、関内の地場にこういうクリエイターがたくさんいるんだな、ということをやっぱり見てもらいたいなと思ったんです。 ー パビリオンの設計はどのように進めていったんですか。 小泉 設計自体は、トキワビル(中区常盤町)に事務所を構える構造設計の村上翔くん(SCALA Design Engineers)と、彼の友人でパビリオン設計の経験が豊富な田中麻未也くん(タナカマミヤアーキテクツ)にお願いしました。村上くんはもともと東京の構造設計事務所にいたんですが、僕と大体同じタイミングの2020年春くらいに独立して、関内外の住人になったので声をかけたんです。 町内会というイメージと、関内外エリアの中で活動している人たちをどうやってこの場所に凝縮するか、ということを考えていく中で、もともとグリッド状に町ができている関内に対してもう一つグリッドを引く、街路を空き地の中に引き込むようなデザインになりました。門のところのフェンスを外して敷地の通り抜けができるようにしつつ、一つのアーケードを作ったという感じです。その周りに「商店街」や「ワーク」といったテーマを持たせた場所が生まれてくる、そんなイメージでつくりました。さらにその中を分割して、ある日は野菜を売る人がいたり、ヨガをやる人がいたり、まちの中でいろんなことが起きる、というのをこの広場で実現させるのが会場構成の考え方でしたね。 関内外コミュニティの可能性 ー まちの中での内容や配置はどんな風に決めていったんですか。 安食 まずは各スタジオがこの関内外一丁目に出現するために、「出張オープンスタジオ」という企画を立てました。関内外OPEN!はデザイナー、建築家、アーティストなど様々なクリエイターがいます。その人たちが自身が空き地に出展しやすく、来場者にもわかりやすいように4つの区分を作るところから始めました。 小泉 クリエイターの作品やワークショップだけではなく、どう健康に気をつけているかなど日常的なものも表出したり、商店街を作ることでまちを表現できると思いました。 4つのブロックを「SHOTENGAI」「GALLARY」「WORK&CREATE」「PLAY&WELLNESS」と分け、過去の関内外OPEN!参加者から出店希望を募りました。今回は密になることを避けるため5日間のうち好きな日時に参加できるようにし、参加人数によってブロックの中でも日毎の区画割を作りました。 安食 そのほか皆で直接話すための場として「井戸端会議」を企画しましたね。 ― 今回やってみて気づいたことなどありますか。 小泉 井戸端会議に来てくれた方が建築家の人たちと話すことで、何かが生まれそうな感じになったんですよね。具体的な形にまでなったわけではないですが、そうしたまちの人とクリエイターの協働を後押しするためにどう動いていくのかというのはこれからの課題でもありますね。 安食 すごく良い瞬間でしたね。次の関内外OPEN!のヒントでもあって、このコミュニティの中でコラボすることに期待する意見は多かったですね。今後さらにいろんな出会いや交流、新しいものを生み出していける可能性をとても感じています。 岡部 お祭り当日のちょっと後ぐらいは盛り上がるんですが、年一回だとどうしても熱が冷めてしまうので、そうならないように日常的にコミュニケーションをとったり、あの人はこういうことをやっているんだというのがもう少し見えてきたりすると、コラボもしやすくなると思います。 安食 今回はそれぞれ出店するマルシェ的になってしまいましたが、皆で「関内外一丁目」というまちをつくろうということをもうちょっとしっかり伝えて、そこにあるアートスペースってどんなところかなとか、本屋ってどんな本屋かなとか、チームで考えてもらうようなことを一緒にやれたらより良かったですね。 自分たちがまず、まちを「面白がる」 ー 参加者の定義が曖昧だというお話でしたが、そんな中、関内外OPEN!を開催すること、主体的に関わることのメリット、モチベーションは何でしょうか。 岡部 自分の事務所があるトキワビルにはいろんな方がいて、単純に楽しいんですね。そのコミュニティが良くなれば、毎日の生活が楽しくなったり仕事がしやすくなったりするので、それをもう少し広げたいっていうモチベーションですね。 安食 交流関係が広がっていくというのは幹事をやっていてすごく感じたし、皆やってよかったなと思っていることの一つだと思うんですよね。関内外を経て、そこから仕事で連絡した人もいますし。 もう一つはやっぱり実験できるということなのかなと思っています。