2010年1月30日土曜日

はじめて読むドラッカー【自己実現編】『プロフェッショナルの条件 ――いかに成果をあげ、成長するか――』

著者:P.F.ドラッカー
編訳者:上田惇生
発行:ダイヤモンド社

 

 知識労働者が組織の中で「いかにして社会に貢献するか」を論じた本です。

 企業の至上命題は利潤の追求です。利潤があってはじめて、企業の現状維持が可能となります。企業にとって利潤は必要条件です。
 だからこそ、利潤だけでは不十分です。企業は社会に対し貢献する義務を負っています。奉仕する義務といっても構いません。労働者に給与・生活を保障し、市場に商品・サービスを提供します。人々に変化・成長を促し、新しい価値を創出します。これが「社会への貢献」であり、「社会への奉仕」です。
 企業、特に先進国内における企業では、労働者の多くが知識労働者として働いています。ここでいう知識労働者とは、それぞれが専門知識を持っていて、その知識を生かすことで労働に従事する者を指します。
 知識労働者が持つ専門知識。単独ではうまく働きません。他の専門知識と結合・融合させることで、はじめて「社会への貢献」につながります。
 すなわち、知識労働者は単独ではなく、複数人で仕事をすることになります。言い換えれば、知識労働者が社会に貢献するには、組織が必要である、ということです。

 この『プロフェッショナルの条件』でドラッカーが述べていることを乱暴にまとめたならば、以下の2点です。

★知識労働者はどうあるべきか
★組織はどうあるべきか

 知識労働者としてのあり方。
 例えば、「強みを知ること」の重要性を訴えています。組織の中で専門知識を活かすのが知識労働者の務めであるのだから、1人1人が強みを知らなくてはならないといいます。そして、その強みは、すでに成し遂げた貢献から見つけ出せると教えてくれます。
 知識労働者は「時間を管理する」ことが必要であると訴えています。専門知識を活かすには、時に細切れの時間では意味をなしません。まとまった時間が必要です。知識労働者は自分の時間を管理することが必須である、とドラッカーは語ります。

 組織としてのあり方。
 組織は社会に貢献するために「意志決定」が必要です。そんな意志決定の秘訣も余すことなくドラッカーはまとめています。優れた意志決定には、正しい方法、および悪い方法があって、そこに注意するだけでも、間違った意志決定の可能性がグンと減ります。
 そして、意志決定を実行し、成果につなげるための注意もなされます。コミュニケーションのあり方、情報の扱い方、リーダーシップの発揮の仕方、人の強みの活かし方。すべてが組織の中で成果をあげるために、あらゆる知識労働者が知っておくべきことです。
 イノベーション(新規導入・革新・刷新)のあり方にも筆は及んでいます。天才ではなく普通の人がイノベーションを成功させるためのコツもまとまっているのです。

 僕がドラッカー本を読んだのは、これで2冊目です。
 1冊目は『ドラッカー入門』。ドラッカー本の翻訳のほとんどを手がけてきた上田惇生さんによる入門解説書です。広大なドラッカー世界の全体像をつかむ、まるで世界地図のような1冊でした。
 『ドラッカー入門』を読み、知識労働者個人として、いかにあるべきかに興味を抱きました。そこで選んだのが、この『プロフェッショナルの条件』です。
 タイトルに「はじめて読む」と冠している通り、導入にふさわしいものでした。しかし、決して簡単というわけではなく、充分すぎるほど本格的なものでした。

 巷にあふれるビジネス書とは一線を画しています。というかレベルが違います。ビジネス書におけるノウハウにぬくぬくとつかるのもいいのですが、ぬくぬくでは得られない世界がここには広がっています。
 ぬくぬくを卒業して、厳しくも新しい世界に飛び出すのならば、ぜひ、ドラッカーをお勧めします。そして、知識労働者としていかにあるべきかを追求したいのであれば、この『プロフェッショナルの条件』は間違いなくオススメです。いつでも読み返したい1冊です。

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2010年1月28日木曜日

ベスト新書『読ませるブログ 心をつかむ文章術』

著者:樋口裕一
発行:KKベストセラーズ

 

 大学受験生への小論文指導で人気を博し、今では小学生から社会人までの文章を指導を担い、そして数々の著書をお持ちの樋口裕一さんによるブログ指南書です。

 樋口さんは本書の中で「読者を意識すること」を繰り返し強調しています。「読者への意識」を軸にブログ文章の指南が展開されます。
 第2章に『「読ませる文章」に仕上げる三つの条件』なるものが登場します。その条件を引用します。

