2012.12.01

官々愕々
橋下氏に仕掛けられたワナ

〔PHOTO〕gettyimages

 11月17日、日本維新の会(橋下徹代表)と太陽の党(石原慎太郎共同代表)の合併が決まった。太陽の党のメンバーである旧たちあがれ日本の国会議員は、「消費増税賛成」「TPP参加反対」「脱原発反対」だった。「消費税地方税化」「TPP参加」「脱原発」の維新の会とはほぼ真逆だから、両党の合流は「野合だ!」という既成政党の批判には一理ある。

「野合」の実態を見てみよう。8項目の政策合意なるものがまとめられており、かなりの程度、太陽側が維新側に歩み寄ったという解説が行われているが、実は真実ではない。

 そこには、双方がどうにでも読めるような玉虫色の表現、つまり、典型的な「霞が関文学」でできた文章が並んでいるが、これを理解するのに、手っ取り早い方法がある。この合意のわずか2日前の15日に発表されたみんなの党と維新の会の合意事項と比較すればよい。

 みんなとの合意では、「TPP参加」だったのが、太陽との合意では「TPP交渉には情報開示して交渉に臨むが、協議の結果、国益に沿わなければ反対」と、「参加」の文字がなくなっている。協議に「臨む」として参加するような雰囲気は出すが、「参加」とまでは言っていない、と逃げることもできる。原発については、「市場価格による脱原発」だったのが、「ルールの構築」だけとなって、「脱原発」の文字が消えた。一方で、橋下氏が「ちゃんとしたルールを作れば2030年にもゼロにできる」と逃げる余地は残してある。

 もともとたちあがれの片山虎之助氏や園田博之氏らは、官僚主導政治の自民党の出で、霞が関文学を使うのにたけていた。一方、弁護士である橋下氏は、これに騙された訳ではなく、このからくりを十分認識した上で、ぎりぎり言い訳できるラインだと考えて飲んだのだろう。

 しかし、今回一番の驚きは、マスコミが注目しているこれらの項目ではない。文書から「改革」の文字が全て消え去ったことと歳入庁設置の文字が消えたことだ。これは何を意味するのか。規制改革では農業、医療分野と書いてあったが、農協や医師会という既得権団体の反対が怖くて項目ごとなくした。これに代わって中小・零細企業対策を中心に経済を活性化するという一項が加わったが、これは中小企業団体に媚びる作戦だ。

 歳入庁の設置が落ちたのはもちろん、独立行政法人の抜本見直し、国有資産売却がなくなったのも財務省とは闘わないという意味だろう。公務員改革は、身分保障の廃止や人件費の2割削減など具体的な記述だけでなく、公務員改革全体が消えてしまった。さらに、企業・団体献金の廃止は橋下氏が一番こだわっていたが、これも完全骨抜きとなった。

 維新がここまで譲歩した理由を好意的に解釈すれば、「偉そうなことを言っても実現できなければ意味がない。実現するためには数が必要。それには石原氏の力を借りるのが一番。選挙が終わったらもう一度本来の路線に戻せばよい。どうせ橋下人気にすがりつきたい連中だから最後は従うだろう」ということなのではないか。

 この作戦は成立するのか。少し文脈は違うが、民主党が政権をとったときのことを思い出す。鳩山政権は、当初、財務省とは闘わない方針を採った。「そのうちに力をつけて霞が関と本格的に闘う」と言っていたが、最初に首根っこを押さえなかったことで、結局は官僚の思う壺にはまり、自民党と同じ道を歩むことになってしまった。この轍を踏まなければよいのだが。橋下氏の踏ん張りがどこまできくのかが注目される。

『週刊現代』2012年12月8日号より

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「核のゴミ」を処理できないという大問題の解決策がない以上、「原子力は悪である」という前提に立った上で取り扱うべきだという「倫理感」が国民の共通基盤になるはずだという筆者の思いは、熱く、なおかつ説得力がある。
 福島第一原発の事故で原発の恐ろしさに目覚めた人、原子力ムラの企みと横暴に怒りを感じた人、そして「脱原発」を目指す多くの人に、真実を伝え、考える道筋を示し、そして希望を与える「魂のメッセージ」。

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