普段はクライアントワークが中心の中で、予算を預かって場所を使えて、いろんな人がいる中で何か思い切った実験ができるぞということ。そういうことができる場ってすごく少なくなっているので、この街を使ってこれだけの人たちが集まってできるということに僕はすごく魅力を感じます。 昨年まではチーム感があまり感じられていなかったのでそういうモチベーションがあまり持てなかったんですが、今回13をやって、こんなに面白い人たちがたくさんいるんだとわかったし、井戸端会議にも皆積極的に参加してくれて。「もっと言ってくれればやる」、「一緒に考えたい」と言ってくれる人がたくさんいたので、次はもっと大きな実験や尖ったことをやりたいし、そのための準備として組織化したいと思っています。 岡部 展覧会とかを見に行った時、グラフィックデザインの作品を見て、同じ職種だけどこういうこともやっていいんだ、と自由になれる瞬間なんかがあるんですね。創造都市という礎の上で遊ぶというか、せっかくこういう政策のあるまちにいるからこそ、そこからはみ出していきたいですよね。今はその中に収まってしまっているイメージがあるので。 小泉 僕はお二人のおっしゃっていたことに加えて、この関内外OPEN!のように同じ地域にいるクリエイターたちが、自発的に自分たちをまちに対して開く活動を伝統的にもっと次の世代につなげていきたいと思っています。横浜市の政策としてではなく、僕らが活動しているこのまちとしてどういう面白さを発信していくか、クリエイターがたくさんいるビルがいくつもあるまちの面白さをもっと意識的に実験・発信したいし、まちの人に触れてほしいというのはあるんですよね。そうやって横浜自体が旬であり続ける、面白いと言われ続ける都市の魅力につなげていきたいなと思うんです。 「クリエイティブシティ」って話していて何か難しいというか、定義すればいいものではなくて、やっぱりそこにいるクリエイターたちがやる気になって面白がらないと何も動き出さないと思うんです。東京や海外のクリエイターが、横浜はやっぱりおもしろいな、と思える場所が将来的にもどんどん集積してほしい。 そのために元々の関内外OPEN!にとらわれず、いまの関内外OPEN!はこれですというのを提示していく、単純に参加した方が面白いなという状態にしていく方がいいなと思っているんですよね。 クリエイター主体で次世代へ ― 組織化するという方向なんですね。 安食 関内外OPEN!は今まで市の補助金をベースに活動してきました。いつまで続くかわからない助成金だけに頼らず、自立して継続出来る形を目指し組織化を考えています。また、今までACYが担ってくれていた連絡機能やプロジェクトマネジメントの役割を引き継ぐことにより、メンバー同士の交流をより促進できると思っています。我々クリエイターが主語になって、それをACYに支援してもらうという形にしていきたい。 小泉 できることを増やすためにも予算をさらに増やす方法を自分たちで考えたいなと思ったんですよね。寄付を募るためにも口座が必要なので、自然と組織化という話になりましたが、今までと参加ハードルは大きくは変わらないように考えています。 安食 もっと予算があればいろんなことができる、でも寄付を集めるにも主体がいる、じゃあこの会の目的は何だろうということを、今年はまだうまくすり合わせきれてなかったのかなと思うんです。今は団体として、クリエイター側が一つの集まりにならないと次に進んでいけないよね、という話をしています。 関内外OPEN!立ち上げから携わられているアーツコミッション・ヨコハマ(ACY)の杉崎さんは、「関内外OPEN!はスタート当初の『怪しい者ではございません』と“クリエイターをまちに開く”フェーズから、道路のパークフェスや今回を通して“クリエイターがまちを開く”フェーズに変わってきている」と言っていました。僕らもその意識でいます。 このエリアのクリエイターが集まって、どう実験的に、どう創造的にまちにアプローチしていけるか、それこそが関内外OPEN!だと思います。 今年はメンバーとより話し合いながら、いま横浜はこれだというものに挑戦していきたいですね。それを毎年やっていけたら面白いと思うし、13年続いている関内外OPEN!を次世代へ引き継いでいくために任期を決めました。 岡部 一応任期は決めていて、僕らは再来年(2023年)までなんですよね。 小泉 関内外OPEN!自体はすごく儲かるわけではないので、その中でそれぞれのモチベーションをもって自分なりのチャレンジだと思っているからできる。何か面白そうだからちょっと数年やってみますという若手を見つけていきたいですね。 