(1) 読み手が知らない情報が含まれている
(2) 読み手にはない体験が含まれている
(3) 誰もが知っている有名人が書いている

 見事なまとめ方です。
 このように「読ませるブログ」にまつわる知識や手法が、本書の随所に整理整頓されています。
 漠然と感じていたこと。それが言語化され目の前に提示されます。そのおかげで断片的だった考えが知識となり、その知識が自分の血肉になるのを感じます。頭の中にバラバラに浮かんでいたピースが整理され、1枚の絵になるようです。

 まとめ方もさることながら、読みやすさも格別でした。あまりにも読みやすく1時間程度で読了。読みにくさが微塵もなかったのに驚きです。小論文指導の第一線で活躍し続けているのは伊達ではありません。
 ただ、小論文指導の呪縛なのでしょうか、何から何まで「白か黒か」でモノを語るのが鼻につきました。いわゆる「二項対立」です。
 「世間では○○と言われているが、私は○○とは思わない。△△と考える」
 小論文指導の王道の形式です。しかし、現実には「真っ白」や「真っ黒」よりも圧倒的多数の「グレー」が存在します。意図的なのか無意識なのか「グレー」を排除しているように感じました。
 何というか、この本のわかりやすさって、面倒な視点を排除して、対比構造を浮き上がらせた結果なのですよね。読んでいる途中で悟りました。

 正直なところ、本書でものの見方や考えが深くなるわけではありません。物足りなさを感じます。
 けれども、ここまで「読ませるブログ」の書き方を端的にわかりやすく書いた文章もなかなか存在しないでしょう。その点で実に希有な存在です。
 「ネタがなくてブログを放置している」「飽きたので開店休業状態」「つまらない日記風ブログに陥っている」といった諸症状を抱えているならば、一読するべきです。もちろんこれからブログを始めるという方にも背中を押してくれる1冊です。

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2010年1月27日水曜日

『Twitterマーケティング 消費者との絆が深まるつぶやきのルール』

著者:山崎富美、野崎耕司、川井拓也、斉藤徹
発行:インプレスジャパン

 

 タイトルが本の内容をズバリと示しています。Twitterの活用によってマーケティングに成功している事例を取り上げ、その手法や考え方をまとめた解説書です。

 この本の構成は以下の通りです。

第1章 ビジネスツールとしてのツイッター
第2章 販促メディアとしてのツイッター
第3章 ツイッターのビジネス活用レポート
第4章 顧客コミュニケーションプラットフォームとしてのツイッター
第5章 ビジネスに使える厳選ツイッターツール

 ツイッターとはいかなるものか、についてはほとんど語られません。ツールとしての特徴に注目し、早々に核心に入っていきます。第1章で本書の主旨のほぼすべてを語ってしまっていると言えます。心地いいテンポの良さです。
 第1章で述べられているのは、ビジネスツールとしてツイッターを活用するのに心がけるべきポイントです。アカウントをとる段階からつぶやきを開始し、フォロワーを増やしながら、どのように拡大していくか。これらが整頓されています。
 項目だけ並べてみます。

◆ツイッターを導入する前の5つのポイント
◆ツイッターを使う上で気をつけるべき4つのポイント
◆ツイッターに慣れてきたら心がけるべき4つのポイント
◆企業にとってのツイッター活用法

 それぞれの項目でどんなアドバイスが書かれているかは、ここには書きません。直接本書をご覧ください。

 第2章から第4章にかけて、これらの項目の正当性を確認しています。本書にはそのような記述こそないものの、そこに展開されるのはまさに確認作業です。
 多くの企業がそこには登場します。フォロワー数が10万を超えるヤフーやスターバックス、デルといった企業から、フォロー数が数千の企業までバラエティに富んでいます。
 第3章では代表的な企業へのインタビュー記事です。どのように口火を切ったのか、日常の体制、つぶやきの内容で心がけていることなどが、ダイレクトに伝わってきます。まだまだツイッターが過渡期であるが故の、ピュアな内容です。
 第4章ではツイッターを活用している企業を、その使い道によって分類しています。「オープンな顧客対話型」「マルチな顧客対話型」「積極的な顧客対話型」「一斉配信型」といった分類は、ツイッター運営のヒントの塊です。また「1日あたりの平均ツイート(つぶやき)数」や、対話率・リンク率・RT率といった「つぶやき内容を分類した割合」も掲載されています。こういった統計データは、これからツイッターをビジネスツールとして使っていく人にとって、ありがたい存在でしょう。

