ブログ:日銀総裁の資質とは

ブログ:日銀総裁の資質とは
写真は昨年12月、日銀の白川方明総裁。都内で撮影(2013年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
中川 泉
次期日銀総裁の候補について、その出自が話題の一つとなっている。学者なのか財務省出身者なのか、日銀出身者が総裁・副総裁ポストに残れるのかといった観測が、その資質を問う議論よりも人々の関心を集めている。
確かに、出自が総裁としての言動に大きく影響するのは事実だ。記者が知る過去30数年間の日銀総裁は、日銀出身者と財務省出身者が占め、学者はいないが、総裁の個性という点で確かに出自の違いは大きかった。金融政策への信念という点で、日銀出身の総裁はいずれも際立っていた。反面、政府との協調という点では当然ながら財務省出身の総裁がうまくこなしていた。
ハーバード大学の研究結果として公表されている世界の中央銀行総裁の経歴研究によれば、過去15年間で学者出身者が増加している一方、公的セクター出身者は激減しているという。直近では米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁、イングランド銀行のキング総裁など、主要先進国の中央銀行総裁は学者だ。
確かに経済学の知識は、中央銀行総裁にとって必須条件だが、それだけでは足りない。生き物として経済を扱う以上、机上の理論通りに事が運ばないことは周知の通りで、それはバブル崩壊後の日本やリーマンショックなどの金融危機でも明らかだ。中央銀行総裁は市場の心理や金融市場への理解が欠かせない。中央銀行に長く勤務していれば、それは自然と身につくだろうが、学者出身でも成功している総裁は、そうした条件をも満たしているに違いない。
イングランド銀行の要職にあったデイビス氏とグリーン氏は最近の共著「Banking on the future」で、これらに加えて、ほかに3点を必要な能力として挙げている。
一つは「独立性への意識」で、「ごく目先の選挙に直面して金融緩和を強く迫ってくる政治家と対決しつつ自説を訴えることが困難な状況下で、それは単に法律上の問題ではなく、総裁個人の人格の問題」と指摘している。
確かに次期日銀総裁にとっても、デフレ脱却に向けて大胆な金融緩和を実施することは必要であろうが、それは同時に政治に対して条件を飲ませる信念と力量が問われる重要な局面を迎えることにもなる。それに成功したと評されているのが、ECBのドラギ総裁だ。金融危機に揺れる欧州各国がECBに国債買い入れを迫る中、それをのむ条件として、厳しい構造改革条件を具体的に盛り込んだ措置を決定し、その後の欧州危機懸念は後退した。
二つ目は説得力だ。著者のデイビス氏らは、グリーンスパン前FRB議長に関してメディアインタビューには一度も応じなかったけれど、議会証言だけで金融市場や世界中を説得できていたほか、キング総裁やトリシェ総裁もその能力にたけていると評価する。
三つ目は、中央銀行が集団的に政策を決定する以上、議長としての才覚が重要で、人の話を聞く柔軟性や、議事を透明性を持って公平に進めることが必要だと指摘している。実際、FRBでもハト派とタカ派がおり、ECBにも国債買い入れについては、バイトマン独連銀総裁などの反対派がいた。中央銀行内部にも異論や多様性が存在することは重要な要素で、それがなければ活発な議論も生まれず、結局は組織として脆弱になりかねない。
いずれの資質も次期日銀総裁に大いに期待されるところだ。特に、独立性を守りながら政治との対話を進めることが、いかに難しいか、今回の白川総裁と安倍政権との関係をみていて強く感じている。
その点、福井俊彦前総裁の姿勢が印象深い。かつて総裁時代にインタビューした際、政治からの圧力について尋ねたところ、「政治家の皆さんは、我々がフォローしきれない弱い立場の方々の意見を吸い上げて報告してくださる。それを単に日銀の政策への雑音として捉えることはしない」との答えが返ってきた。
それにしても、これだけ数多くの資質を全て満たす人物となると、そう簡単には見つかるまい。あとは副総裁ら他の幹部らが力を発揮し合ってフォローしていくことになる。次期日銀総裁人事も大詰めを迎えているが、多様性ある布陣で、安倍政権と車の両輪となり、日本経済を再生できる人事になるよう期待したい。
(東京 19日 ロイター)

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