安食 やっぱり一緒に考えるところからやったほうが絶対面白いんですよね。その面白さを本当に感じてほしい。 岡部 そうですね、パビリオンの設計のラフが出てきた時やコンセプトがバシッと決まった時、その瞬間を一緒に体験してくれるほうが本番に向けても前のめりになれますし、今年はそういう風にやりたいですね。 文:齊藤真菜 写真:大野隆介(*を除く) 撮影協力:似て非works末吉町 【インフォメーション】 関内外OPEN!13「関内外一丁目」 日程:2021年11月3日(水・祝)~7日(日)各日11時~17時 会場:関内えきちか広場(横浜市中区尾上町2-26周辺) 参加クリエイター:市内で活動するアーティスト、クリエイターおよそ50組 料金:入場無料(一部プログラム有料)※混雑状況に応じ入場制限あり 主催:関内外OPEN!13事務局(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)、関内外クリエイター各事業者 共催:横浜市文化観光局 ディレクター:安食真(Studio NIBROLL)、岡部正裕(voids)、小泉瑛一(about your city) サブディレクター:鬼塚知夏(stgk)、萬玉直子(オンデザイン) パヴィリオン設計・構造デザイン:田中麻未也(タナカマミヤアーキテクツ)、村上翔(SCALA Design Engineers) 協力:原﨑寛明(CHA)、アスカコヤマックス株式会社、オンデザイン、CoUen、サンキャク株式会社、山手総合計画研究所、YOXO BOX 【プロフィール】 安食真(スタジオニブロール) 1985年生まれ。拠点の横浜市と、地元の北海道旭川市で活動するクリエイティブディレクター/デザイナー。様々な企業や自治体からの依頼で、課題解決のためのデザインコンサルティングやブランディングを行っている。デザイン思考を活用したコンセプトメイキングからプロダクトアウトまでを一貫して行う。得意分野は地域特化型産業、福祉、環境、デザイン教育など。 http://www.nibroll.jp/ 岡部正裕(voids) 1981年生まれ。千葉県出身。美学校「絵と美と画と術」修了後、株式会社アジール、フリーを経て2015年に株式会社voids(ボイズ)を設立。グラフィックデザイナーとして書籍・パンフレット・フライヤー・ポスター等の印刷物をはじめ、CI/VI 制作(ロゴ、シンボルなど)などを手がける。タイポグラフィや文字を軸にしたデザインワークを中心に視覚伝達の可能性を探り直している毎日です。 http://voids.jp/ 小泉瑛一(about your city) 1985年群馬県生まれ愛知県育ち。横浜国立大学工学部建設学科卒業。オンデザインパートナーズ、ISHINOMAKI 2.0などを経て2020年にabout your cityとして独立。市民参加型デザインの手法を用いて建築、まちづくり、ワークショップの設計と実践を行う。プロジェクトごとに様々な建築家やクリエイター、デザイナーとコラボレーションしてより本質的な問いとアウトカムを達成することを目指している。 https://aboutyourcity.jp/
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助成
2024/03/26
2023年度アーティスト・フェローユニ・ホン・シャープさんが東京都現代美術館で開催される「翻訳できない わたしの言葉」に出品します。 〇ユニ・ホン・シャープ/展覧会出品 「翻訳できない わたしの言葉」 会期:2024年4月18日(木)~7月7日(日) 会場:東京都現代美術館 翻訳できない わたしの言葉
コラム
2024/04/26
2024年2月2日(金)、BUKATSUDO HALLにて、アーツコミッション・ヨコハマ(以下、ACY)が注目する人と場を紹介し、創造性を軸に横浜の地域の未来を議論するACYフォーラムの第三弾として「子どもの居場所・学び場と文化芸術のまちでの交点」を開催しました。   子どもや若者がコミュニティの中で育つ機会が減るなど社会の変化や問題の複雑・複合化にともない、青少年や子どもの居場所を地域につくる動きが日本各地で増えています。また、STEAM教育やキャリア教育など各教科を横断した学習が推進され、学校外で地域と連携した学びの場が求められるようになっています。 そうした中で、文化芸術に関わる活動や施設・拠点は、これまでも地域の中で居場所や学びの場としての役割を担ってきました。