私はtwitterで宮崎県の東国原知事のアカウント(@higashitiji)をフォローしているので、口蹄疫の発生とその問題については早くから興味関心を持つ事ができた。私をフォローしている人から、何度も口蹄疫関連のRTをせよと、しつこく迫る人もいたが、twitter界隈の人たちは私がRTなぞしなくとも、早くから問題に気づいていると思っていたのだ。

しかも、マスコミ報道などの安易な姿勢ばかりを見ていると事の本質を見誤る。私がこの問題について発言をこれまで控えてきたのも、色々と忙しくそこまで調べる時間が無かったせいだ。週末多少余裕が出たので色々と調べてみた。

そもそも口蹄疫の原因となるのはウィルスである。世間的に影響がある人がブログなどで「菌」が伝播するなどと書いているのを見かけるが、「菌」といえばそれは普通は細菌のことであり、ウィルスはもっと小さい病原体で単独では生存することが出来ない。基本的に他の生物の細胞内に寄生して増殖し、伝播する。生物細胞のように核と細胞質を持たず、核内の遺伝物質であるDNAやRNAとそれを包む殻からなる物体がウィルスの正体である。

野口英世が最後まで見つけられず、最後は自身が罹患した黄熱病の正体もウィルスだったが、細菌説を唱えた野口が見つけられないのも当然である。当時の科学水準ではウィルスのような極小の病原体を分離することは不可能だったからだ。しかし、その19世紀の末期、ウィルスらしき病原体が存在することは状況証拠から分かってきた。今回問題になる口蹄疫もそのときにウィルス説が非常に有力になった。

最近問題とされる病気の病原体はウィルスをはじめ、BSEの原因とされるプリオンたんぱく質など、どんどん極小化している。さらにたんぱく質の切れ端であるペプチドなども病原体とされる場合がある。これらの病原体は化学合成するには大きすぎ、視認したり分離するには小さすぎるという所が厄介なのである。ペプチドはアミノ酸が立体的につながったものである。システインという硫黄原子を含むアミノ酸がその立体結合をコントロールしている。BSEの原因とされるプリオンもその立体構造が違う異常プリオンが原因とされているのだ。

ウィルスの場合、自己の細胞を持たない利点として恒常的に生物であり続ける必要がなく、乾燥などに長期間耐えうる事ができる。宿主に寄生したあと、生物のような振る舞いをして増殖し続ける事が可能だ。しかし、一番厄介なのは遺伝子が変異しやすく変異しても病原性を持ち続ける事だ。しかし、その反面感染する生物が全滅してしまうような致命的な繁殖をしないウィルスが長年にわたり定期的に流行することになる。インフルエンザウィルスやヘルペスウィルスなどその典型例だ。

ウィルス性の病気に罹った患者を治療したり、予防したりする主な手段がワクチンの接種である。口蹄疫も同様にワクチンを接種させる。たが問題なのはここからだ。

1997年の台湾の口蹄疫(殺処分がもたらしたもの)- 地球の記録

口蹄疫に感染した牛や豚が全頭死んでしまうわけではない。幼畜では致死率が高いらしいが、大人になっていたらそこまでの致死率ではない。肉量は落ちるが食べて人に害があるわけではない。ワクチンを接種した罹患していない牛や豚まで殺してしまうというのは、インフルエンザに罹ってなくても、ワクチン接種した人を殺してしまうようなものであり、はっきりいって乱暴な処置である。が、家畜であるのでそんな乱暴な処置が許されているのである。

台湾での流行ではほぼ台湾の豚が全滅したそうだ。イギリスでは1000万頭の家畜が処分されている。さらに、感染を防ぐために戒厳令のような状況に置かれ、飲食店産業などは壊滅的な打撃を受ける。そして、それは補助金では穴埋めされない。まだ家畜を処分した農家には補助がある分ましなのかもしれない。

[口蹄疫]いたる所に石灰散布…最大の感染地・川南町ルポ

今回の口蹄疫騒動で初めて知った事だが、日本は口蹄疫清浄国として汚染国から肉を輸入することを禁じてきたらしい。口蹄疫清浄国の定義とは口蹄疫が発生していないだけでなく、ワクチンも使ってはいけないという。しかし、これで日本は汚染国になってしまった。口蹄疫ウィルスは前述のとおり変異しやすいし、長い間非生物として家畜の汚物などを含む土壌に潜伏している。数年は汚染国のままの状態であろう。

そもそもこういった定義が必要なのか?ワクチンを接種した健康な家畜であれば食用に供するべきではないか?流行を抑えるために一部の感染地域の農家や周辺産業にこのような仕打ちをするのが正しいのか?今一度考え直す時期に来ているのかもしれない。

この汚染国・清浄国問題は牛肉・豚肉の輸出入問題、畜産農家保護問題にもつながる大きな問題である。つまりアルゼンチンやブラジルなどの非清浄国からの畜産物輸入を制限しているという事実がある。これはある意味利権の確保と国内産業の保護のためといえる。日本が非清浄国になってしまった今、これも見直されるかもしれない。そうなった場合既に黒毛和牛のA5などの脂身の多い肉に偏って、消費者の健康志向ニーズからも離れつつある日本の畜産業の死活問題にもなりえるのではないか。

もうひとつ、今回の問題でBSEの時と同じような不正行為が行われる可能性が高い事だ。こちらも監視していかなければならないだろう。
宮崎県の畜産農家の人たちは非常に気の毒であるが、今回の件を教訓として殺処分の妥当性を含めてこれから議論していく必要がある。
自給率問題も同様である。こういった問題が起こったときに100%農産物を自給していると、非常に大きな問題となるのだ。

ま、しかしこんなレベルの低いテレビ局は論外といわざるを得まい。

【口蹄疫】フジテレビが消毒せず取材したと認める

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