NATROMのブログ

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謎の微小生命体ソマチット

トンデモは連鎖する。ウィキペディアの千島学説の項で、しきりと生物学的元素転換やソマチットやマクロビオティックとの関わりを書こうとする人がいた。その人は千島学説を疑似科学とみなすことにも反対であったが、生物学的元素転換やソマチットと関連するということこそ、疑似科学の特徴を示していることに気づいていないようである。生物学的元素転換のルイ・ケルヴランは1993年のイグノーベル物理学賞を受賞しておりそれなりに有名であるが、ソマチットはそのユニークな内容に関わらずあまり知られていないようなので紹介する。

ソマチット(somatid:ソマチッドとも言う)とは「フランス人研究者ガストン・ネサンが発見し、話題を呼んだ謎の微小生命体」のことである。スターウォーズに出てくるジェダイの騎士が持つミディ=クロリアンのモデルだ(嘘)。ちゃんと学会(■日本ソマチット学会*1)がある。以下、写真以外の引用は日本ソマチット学会のサイトから。まずはガストン・ネサンの業績から。


  1. 微生物を生きた自然の状態で観察することが出来る、倍率が3万倍(分解能:150A=0.015μ)の光学顕微鏡を発明した。

    注:電子顕微鏡は40万倍(分解能:30〜40A=0.003〜0.004μ)だが、微生物を観察するときは、真空状態にするため、電子なだれによって原形質の変化を起こすため、生きた自然の姿で見ることができないところが難点。
  2. 人の血液中に細胞よりはるかに小さな生命体を発見し、ソマチッドと命名した。
  3. DNAの前駆物質であると推測している。
  4. ソマチッドがライフサイクルを持ち、形態を変化させていることを発見した。
  5. その形態変化から、ガンなどの変性疾患の発症を18ヵ月前に予測できることを発見した。
  6. ネサン独自の理論により、免疫強化製剤(714-Xと命名)のリンパ注射により、ガン患者の75%(750/1000人)の治癒率を実現した。ガンのみならず、エイズ、筋萎縮性側索硬化症なども劇的改善を実現させた。
  7. 身体各器官において、ソマチッドの能力は異なる。
  8. 動物実験においては、臓器移植に際し、あらかじめドナーのソマチッドを被移植者に移動させておくことにより、臓器移植後の拒絶反応が起きない。

この人も、他の人には見えないものが見えちゃった系のようだ。可視光線を使う限り、光学顕微鏡の分解能には限界があるのだが、そんなことを気にしていたら先に進めない。とにかくその超高性能顕微鏡で謎の微小生命体を発見したのだ。どんな風に見えたのか気になるよね。■ソマチッド農法 somatid ソマチット健康食品 健康と美容を保つための食品・水・サプリメント研究会*2というサイトに写真がありました。ごらんあれ。







血液中の赤血球とソマチット
黒くて小さいのがソマチットらしいですよ

赤血球とソマチットのサイズ
もちろん大きいほうが赤血球


見ろ、ソマチットがゴミのようだ。サプリメントを売る業者がカモの血液中の「自分自身のソマチット」を見せたりするらしい。人によっては感激するようだ。素晴らしい。最高のショーだとは思わんかね。「DNAの前駆物質であると推測」というのもスゴイ。得意げな顔して何が、DNAの前駆物質だ。お前、DNAって言いたいだけちゃうんかと。dNTPs*3ってのはソマチットが多めに入ってる。「ガン患者の75%(750/1000人)の治癒率」というのも、どんな癌なのかすごく興味がある。胃癌?大腸癌?肺癌?「ソマチットの形態の変化から、発症18ヶ月位前に、ガンの存在を見つけ出すことが出来る」とネサン博士は言っているそうだが、まさか「ソマチットの形態の変化から診断した癌が75%治った」ってわけじゃないよね。また、ソマチットは「通常環境では不死」とされていて、「休眠状態となって長期(数千万年以上)にわたり生きながらえる」のだそうだ。もちろん、科学的に、観察によって証明された。



2500万年前の貝の化石。

その中に2500万年間、殻の中にじっと閉じこもって、チャンスが来るのを待っていた辛抱強いソマチットを発見しました。

これはどういうものか。

まず最初にお見せするのは、化石を粉にして水に漬けたときの映像です。

(注:この映像は近日中に発売予定のDVDの中で見ることができます)

殻を被っているソマチットが、動きはじめている様子が観察出来ます。

約1ミクロンから1.5ミクロン位の大きさの殻を作ったものです。

そして、周りの殻がなくなったので水に反応して、水の中で楽しんでいる、その様子が見えます。


それなんてブラウン運動?「花粉の中のソマチットの研究」もなされているそうだ。花粉中の細粒子などの生物由来の粒子だけでなく、岩石や金属の微粒子もブラウン運動をする。ブラウン運動は生物の活動によるものではないと普通は解釈するが、さすが発想が違いすぎる。「水の中で楽しんでいる、その様子が見えます」というところにも注目。比喩的表現じゃないんだよ。塩酸にソマチットを漬けると見事に殻を造るそうだ。



ソマチットはこの塩酸の中で殻をカルシウムで作っても意味がない事を知っているのです。同じ事をやらないのです。2500万年前にカルシウムで十分な殻を作ったはずなのに、その中で2500万年生きてきたのに、塩酸の中でカルシウムの殻を作るなどという愚かな事は絶対にやりません。

今度は全く別種の塩酸で解けない非常に透明な面白い殻を作ってその中に避難しています。

こうしたことから、ソマチットは非常に高い知性を持っていると推測されます。

そして殻を作る過程で原子変換を行っているのではないかと思われます。


非常に高い知性を持っていると推測されるのですよ。細菌より小さいのに。まさに謎の生命体。なにげに「原子変換」という言葉が出てくるところにも注目。生物学的元素転換とここで連鎖してるのだね。他にも、「尿療法とソマチット」「水素濃度の高いマイナスイオン水を使ってみたところ、劇的に活性が変化する」「日本ソマチット学会理事長の松永修岳氏は、風水環境科学研究所の代表」などなど、他のトンデモと連鎖している。数年前までは千島学説は、知る人ぞ知るといった、ちょっとマニアックなトンデモ説だった。いくらなんでも、現代社会において千島学説なんて信じる人がそうそういるとは思えなかったが、どうやらそうではないらしい。ソマチットも、そのうち流行るかもしれないよ。


*1:URL:http://www.somatid.net/

*2:URL:http://www.somatid.org/

*3:ヌクレオチド溶液。PCRでDNAを増やすときの試薬の一つ。