誰もが参加できる開かれた場として運営されているものは、学校や家庭以外の社会教育・社会包摂の場になり得る可能性を秘めています。 今回のフォーラムは、横浜と他都市における実践者の視座から、暮らしと文化拠点の距離感や人間関係の築き方、つくりたいまちの姿などを語りあい、子どもの居場所・学び場づくりに文化芸術はどのように寄与できるかを深める機会として、実施しました。   第一部 事例紹介 第一部では各地で実践をされている方より活動をご紹介いただきました。 ①岩室晶子さん[横浜市] (NPO法人ミニシティ・プラス事務局長) NPO法人ミニシティ・プラスには「まちはそこに暮らす人、かかわる人たちで創り上げていく」という理念があります。子どもたちが自分らしさを活かした生き方を自分の力で見つけられるように、自由な発想で社会を体験し考える機会をつくっています。主に、3つの事業を行っています。 「ミニヨコハマシティ」は4歳から19歳までの子どもたちが話し合いを重ね、自分たちで子どものまちを数日間つくる取り組みです。事業を営んだり、税金を納めたり、市長を選ぶ選挙があったりと都市の動きを体験します。子どもたちが考えているので、毎年不思議なお店があります。開催場所は横浜だけでなく、震災後に宮城県に行って現地の子どもと一緒に子どものまちをつくったり、歴史博物館で参勤交代のある昔の村をつくったり、アートスペースでアーティストともコラボしました。 「つづきジュニア情報局」「MMジュニア情報局」では子どもたちが色々な場所へ取材に出かけ記事をつくるのですが、記事を書かないで写真ばかり撮る子もいます。学校ではないので、自分の好きなことで参加してよいのです。 「特命子ども地域アクター」は当NPOでは一番力を入れたいと思っている事業で、子どものまちや記者で取材を体験した中高校生らが、大人と協働で企画会議やイベントを行って、まちの課題解決に取り組む、本当のまちづくりを行います。 どのプログラムも子どもを一人の人として認めて、一緒になってまちをつくることを大切にしています。特に、「ミニヨコハマシティ」では「大人の口出し禁止」と掲げられていて、子どもたちの自治を大切にしています。 過去の参加者からは「勉強ができなくても、違うところでの自分のよいところはあると思えた」「学校では物事を自分で決めることや臨機応変に対応する機会が少ないが、子どものまちでは自分がやりたいことを描いて実行すること、柔軟に対応する力がついた」という声があり、保護者からも「親は自分の子どもを過小評価しがち。子どものまちでは、家族以外の人にほめてもらい、自信もついたのだと思う」といった声があがっていました。子どもの権利条約(*1)にも、意見表明権があります。私たちは子どもの意見を大切にし、子どもを大人と同じ、一人の人として認めて、一緒になってまちをつくることをやっています。(岩室さん) ミニシティ・プラス:https://minicity-plus.jp/ *1:子どもの権利条約 1989年に国連総会において採択された、世界中すべての子どもたちがもつ人権(権利)を定めた条約。 子ども(18歳未満の人)が守られる対象であるだけでなく、権利をもつ主体であることを明確にしている。意見を表明する権利は第12条に定められている。   ②吉川永祐さん[石川県金沢市] (NPO法人みんなのコード クリエイティブハブ事業部 ミミミラボ コーディネーター/アーティスト) ミミミラボはデジタル機器を自由に使い、表現することができる10代だけの場所です。プログラミングの必修化を背景に学校支援や教材配布の活動をする「NPO法人みんなのコード」が運営しています。学校以外の場所でもテクノロジーに触れてほしい、不登校や経済格差、都会に比べて機会も少ない地域の子たちにも同じようにデジタルに触れる機会を届ける必要があるとして子どもの居場所事業を始めました。 3Dプリンターでのオブジェ作り、子どもたちに人気のマインクラフト、ロボットプログラム、 DTM での作曲と、大学生スタッフと一緒にああでもないこうでもないと言いながら楽しんでいます。その一方で、ただくつろいだり、iPad で動画を見ながらお喋りする子も多いです。せっかくなら何かやってほしいとスタッフが考えてしまうこともありますが、「ここはデジタルに触れることができる場所だけど、デジタルに触れなきゃいけない場所ではない」と共有しています。 子どもたちが訪れる理由は様々かつ複合的です。プログラミングやイラストなど創造活動がしたい子や、居場所づくりに関心がある高校生もいれば、ただただ遊びたい、ゆっくりしたい子もいます。