 ツイッターは個と個が交差するツールである。この本を読んで、あらためて感じました。
 どの企業の成功事例を見ても、そのつぶやき内容には「個性」が光っています。つぶやきにクスリと笑える要素があったり、コミュニケーションを積極的に図ったり、賞賛の声や非難の声に耳を傾けすぐに反映・改善したり、その活用の仕方にどれとして同じモノが存在しません。そのつぶやきの向こうには、薄ぼんやりとした形の「企業体」なんかではなく、「個人」が感じられます。
 企業アカウントにとっても、究極的には「個の追求」が鍵であるといえそうです。この本のサブタイトルにも「消費者との絆が深まる」と明記してあります。

 この本が発刊されたのは2009年10月。比較的最近の本です。ようやく成功事例が報告されつつある時期です。だからこそ必ずうまくいくハウツーに値する十分条件はまだ整えられていません(これからも整えられるという保証はありません)。
 今はこういった成功事例を追跡・研究し、自分にも活用できる必要条件を探るしかない時期です。このとき追跡・研究をするのに、この『Twitterマーケティング』は便利な本です。
 大企業・中小企業・個人といった大小に関わらず、モノやサービスを売ったり、ブランド力の向上を望んだりしている人にオススメです。

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2010年1月23日土曜日

講談社文庫『哲学者かく笑えり』

著者:土屋賢二
発行:講談社

 

 「笑う哲学者」こと土屋賢二さんによる面白エッセイです。
 本全体は2部構成となっています。前半は、1996年に『小説現代』に掲載されたエッセイ12編です。後半は、土屋さんがイギリスへの留学中にやりとりした「滞英往復書簡録」です。

 何といっても、後半の「滞英往復書簡録」がお気に入りです。すでに4~5回は読み直したでしょうか。そのたびに笑いがこみ上げてきます。
 往復書簡の相手は、土屋さんの大学時代の先輩。両者ともジョークを遠慮なしに飛ばしています。字面だけ読みとると互いに悪口を言い合い、けなしあっているかのように見えるブッラクユーモア。信頼関係がしっかりしているからこそ書ける冗談。時間や距離を越えても変わることのない、そんな2人の関係がうらやましく思えます。

 図書館へ行くたびに土屋賢二さんのエッセーを借りているのですが、本当にハズレがありません。すばらしいヒット率です。感服します。ついには『週刊文春』の連載エッセイも追いかけ始めました。
 「賢くなる」とか「何かの役に立つ」とか、そんなことは書かれていませんが、ただただ肩の力を抜いて笑いたい。そんなときにオススメの1冊です。「滞英往復書簡録」はホントにオススメ! ぜひ、読んで!

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2010年1月21日木曜日

『スープのさめない距離 辞書に載らない言い回し56』

著者:道浦俊彦
発行:小学館

 

 「本日は晴天なり」「デザートは別腹」「自転車操業」「地球にやさしい」「安全神話」「サクラサク」……。
 辞書には掲げられていないけれども、耳に、目に、口に、手になじんだ言葉たち。そんな言葉たちをテーマに綴られた56編からなるエッセイ集です。
 著者は読売テレビのアナウンサーです。残念ながら僕はテレビで拝見したことはありませんが、「平成ことば事情」なるコラムを連載しているとのこと。(今確認したら「道浦俊彦TIME」なるブログもありました)

 話題の広さに驚かされました。
 「この際だから」というのは、関東大震災が発生したときに流行ったらしいです。この際だから生活を見直そう。そんな想いが「この際だから」という言葉には込められています。
 カルピスのキャッチフレーズとして有名な「初恋の味」。このフレーズが登場したのはなんと大正12年のこと。80年以上前の新聞広告に掲載されたというのです。当時はモダンな味だったのでしょう。それが「初恋の味」と表現され、平成の世でもこうして変わらず生き残っているのに驚きを覚えます。
 みなさんは「遠慮のかたまり」という言葉になじみがありますか。なんでも関西圏では日常語。全国でも当たり前に使われていると関西人の多くの人は思っているようです。(関東人の僕にとって関西圏で日常語というのに、逆に不思議な感じがします)

 これらは56編からなるエッセイのほんの一部です。
 それぞれの言葉のいわれを紐解き、エピソードを紹介し、雑学を散りばめています。ただ単純に意味を解説しているだけではりません。メッセージを投げかけ、読み手である僕らに問いかけているようです。「あなたのその言葉、便利に常套句にしてはいませんか。歴史や背景に想いを馳せてみませんか。人々の想いに心を寄せてみませんか」と。

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