「こころを救う医療」とは ~『命を燃やせ』著者:吉岡秀人(認定NPO法人ジャパンハート代表、小児外科医)
著者の吉岡秀人氏
こころを救うということを具体的にするのは難しい。
「たとえ死んでも心が救われている医療」
「生まれてきてよかった。生まれてくる価値があった」
と思える医療。20年以上医者をしていて、私が目指す医療は、結局そこにあった。
すべての患者の病いが治せるわけではない。その現実から出発すると、「病いを治す」という行為そのものよりも、「医療という行為を通してこころが救われたのかどうか」ということが、最終的に残るあり方かもしれない。
それは、言い換えれば「大切にされる医療」である。
人は大切にされるだけで、「どんな障害があっても価値がある」と思う。だから、治せても治せなくてもほんとうにその人のことを大切に扱う。たとえ小さな子どもでも。貧しくても、貧しくなくても大切に扱う。その「こころの姿勢」が大事なのだ。
今、ミャンマーで生まれつき腸と膀胱の奇形で、おなかの壁からおしっこと便が垂れ流しになっている6歳の女の子がいる。彼女の名前はニーニーミンルィン。弟が一人いる。その弟は脳性マヒになっている。
やがて親は死に、この女の子が生涯この弟の面倒を看ていくことになるだろう。その現実はまだこの子にはわからないが、それでも私たちにはそのことがわかる。
私がミャンマーで無償・無給の医療活動を続けて16年。これまでに子どもたちに行なった手術は、1万人にのぼる。毎日、遠い村から、病気の子どもを連れた親たちがやってくる。
親たちが畑で働いている間、子どもが小さな子どもの面倒を見るミャンマーでは、大やけどを負った子どもが多い。生まれつき奇形の子どもたちもいる。貧しい人たちは、病気になっても医者にかかることができない。