それらも創作活動を通じて人とコミュニケーションを取っている子や、マイクラで遊ぶなかでタイピングやプログラミングを学んでいる子もいて、複合的に過ごしています。年齢や興味によって絶えず変化しているので、目的が異なる子どもたちが同じ空間を共有していることがポイントだと考えています。 例えば落書きコーナーは互いに目を合わせずに手元を見て会話ができる利点があります。会話が止まってもその場を過ごせますし、輪に入れなくて様子をうかがいながら時間をつぶしたり、大人も横で絵を描いたり、なんとなく一緒にいるスペースをつくっています。 これからは、体育の授業で例えるならば、早く走るための方法を教える場所ではなく、自分の体に合った走り方をそれぞれが考えるのに伴走する場所にしたいです。デジタルとの付き合い方、ものづくり、周りの人との付き合い方を考える場所になるのが大事なのではと思っています。(吉川さん) ミミミラボ:https://mimimi-lab.jp/   ③直井 恵さん[長野県上田市] (草の根文化芸術コーディネーター) 映画館「上田映劇」を2011年の閉館後、2017年に仲間とともに再起動しました。子ども食堂などが増えるなかで、映画館も子どもを受け入れられるのではと、上田映劇と中間支援NPO、フリースクールを運営するNPOで始めました。教育委員会や中間教室(*2)、当事者の親の会などに加えて、就労支援団体とも繋がっているのも特徴です。通信制高校を卒業するも働けずひきこもってしまう子らとも出会い、今では小1から30代までの約200名が登録しています。 活動としては月に2回、上田映劇の上映作品から4本を選んで休館日に上映会を行っています。わかりづらいかなと思うものも見ます。その他に「映画の学校」というストップモーションアニメーションの体験や監督らを招いたワークショップなど学びを深める企画や、営業日にチラシ整理やポスターの貼り替えをする「平日シネマクラブ」も実施しています。でも、みんなで映画を見なくてはいけないのではなく、お茶を飲んだり、ただなにもせずにすごせる空間もつくっています。 活動するうちに見えたことは、子どもたちは行きたい場所は自分で選んでいくし、その子のタイミングで最初の一歩が出るのだなということです。なかなか家から出れず、担任の先生が直に会うことができなかった子の、久しぶりの一歩が映画館だったということもありました。 学校外の居場所も出席扱いを受けることができるという教育機会確保法(*3)が制定されていたので、それらの話題を交えながら教育委員会にも活動を紹介してきた結果、上田映劇に来ることが出席扱いになることにつながりました。その結果、学校に行く日が増えた子もいますし、学校に行くのをやめた子もいます。自分のせいではなくて環境に合わなかっただけと本人が気づいたこともありました。 なぜ映画館がこういった場をつくるのかは自問自答しています。利用者からお金をもらわずに運営をしているので、普段は映画館に来られない子たちが来る機会をつくっている面もあります。でも、子どもが自由に振る舞える場が世の中にはもっと必要だと思ってやってきたので、映画を見ても見なくてもいいし、自分の好きなことをしてもらっています。 学びと居場所の両方の側面を打ち出すうちに、ネットワークができました。劇場・犀の角や福祉施設のリベルテ、相談業務を行うNPO法人場作りネットなどとの連携もあり、上田では映画館に限らず地域の資源がいろんな人の居場所になる好循環が起きています。(直井さん) うえだ子どもシネマクラブ:https://uedakodomocinema.localinfo.jp/ *2:中間教室 教育委員会が設置する、学校に通うことに困難さを抱える児童生徒への学習指導や相談を行う場所。 他都市では「教育支援センター」「適応指導教室」等といわれることが多い。 *3:教育機会確保法 正式名称は「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」。 2016年公布、2017年施行。   ④八巻香澄さん[東京都] (東京都現代美術館学芸員) 美術館は静かに過ごさなくてはいけない、子ども連れでは行きづらい印象があります。東京都現代美術館では2010年より全国に先駆けて触れる・遊べる子ども向けの展覧会を定期的に開催してきました。コロナ禍を経た2023年の展覧会では、これまでの元気いっぱいな子どもたちに向けた展覧会ではなく、しんどい思いをしている子たちの居場所をつくりたいと10代をメインターゲットに。