「トヨタ、次代の敵はグーグル」---。こう題するコラムが、2010年10月13日付の日経産業新聞に掲載された。米グーグルは弊社のようなメディア産業だけでなく、広告産業やソフトウエア産業の既存企業に深刻な打撃を与えてきた。そして今や、世界最大の自動車メーカーであるトヨタ自動車さえも、グーグルを脅威と見なし始めているというのだ。

 トヨタはグーグルの何を脅威と感じているのか。トヨタは10月5日、スマートグリッド(次世代送電網)の中核となる独自の情報システム「トヨタ スマート センター」を開発したと発表した(発表資料)。日経産業新聞によれば、トヨタの幹部は「スマートグリッドで(グーグルに)攻め込まれたら、事業の根幹が崩れる」との危機感から、自社によるスマートグリッドシステムの開発に取り組んでいるのだという。

 電気自動車を充電するためのインフラを他社に押さえられ、規格や仕様を支配されると、「車を自由に作れなくなる」(トヨタ幹部)。このようにすら考えていると、同紙は伝える。

グーグルが狙う自動車とスマートグリッド

 実際、10月には「トヨタが感じるグーグルの脅威」を目の当たりにする二つのニュースが報じられた。一つは、10月9日付の「グーグルが『自動運転自動車』を開発している」というニュースだ(関連記事:Googleが自動運転カーを開発、公道22万キロの走行に成功 )。この「グーグルカー」はビデオカメラやセンサーを搭載しており、自動車自身が周囲の状況を判断しながら、自律的に走行する。

 もう一つは、グーグル自身がスマートグリッドを建設するというニュースだ。グーグルは10月12日に、丸紅などと共同で大西洋沖の洋上風力発電所と米国東部を結ぶ大規模な海底送電網を建設すると発表した。独立系発電事業者(IPP)が建設した洋上風力発電所の電力を、ニュージャージー州、デラウエア州、メリーランド州、バージニア州の200万世帯に供給する送電網で、総事業費は最大5000億円、電力供給量は最大6000MW(600万KW)になるという。

 600万KWという電力供給量は、かなりの規模である。例えば、東京電力の2009年における最大供給電力量は5450万KW(2009年7月30日)だった。グーグル/丸紅連合は、東京電力の10分の1強という規模の電力を供給するというのだ。しかもこれらの発電源はすべて、風力発電である。

 グーグルは自動車開発に関する10月9日付の声明の中で、「(創業者である)ラリーとセルゲイがグーグルを創業した目的は、テクノロジーによって真に巨大な問題を解決することだった」と述べた。グーグルのミッションは、もはや「世界中の情報を整理する」にとどまらない。トヨタ幹部が危機感を持つように、グーグルが自動車産業や電力産業に野心を持っていることは間違いない。

「モノのインターネット」が突破口

 さらにグーグルは、あらゆるビジネス領域に進出する準備すら始めている。グーグル日本法人の村上憲郎名誉会長は最近、スマートグリッドのことを「Internet of Things(モノのインターネット)」と表現する。スマートグリッドでは、あらゆるモノがセンサーを備え、インターネットに接続され、情報を発信するようになる、という意味だ。

 グーグルが整理できる情報は従来、インターネット上に存在するWebサイトなど、限られた領域だけだった。スマートグリッドによって、グーグルが整理できる対象が飛躍的に拡大する。それに伴いグーグルのビジネス領域は、飛躍的に広がろうとしている。

 グーグルはまず、メディア産業や広告産業に壊滅的といっていいビジネス上の打撃を与えた。続いてグーグルは旧来型のIT産業にも殴り込みをかけた。それが「クラウドコンピューティング」だ。

 クラウドはグーグルにとって、野望の実現に向けた「第二歩」に過ぎない。次のターゲットは、電力産業や自動車産業、通信産業である。さらにその先もきっと、模索し始めているはずだ。