裁かれた命 死刑囚から届いた手紙

裁かれた命 死刑囚から届いた手紙

裁かれた命 死刑囚から届いた手紙

ちょっと前にNHKで、本書で取り上げられている事件に関する番組が放映されていて、関心は持ちつつも観られずにいたのですが、先に本のほうで読むことになりました。これも、高松への行き帰りと空き時間で一気に読みました。番組のほうも、是非、観たいと思っています。
いわゆる永山基準が出る前の事件で、昭和20年代から30年代には多かったようですが、被害者1名の強盗殺人で死刑判決が確定していて、確定後、3年程度で刑が執行されています。現在ならば死刑にはならず無期懲役刑に処せられるでしょう。長期の服役にはなっても、収容中の態度は真摯な人であったということですから、仮釈放は認められて、静かに余生を送りひっそりと生涯を終える、ということになったのではないかと思います。死刑に関する基準、尺度が、今よりも大きく異なり、死刑という究極の刑罰であっても、人による評価を経る以上、時代の中で基準、尺度が変わり、大きくぶれがでてきてしまうということに、割り切れなさ、後味の悪さを感じずにはいられませんでした。
高裁、最高裁で事件を担当した弁護士が、前に、

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20090411#1239451559

とコメントしたことがある中野正剛事件で勾留請求を却下した小林健治元裁判官であったことは、本書を読むまで知らず、驚くとともに、結果は死刑になったとはいえ、こういう優れた法律家によって弁護される機会が得られた被告人(死刑囚)は、その点では幸運であったように感じられました。
本書では、東京拘置所が池袋から小菅へ移転した当時の、死刑囚に対する処遇実態(小鳥が飼えたり食事等で優遇措置があるなど現在とはかなり異なっている)や、戦前から戦中、戦後の激動、貧困の中で生き、死んだ死刑囚の家族の知られざる歴史も、丹念な取材に基づき紹介されていて、深み、厚みのある良質なノンフィクションとしてかなりの読み応えがありました。
刑罰というものは、いかにあるべきか、現在の在り様が正しいのか、常に疑問や議論の中で漂い続けざるを得ない宿命の中にあるものですが、そうした難しい刑罰というものを、答えは出ないものの、考える上で、良質な材料を、本書は提供していると思います。この分野に関心を持つ人にとって、読むべき1冊と言えるだろうと、読了後に感じました。

公安は誰をマークしているか

公安は誰をマークしているか (新潮新書)

公安は誰をマークしているか (新潮新書)

前に少し読みかけていたのですが、高松へ出張し、その行き帰りと空き時間に、一気に最後まで読みました。「公安は」と書名にありますが、大部分は、警視庁公安部について書かれています。
新聞記者によるものらしく、活動実態とともに、過去に警視庁公安部が取り扱った公安事件が、簡潔に次々と紹介されていて、入門書、一種の事件簿として利用でき、この分野に関心がありながら知識が乏しい、という人にとっては、手軽に一通りの知識が得られて便利な1冊になっています。その意味で、お勧めはできる内容です。
ただ、それ以上の深みはなく、公安部の活動が真に国益や国民の利益に沿ったものなのか、都道府県警察の1つである警視庁の公安部が巨大化(肥大化?)している現状に改革の必要はないのか、といった視点は乏しく(著者にそういった問題意識自体はあるようですが)、そういった点は、本書を読んだ後に、さらに問題意識を持ちつつ、いろいろと読んでみる必要はあるでしょう。

2012年03月25日のツイート