小さい子は親に連れられて来ますが、10代は親に連れられて行動しないので、日頃は来場しない層です。 今回は「見知らぬ誰かのことを想像する展覧会」というキャッチコピーをつけました。「身の回りの人間関係で、誰かに共感する・してもらうではなく、まずあなたの気持ちを大事にしてね」「自分の知っている人には共感できるけれど、共感できる範囲外にも人がいることを想像してみてね」というメッセージの込められた展覧会です。 目標を大きく超える中高生が来場し、来場者の年齢層も10代20代で6割を超えました。どんな方たちが来るかわからなかったのですが、届けたい方々が来てくれて、顔が見える存在になったことに大きな価値がありました。 出展作家の渡辺篤さんがぜひやりたいと言ってくださり、アーティストと一緒に不登校・ひきこもりの方とそれぞれに作品を見るツアーを関連プログラムとして行いました。不登校の方とのツアーは心理的な安心感のために休館日にアーティストとスタッフと子どもたちだけで行いました。ずっと母親の後ろに隠れていたり、なかなか声が出ないお子さんもいるのですが、一緒に過ごしていくうちにほぐれて、少しだけ感想を言えるようになる姿を見られたのは大きな財産でした。 美術館は展覧会によって大きく変わるため、ずっとオープンな場であることは難しいのですが、図書館と同じく学校のある時間帯にいても何も言わない場です。そして美術作品は答えを求めなくても大丈夫、そこでオープンにされているものです。ぜひ子どもたちの居場所、学びの場として使っていただけたらと思っています。(八巻さん) 展覧会「あ、共感とかじゃなくて。」:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/empathy/   第二部 登壇者によるディスカッション   第一部の登壇者に聞き手として野村政之さん(信州アーツカウンシル ゼネラルコーディネーター)を加えて、子どもたちの学びの場と居場所の交点についてディスカッションを行いました。   ――学びと居場所の共存 (司会/アーツコミッション・ヨコハマ) 4名の方に共通して、子どもの自己決定権と、大人が子どもの気持ちに向き合うことを大事にされていると感じました。学びの場、居場所の場というキーワードで思うことや、活動の中での学びと居場所のスイッチング、心がけていることをお聞かせください。 (岩室さん) 私は自らが体験して初めて学べると思っています。体験からの学び、ラーニングバイドゥーイングというデューイの考え方です。プログラムを考えるときは、子どもたちをお客様にしないで、子ども自身が主体的に考えてこそ成り立つプログラムが理想だと思っています。 (吉川さん) まずは居場所として使ってもらったらと思っています。その上で、説得する・呼び込むというよりも、隣でやること・誘惑することを意識しています。大学に入った時に自分と異なる人の存在が当たり前にあるのが良いと感じて、ミミミラボもそういう場所になってほしいです。 (直井さん) 子どもは安心できる場所だと、だんだん自分の気持ちに向き合ったり表現できるようになると感じています。映画は見た人それぞれの感覚や感性が成り立つので、先生と生徒じゃなく一人の人として感想を言い合って対等なものとして扱えるのが強みだと思います。 (八巻さん) 居場所であることと学びの間に時間的な差はそこまでなくて、頭の中はいろいろ動いているかもしれないから、それを邪魔しないことが大事ではないでしょうか。促すタイミングが早いと芽を摘んでしまうこともありますよね。学びを限定的に考えすぎないことだと思います。 ――無目的な場所について (野村さん) コロナ禍に「不要不急なことはやめよう」となった結果、フリースペースもフリーでいられなくなったと思います。居場所が「ここにいてもいいんだよ」という状態を保つためには、無目的であることを許すような場のつくり方がポイントかなと思うのですが、どうでしょうか。 (吉川さん) ミミミラボは保護者や大人にはプログラミングやデジタルの教育の現場として認識されているのですが、子どもたちからすると遊んだりだらっとできる場所になっています。理由が必要な時の口実づくりのようで面白いというか、どんどんやれよ、内緒だぞと。機材の用意もありますが、なにもないスペースで子どもたちが勝手に何かを始めることもあるので、あえて大人が使い方を設定しないことも意識しています。 (野村さん) 親御さんが子どもを通わせることに関して、目的を求めることはないのですか? (吉川さん) お持ちの方もいらっしゃいます。