経営環境が大きく変化する中で、情報システムにも変革が求められている。最大の要件は、ビジネスやアプリケーションの変化に備えるプラットフォームの確立だ。ITベンダー各社はどんな基盤像を描いているのだろうか。HPが主張する「IT基盤のあるべき姿」に続き、今回は、その実現に向けてHPが重要視しているテクノロジーを紹介する。(ITpro

 別稿では、「IT基盤は本来、中長期的かつ全体最適の視点から構想されるべきものである」と述べた。本稿では、IT基盤の重要性を再確認したうえで、「ビジネスに貢献するIT基盤は、どのような思想で設計・構築されるべきか」について、アーキテクチャーと技術の観点から考察する。さらに、具体例を元に、IT基盤によって企業情報システムの運用が、どのように変わるのかを説明する。

技術要素の“種類”と管理対象の“数”を減らす

 これまでのITインフラは、個別のプロジェクト単位で固定化されてきた。プロジェクトごとに機能設計・運用設計が行うため、アプリケーションの観点からは最適化されている。個別最適を全面的に否定するものではない。しかし、すべてのプロジェクトで個別最適化が進むと、インフラの観点からは複雑性が増大し、高コストな運用体質を増長させてしまう。

 昨今、インフラ技術は標準化が進んでいる。汎用なサーバー技術、オペレーティングシステム上で様々な業務システムを構築できるようになっている。つまり、標準化によって技術要素の“種類”を減らし、共通化できる機能の共有により管理対象の“数”を減らすことで、機能要件と運用要件をシンプルに実装する。このことが、複雑性を回避する有効な手段になる。

 これからのインフラは、シンプルで汎用的な基盤として、アプリケーションとの独立性を高めていくことが望ましい。背景には、インフラとアプリケーションのライフサイクルの違いがある。アプリケーションアーキテクチャーは、業務プロセスに依存しており、業務のライフサイクルに合わせた変革が求められる。

 これに対して、インフラのライフサイクルは技術革新に依存している。特に最近は、性能向上や、低電力化、仮想化技術の進歩による集約率向上など、コスト削減効果が高いテクノロジーの革新スピードが目覚ましい。業務プロセスの変化より短いサイクルで、テクノロジーをリフレッシュすることで、定常的なITコスト低減が期待できる。

 これらを実現するIT基盤とは、どのような特徴・機能を備え、何を実現できればいいのだろうか?以下では、IT基盤の設計要件として、 (1) 標準化と共有、 (2) IT基盤の抽象化、(3) リソースプール、(4) 運用の一元化、(5) サービスの提供、の五つの軸からひもといていく。

(1) 標準化と共有
 様々なアプリケーションの共通基盤として、ハードウエア機器の標準化は欠かせない。標準化の要件は大きく、アプリケーション機能の集約拡張に適したスケールアップ型と、分散拡張に適したスケールアウト型に分けられる。前者の代表がデータベース、後者はWebアプリケーションなどである。

 スケールアップ型は集約されるため、機器単体としての信頼性、可用性が求められる。すなわち、CPUや、メモリー、ストレージ機器などをオンラインで追加拡張できるような機能が必要になる。

 スケールアウト型では、分散処理や可用性は、アプリケーションによって担保される。そのため機器単体は、シンプルで廉価なものが求められる。ハードウエア機器そのものの機能より、多数のノードを効率的に管理できることが重要になる。

 アプリケーションのタイプによって、選択すべきハードウエア標準は変わってくる。しかし、スケールアップ型とスケールアウト型の双方に対応した機器標準を準備できれば、ほぼ必要十分であろう。そのとき、これらのハードウエア基盤を共有し、ハードウエア資産を有効に活用するためには、仮想化技術が欠かせない技術要素になる。