焦点:欧州展開の日本企業、資産目減りや取引先倒産を懸念

焦点:欧州展開の日本企業、資産目減りや取引先倒産を懸念
1月25日、欧州債務危機により、欧州に展開する日本企業に資金面での影響が一部出始めている。写真は2010年8月撮影(2012年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
[東京 25日 ロイター] 欧州債務危機により、欧州に展開する日本企業に資金面での影響が一部出始めている。欧州金融機関の財務悪化が現地企業の資金繰りを悪化させており、取引先の資金繰り倒産などへの懸念が浮上している。
さらに、欧州国債での運用が主体の日系企業は、資産の目減りにも悩んでいる。ユーロ安・円高や需要減で、日本からの欧州向け輸出は2桁の減少となるなど、日本の実体経済への影響も大きく、今年は欧州での事業縮小を検討している日本企業が目立つ。
<取引先倒産を懸念、一部日系企業で融資に支障も>
欧州で事業展開している日系企業の間では、現在のところ資金繰りや銀行の貸し渋りなどの大きな影響は出ていない。日本貿易振興機構(ジェトロ)では「欧州危機の影響はまだ金融セクター内にとどまっており、メーカーなどの日本企業には資金面でも影響は及んでいない。様子見の段階だ」としている。というのも、現地の邦銀は、一時ドル資金の調達金利上昇に苦しんでいたものの、最近はむしろ、欧州銀の信用低下に伴い欧州企業からの預金が流入している状況。日系企業の資金繰りに問題は特に生じていない。むしろ、これ以上のユーロ建て預金の預け入れを断っているという状況だ。
ただ、現地の日系企業の中には「邦銀のネットワークのない東欧で事業展開する企業で、欧州系銀行から融資の縮小や金利引き上げを迫られているケースもあり、邦銀に借り換えの依頼がきている」(現地情報機関)との話も出ている。また、自社の資金繰りに問題はなくても、「取引先欧州企業が倒産して売り上げ代金が回収できなくることが不安」(商社)といった声もある。
実際、フランスでは企業の資金調達環境がリーマン・ショック時並みに悪化している。フランス企業財務協会の調査によると、資金調査が「容易」との企業割合から「困難」と回答した割を引いたDIは、昨年12月時点でマイナス48と昨夏のゼロから急激に悪化、リーマン・ショック時のマイナス58に迫る勢いだ。
欧州各国の国債価格の下落も、日系企業に影を落としている。邦銀では流動性確保のために欧州各国の国債で資金運用しているが、価格下落による資産目減りに頭を悩ませている。また、欧州に現地法人を構え、資本金がユーロ建てとなっているため、欧州国債で運用している日系企業の間でも、同様の問題が発生している。
<ユーロ安で日本からの輸出2桁減、事業縮小の動き>
日本国内では、実体経済に影響が大きいのは、欧州諸国の需要減退やユーロ安だ。日系企業の欧州内での事業に関しては調達・運用で為替の影響を考慮せずにすむため、「現地日本企業の間では景気急変という感じは少なく、景気減速感の強い南欧で商売するメーカーも少ない」(ジェトロ)ことから、深刻な影響は出ていないもよう。
一方で、日本からの輸出となると、為替による競争力低下の問題が発生。輸出数量にも大きく影響しており、貿易統計では欧州連合(EU)向け輸出数量は昨年11月から急速に減少、12月まで2カ月連続で前年比2桁減少となった。自動車やテレビ、半導体、コンピューターなどが大きく減少している。米国が12月に4カ月ぶりに増加に転じたのとは対照的だ。
日本企業は、こうした欧州の減速は長引くとみている。昨年11月の段階でロイターが調査(大・中堅企業400社対象)したところ、深刻な危機は今年前半で終息するとみている企業は3割にとどまり、今年後半ないし、来年以降との回答が7割に達した。こうした見通しも背景にあり、今年1月の調査では、通貨ユーロの分裂・崩壊に対応するプランの策定が必要と回答した企業が製造業で65%にのぼり、欧州事業の見直しを予定している企業では9割が縮小を検討している。
(ロイターニュース 中川泉;編集 石田仁志)

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