ミミミラボは初回は親御さんと一緒に見学するのもOKなのですが、2回目以降は基本的には子どもだけで利用してもらっているので、うまくかわしてるのかもしれません。一方で、学校に行っていない子の親御さんには「ここは受け入れてくれる、いても大丈夫」という認識をされていて、むしろ「何かやるという空気感がない方がうちの子も安心する」と言ってくださる方もいらっしゃいます。 (岩室さん) 私たちは「街」というくくりなので、誰が何を言っても何をしてもよいのですよね。曲を作ってダンスをしようという提案がありみんなで取り組んでいても、わざわざ来るのに1回も踊らない子がいます。でもその子にスタッフが間違って「踊る時間だよ」なんて言ったら、帰ってしまってもう来なくなるだろうなと思って(言いません)。 規模が大きくなって新しいボランティアの大人が来ると、きちんとやることを求めてしまうことがあります。それは勘違いで、仮想のまちの中では、いつ閉店したって工事中だっていいんですと言うのだけれど、なかなか理解してもらうのが難しいですね。保護者は仕事をたくさん経験させたいようで、仕事を待つ列に対し「どうしてこんなに待たせるの」という苦情もあります。子どもは友達と、どれにしよう、あれ面白そうだねと並んでいてそれも遊びの一環なのに。「これは子どものまちなので、苦情があれば(子どもの)市長へ」と言い、子ども主体であることを伝えています。そうするとだいたい言わなくなります。 (直井さん) 映劇もシネマクラブもわかりやすい見える取り組みなので親御さんや先生やソーシャルワーカーが繋いでくれるのですが、実際は見ても見なくてもいいし何をしていてもいいです。起きて映画館に来るのをワンクッションに、ゲームセンターに行ったり海鮮丼を食べに行ったりした後、映画館に戻ってきて、家に帰るというような行動パターンの子もいます。親の目を離れたところでできることをしていて、それはそれで面白いなと思って見ています。 (八巻さん) まじめで目的意識のあるお客様ほど、子どもに対して不寛容な傾向にあります。文化施設に子どもがいることはあたりまえのことなのだと意識を変えていく必要があります。 親の話も出ましたが、美術館だと子ども向けのワークショップをする時にわざと親を引き離すこともあります。親が見ているといろいろとあるので、「今子どもたちはこういうことをやっているので、ほっといてあげてください、見守らないでください」と。 ――「あなた」に向けた場所、誰でもこられる場所 (野村さん) 無目的でいろんな人が混ざっている場の方が自由だという後に逆のことを言いますが、困難を抱えた人に向けた場の確保も同時に必要なことと思います。 (八巻さん) いろんな人が混在する、インクルーシブな方がいいよねという流れの中で、逆のことをやりました。引きこもりや不登校の人は、仕事に行っている人、学校に行っている子が少し怖い。安全性が保たれると思ってわざわざ休館日に行いました。参加してくれた人はよかったと言ってくれます。スタッフの負担は大きいのですが、すごく必要なことだと思いました。世界では動物園や科学館でも重度の障害のある人や感覚過敏の人に向けて開ける試みもあるので、もう少し日本でも広がってもいいのかなと思います。 (直井さん) シネマクラブも始めるときにどういう日がいいのかを議論して休館日にしました。結局休めないのですが、それでやらなければ、なりたたなかったですね。私たちも不登校の子の支援を専門にしているわけではなかったので、やりながら状況が見えてきています。 (吉川さん) ミミミラボは13時から開けていて、そうすると学校に行っていない子が来てくれます。周りがうるさいとなかなか入れない子も安心して来れる。元々は水曜だけだったのですが、木曜と金曜も増やしました。近所の小学生は15時半ごろから来るのですが、学校に行っている子と行っていない子が友達になることも何回かありました。前は夕方から来ていた子が今日は早いな、そういう日が続くなと思い声をかけると「実は…」と打ち明けてくれたこともあります。混ざり合う時間が面白いのは、そういった時間設定にしてから気が付きました。 (岩室さん) 「特命子ども地域アクター」は中高生を対象にしていますが、来ている子どもたちが学校に通っているのかどういう状況なのか最初はわかりません。1年ぐらい経ってみると、実は学校に行っていないとか、かなりの貧困だったとわかることがあります。中高生にもなると県外や県内の遠くに行くと大人と同じ交通費もかかりますので、このプロジェクトでは交通費やお昼も用意します。