メニューはチャーハン1種類だけ! こだわりまくりのチャーハン専門店に行ってきた
あなたが「チャーハン」と聞いて思い浮かべるのは? ラーメンのセットメニュー? おうちで冷や飯を使って作るもの? そんな「常識」をぶっ壊す、ウマすぎるチャーハン専門店が登場した。しかも新橋に。
チャーハン好き? 周りの人間10人にたずねてみると、「好き」「あまり考えたことなかったけど、結構好き」という回答しか返ってこなかった。10人中10人が好きだというものの、飲食業界では地味な存在のチャーハン。ラーメンについてくるとか、残り物を使って作るというイメージが強いのではないだろうか。それを見事に覆すチャーハン専門店「チャーハン王」がこの夏に東京・新橋にオープンして話題となっている。専門店といっても、チャーハンは1種類しかない。一体この店の秘密は? どうして1種類しか出さないのか? 気になるところがありすぎて、取材に行ってみることにした。
こんなところに? それも計算のうち
えっ、こんなところに……? 思わず目を疑う。新橋駅前とはいっても、店があるのは古いビルの地下。しかもかなり奥まったところ。「立地で勝負が8割方決まる」と言われる飲食店にとって不利なのでは? 経営者に話を聞いてみると、すべて計算の上だという。
「うちの隣は新橋ランチで1番人気の『牛かつ おか田』さん。ランチ営業だけということもあり、毎日必ず階段のところまで人が並んでいます。20〜30分待ちは当たり前。その人たちにうちの店を見てもらえばと考えています。待つくらいなら隣に行ってみるかと思わせる作戦です。またビル内のお客様には宅配をしています。結構な数のテナントがありますし、中には1日2食頼んでくれる方もいますよ。賃料も地下だと安くつくのが魅力」(オーナーのSRD代表取締役・黒瀧さん)
リクルート、企業コンサルと華やかな経歴を持つ黒瀧さん。企業再生に長く携わったこともあり、常に最適なビジネスモデルを考えている。低投資、ロス率の低さ、回転率の高さ、全国展開できること……さまざまな分析を重ねた結果、チャーハンには飲食業界で成功する要素が、すべて備わっていると分かったのだという。
誰も真似できない! 超こだわりのチャーハンを実食
前職時代に仕事で福岡・天神をよく訪れていた黒瀧さん。安くて美味い肉を出すと評判の焼肉店の常連になり、そこのオーナーが新たに店を立ち上げるのを手伝った。それが現在食べログの天神エリアで常に1位の焼肉店「たんか」。オープンして何年か経ったときにオーナーから、7〜8割のお客がチャーハンをオーダーするという話を聞き、そこで初めてたんかのチャーハンを口にした。
こんなにうまいチャーハンがあるのか。他店のチャーハンと比べて違いにハッとした。感動すると同時に、カレーやラーメンの専門店はあっても、チャーハンの専門店はないことに気づく。それが出店のきっかけだった。実はかなり高い技術の必要なチャーハン。オープン前にチャーハン王のスタッフは、たんかで2週間に及ぶ「地獄の修行」で訓練を受けた。普通は2カ月くらいかかるところを、2週間とスピード感のある特訓だったようだ。
専門店とはいっても、チャーハン王で提供されるチャーハンは1種類。こだわりがふんだんに詰め込まれている。炊飯時に味付けした温かい米を使うことがポイントだ。卵にも味を付けておく。また10種類の野菜の水分をとるのに1日、九州の黒毛和牛をミンチにするのに1日、2つを混ぜて寝かせるのに1日と、具材の準備にかかるのは3日。たんかで用意されて空の便で運ばれてくる。福岡県産鶏を2日間も煮込んで作るスープもスゴい。
私もいただいてみたがこれはヤバい。お米単体でも深い味わいがある。口の中に入れると「すべてがチャーハン仕様だ!」と感じさせる逸品。味がきちんとしている。セットに付いてくるスープはまろやかかつ濃厚でクリーミー。泣きそうになる。初めてのウマさに興奮して勢い良く食べていると、特製の酢醤油があると教えてもらった。いつも、チャーハンを半分食べた後は酢醤油をかけてみてくださいとお客さんに勧めているそう。かけると超サッパリ! もともとチャーハンにありがちな脂っこさはないのだけれど、口の中が一気にフレッシュな感じに。とことんシンプルにできているからこそ、味に変化も付けやすくなる。
ハンパないリピート率……週5で通うお客も
今思い出してしまうだけでも、よだれが出てしまいそう。それくらいにチャーハンというものへの意識、食べ方、想いを変える運命の出会いだったと思う。さて話を戻そう。チャーハン王のリピート率に注目したい。一般的に多くても30%といわれる飲食店のリピート率だが、チャーハン王では50%超え。中には週4〜5回(!)通うお客さんも10人ほどいるのだとか。
女性客も3割ほどと意外と多い。ランチタイムのピークは正午〜午後1時。厨房では休む間もなく鍋を振り続ける時間帯だ。そのピークが過ぎたあたりから女性客が来店してくる。「キレイなお姉さんといった女性が結構いらっしゃいますね。週2〜3ペースで来てくれる方も。コラーゲンたっぷりのスープは美容・栄養面でも女性に好評です」と黒瀧さん。
中華料理はランチではなく晩ご飯というイメージを持っていたり、ラーメン店に1人で入る勇気のない女性たちにとって、チャーハン王はこざっぱりとしたキレイな空間で、コラーゲンも摂れるお店という印象のよう。女性たちのニーズをかなり満たしている。
飲食業界のイメージを変えたい
新橋にお店をオープンして分かったことは、チャーハンは働く男女ともにウケるということ。チャーハン王は全国展開を目指しており、2店舗目以降は年明けに新宿、渋谷、六本木などで展開していく予定。新宿や渋谷では若者にもウケること、六本木では夜という時間でもウケることを実証したいという。新橋店では来店客の多くはランチタイムに押し寄せる。老若男女と時間という2軸で検証し、結果が出ればもっと大胆に乗り出せる。
スープとチャーハンとのセットで880円。チャーハン単品だと700円。なんと原価率50%というから驚きだ。
「安くすることもできるけれど、それではマーケットができません。たとえコストがかかっても回転率とリピート率が高く、全国展開できればきっちり元は取れるんです。価格を落とすと牛丼業界みたいになってしまうのが目に見えています。ここ10年ほどの間にラーメンが作ってきたような『市場』をチャーハンでも作りたい。それを通じて、もうからない、キツい、大変といわれてきた飲食業界のイメージも変えたい。いいものを作って利益も上げて、従業員もハッピーにできるということを僕らが証明したい」(黒瀧さん)
チャーハンにかける情熱、そこからつながる大きなビジョン――チャーハン王の勝負はまだ始まったばかりだ。それにしてもおいしかった。ひそかに涙が出た。空輸の関係もあるので1日限定150食だ。1度は食べに行ってみてほしい。
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