JR九州、特典付き企画切符に活路 限定サービスでお得感
九州旅客鉄道(JR九州)はイベントなどと組み合わせた切符の企画・販売に注力している。各種特典を付けた企画切符は料金設定が高めだが、切符購入者だけの限定サービスが人気を集めている。「1000円高速」の影響で鉄道収入が伸び悩む中、単純な割引運賃ではなく、消費者の目を引くアイデアを付加したお得感で、旅行者をマイカーから鉄道に引き戻す狙いだ。
7月中旬に売り出す「コロプラ☆乗り放題きっぷ」。価格は九州域内の鉄道が乗り放題で2万2000円(2日間)~2万5000円(3日間)に設定する。料金は他の乗り放題切符に比べ3000~1万円程度高いが、この切符の売りは同時期に開催するイベント「日本縦断!花いっぱい位置ゲーの旅」だ。
JR九州は携帯電話を使ったゲーム運営を手掛けるコロプラ(東京・渋谷)とタイアップ。携帯電話機の全地球測位システム(GPS)機能を使い、切符購入者はゲーム画面上の駅に花を咲かせた上で、その駅を実際に訪れると自分が咲かせた花の画像を画面上に取り込める仕組みだ。
「グルメ」も好評
昨年11月から今年3月まで、同種のゲームを組み合わせた切符を販売したところ、当初目標を2割強ほど上回る3700枚が売れた。「携帯電話ゲームに親しんだ20~30歳代の男性の遊び心をくすぐり、人気を呼んだ」(JR九州の企画担当者)ため、第2弾の実施を決めた。
観光地で限定メニューを食べられる「日帰りグルメきっぷ」も好調。2009年度の販売枚数は前の年度比30%増だった。他の割引切符との単純比較では最大2000円程度高いが、大分・湯布院や熊本・天草などの観光地の旅館や飲食店と組み、切符購入者しか食べられない特典を前面に打ち出し、「年配の女性を中心に支持された」(同)。
7月下旬には車両を整備する小倉工場(北九州市)、鉄道の運転シミュレーションができる社員研修センター(同)などを見学できる切符も初めて企画。料金は7500円で特急の往復利用より約3500円高いが、「普段なら見られない場所を見せ、鉄道ファンや子どもを呼び込む」(広報室)意向だ。
単純割引でなく
JR九州が企画切符に知恵を絞る背景には、鉄道収入の伸び悩みがある。10年3月期の鉄道収入は景気低迷に休日の「1000円高速」が追い打ちを掛け、前の期比5.3%減。「今後の高速道路政策の行方によっては一層の減収になる可能性もある」と唐池恒二社長は危機感を抱く。
同社は同一区間を2枚組みで割安に購入できる「2枚きっぷ」など割引切符も販売しているが、「料金では『1000円高速』に太刀打ちできない。むしろ高めの企画切符でもアイデア次第で今の消費者の心をつかめる」(幹部)。
このため、同社は特典やイベントで消費者の関心を引き、鉄道を利用していなかった層を取り込む方針だ。同社はこうした付加価値を付けた観光誘発型の企画切符を約25種類販売。鉄道収入全体の減少傾向が続く中、企画切符は3月の売り上げが前年同月比7%増と伸び、4月も大半の企画切符が前年実績を上回った。唐池社長は「鉄道収入確保のため、企画切符販売を強化する」と語る。
来春に九州新幹線鹿児島ルートが全線開業すれば、新幹線を絡めた企画切符も発売する計画。マイカーとの旅行者争奪戦は今後さらに激化する中で、JR九州の企画力が問われる。(青森裕一)