ボランティア活動をしたいけれども金銭的な負担からできなかった、でもこれは交通費もご飯も出るから一度やってみたかったという子どもがだいぶ経ってからわかったりします。そういう子どもも、誰かのために役に立ってることを本当に嬉しそうに話してくれます。気持ちはあるけれど、なかなか踏み出せない。そのきっかけにもなっていると思うとやっていてよかったと思います。 * * * この後は会場との質疑に。事例紹介とディスカッションが新しい実践の芽になればと締めくくられました。終了後も登壇者とお話をする方も多く、熱く温かい時間が流れていました。 今回のフォーラムでは、文化芸術の場において学びと居場所は両側面が混ざり合っていることや、場をつくる大人たちが子どもの自主性を尊重することの重要性をみることができました。また、良いはたらきをするものには相反するものもあることが伺えました。特定の活動が子どもの関心を惹く場合もある一方で、目的を持たずにいられることの良さもあること。対象を明確にするメッセージと、自らの状況を開示せずとも誰にでも参加しやすい仕組みはそれぞれに子どもに安心感をもたらすことなどです。たとえ小さくとも子どもが自らステップアップしていくのが学びであると改めて認識する機会となりました。 ACYでは、2024年度も引き続き本テーマでのフォーラムの開催を予定しています。ぜひ次回のフォーラムにも足をお運びください。   文:アーツコミッション・ヨコハマ   【登壇者プロフィール】 岩室晶子 (いわむろ・あきこ) 特定非営利活動法人 I Loveつづき理事長として、横浜・まちづくりの活動をしながら、こどもたちとできるまちづくりについて、NPO法人ミニシティ・プラスで模索、実践中。音楽家(作曲、編曲、ピアノ演奏)が本業。2021年田園調布学園大学大学院修士終了。他、NPO法人都筑文化芸術協会 副理事長。 吉川永祐(きっかわ・えいすけ) 1997年島根県生まれ。金沢美術工芸大学大学院修士課程絵画専攻油画コース修了。子どもたちが自由にテクノロジーに触れられる第三の居場所、「ミミミラボ」でコーディネーターをしながら現代美術作家としても活動。主に自身の身体を素材とした映像、写真、立体などの作品制作を行っている。主な展覧会に、「3rdEye4Head」(2023年石黒ビル/石川)、「霧の向こうから石が」(2022年ギャラリー無量/富山) 直井恵(なおい・めぐみ) 長野県上田市出身。フィリピンで活動する国際協力NGOや環境系NPOに勤務した後、2007年より上田に戻り、文化交流の市民企画を行う。2017年よりNPO法人上田映劇の理事として上田映劇の再起動に関わる。2020年、「うえだ子どもシネマクラブ」を開始。フェミニズムをテーマにしたZINE『re-seitou』の編集制作、また切り絵作家としても活動。 八巻香澄(やまき・かすみ) 1978年福島県生まれ。東京都庭園美術館にて展覧会企画と教育普及プログラムに従事し、ラーニングのためのスペース「ウェルカムルーム」や、障害のある人との協働プログラムなどを企画。2018年より東京都現代美術館にて展覧会企画を担当。社会包摂や脱植民地主義に強い関心をもち、展覧会における実践を模索している。主な展覧会に「ひろがる地図」(2019)、「あ、共感とかじゃなくて。」(2023)など。 野村政之(のむら・まさし) 1978年長野県生まれ。信州アーツカウンシル((一財)長野県文化振興事業団)ゼネラルコーディネーター。舞台芸術の企画・制作やドラマトゥルクとして創作現場に、コーディネーター等として公的芸術文化支援に並行して携わる。長野県内の公共ホール、東京の小劇場での活動、各地の芸術祭等への参加、沖縄アーツカウンシルプログラムオフィサー、長野県県民文化部文化政策課文化振興コーディネーターなどを経て、2022年4月より現職。 (一社)全国小劇場ネットワーク代表理事、NPO法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)理事。
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アーツコミッション・ヨコハマ(ACY)は、公益財団法人横浜市芸術文化振興財団が運営する「芸術文化と社会を横断的に繋いでいくための中間支援」のプログラムです。

横浜市の掲げる文化芸術創造都市施策の実現に向け、都心臨海部におけるアーティスト、クリエイター、企業、行政、大学、NPO、非営利団体等の創造の担い手が活動しやすい環境づくりを推進します。