図1 米Commuter Cars社の「Tango」
図1 米Commuter Cars社の「Tango」

 アメリカの高速道路は広い。その広い高速道路が毎朝,大渋滞する。Rick Woodburyはうんざりしながら考えた。「この渋滞をなくすには,もう一本ハイウエイを作るしかないな。だけどお金がかかりすぎて無理だろう。今ある道路の補修だけでも,州政府は予算が足りないと言っているくらいだ。だいたい,この渋滞に並んでいる車にはどれも1人しか乗っていないじゃないか。だったら,みんなヨーロッパや日本みたいに,もっと小さい車に乗ればいいんだ」。

 Rick Woodburyが偉かったのは,アメリカ人なら誰でも一度は思ったことがあるこのアイデアに,自分一人で挑戦したことだった。「広い道路がなくてもスイスイ移動でき,どこでも自由に駐車できる渋滞知らずの都市型コミューター」のアイデアに取りつかれたRickは,独学で自動車づくりに挑戦する。

 まずは車体設計。クルマの横幅はほとんどが1.5~2mで,必ず横に2人が並んで座る。これに対して,Rick Woodburyが考案したクルマ「Tango」の横幅は,わずか990mmである(図1)。1人乗りでも無駄が出ないよう,シートを縦に二つ並べることにした。2頭の馬を縦に並べて引かせる馬車の名前にちなんで,こういうシート配置をタンデム(Tandem)型と呼ぶ。クルマでは珍しいが,オートバイや小型飛行機では普通である。

ポルシェ並みの安定性

 幅が1m弱のクルマを作ろうと思った人はRickの前にもいたかもしれないが,内燃機関の車では難しい。ゴーカートのようによほど車高を下げないと,安定性が悪すぎてカーブを曲がれない。それでは実用性がまったくない。

 たまたまRickがTangoの設計に取りかかった当時は燃料電池がブームで,Tangoは燃料電池車になる予定だった。地元の電力会社の研究所が燃料電池の開発を進めていて,それを使ってはどうかという話があったのだ。しかし,プロトタイプは作れても,量産にはまだ何年もかかると聞いて,Rickはあきらめた。「それならしばらくの間,鉛2次電池で代用させることにしよう」。