コナリー推進キャンペーン1

もう何年も、『24』や『プリズン・ブレイク』、『LOST』といったハリウッド製の長編テレビドラマが人気を博すとともに、高い評価を得ています。それらは、高い人気に支えられて続編が作られ、従来の“シリーズ”という言い方とは違い、“シーズン”と呼ばれています。

それらのテレビドラマに匹敵する長編小説があります。マイクル・コナリーの、「当代随一のハードボイルド」と称えられる“ハリー・ボッシュ”シリーズです。「現代史と同伴する」と宣言したのは船戸与一ですが、コナリーの“ボッシュ”シリーズもまた、アメリカ現代史と行を共にする中で、当初の全12巻での完結という作者の構想を越えて、現在も刊行が続いています。

主人公はヒエロニムス・ボッシュ。通称、ハリー・ボッシュ。職業はロサンゼルス市警の刑事。レイモンド・チャンドラーが創造したフィリップ・マーロウの系譜に連なる、汚れた街を行く孤高の騎士です。

組織に馴染まない一匹狼の刑事という設定は手垢が付き過ぎています。大沢在昌は『新宿鮫』で、主人公の鮫島に“落ちこぼれたキャリア”という個性を付与しました。では、コナリーの作りあげたハリー・ボッシュは……。

ヒエロニムス・ボッシュ”は、実在した、奇怪な絵を描く幻想画家の名前です。名は体を表す。これだけで、ボッシュの一筋縄ではいかない警官人生は約束されたも同然です。

ボッシュベトナム帰還兵です。戦地ではトンネルネズミとして活動しました。トンネルネズミとは何か? ベトナムでは、解放軍は地下に縦横無尽に横穴を掘り、司令室までそこに設置していました。当然、トンネルには罠が張り巡らされています。待ち伏せの恐怖もあります。絶えず崩落の危険も。そこに、灯りも持たずに乗り込んで行く兵士でした。

そして、ボッシュの母親は娼婦でした。そのため、ボッシュは母親と引き離されて施設に入れられ、面会も限られた機会にしかできませんでした。その母親は、ボッシュが少年の時、殺されてしまいます。殺人事件の被害者としてボッシュの前から永遠に姿を消します。

こうした心の傷を負いながら、ボッシュは殺人課の刑事として事件を追います。