My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

アメリカの新エネルギーベンチャー熱に6つの喝!

2010-04-07 08:47:36 | 2. イノベーション・技術経営

例の私がTAをつとめているDisruptive Technologyのクラスで、新エネルギーベンチャーに関する講演があった。
ボストンのあるベンチャーキャピタルで、新エネルギーなどを担当している方が講演したのだが、
内容が非常に面白かったので、メモがてらブログに残しておこうと思う。

今アメリカでベンチャーがアツい分野といえばIT、バイオ・医療、そして新エネルギーの3分野。
ITは言うまでもないが、バイオや医療は、遺伝子情報を活用した診断や製薬から、医療機器、途上国などへの医療提供に至るまで、広範囲で人気の分野だ。
そして新エネルギーは、太陽発電、風力発電みたいなのから、電気自動車、燃料電池にいたるまで、
石油などの旧エネルギーを置き換えるあらゆる技術が含まれる。

特に、バイオ・医療と新エネルギーは、アメリカではオバマ政権の強力なバックアップがあるので、
ますます起業熱が高まっている。

そんな中、新エネルギーを担当するベンチャーキャピタリストとしては、盛り上げていきたいところ、
と思うが、まるでそれに冷や水を書けるように非常にフェアで冷静な見方を提供する、示唆的な講演だった。

ビジネススクールとかには、簡単に「エネルギー分野でベンチャーキャピタルとか行きたいです」
などという人たちが非常に多いのだが、(過去参照記事
本気で石油など化石資源に基づくエネルギー消費を減らしたい、という目的を持っているなら、
単に新エネルギーのベンチャー熱を盛り上げるだけじゃ、解決しない。
本質を見て、現実が如何に厳しいことか知れ
、というものだった。

以下、面白かったと思う言葉を取り上げて、最後に私なりにまとめておこうと思う。

1. There is enormous laid in infrastructure that is fully depreciated, makes it easier for incumbents to survive and bigger is usually cheaper
(既にエネルギーインフラは償却済みだし、大きい方が安いので、インカンバントのほうが有利)

新エネルギーどうこう言っても、結局エネルギーを生み出すという観点では、
石油などの旧エネルギーに根ざした旧来のプレーヤーの方が絶対に有利なのだ。
何故なら、投資したインフラは既に償却済んでるし、発電は常にスケールメリットがあるので、
結局「新エネルギー」は余程のことがないと、旧来のエネルギーよりも割高になってしまう。

石油資源の枯渇を防ぐための新エネルギーの開発は常に重要なのだが、
難しいことではある、というのをしっかり理解しておく必要がある、という教訓。

2. Easier to start than to finish (始めるよりExitが大変)

エネルギーベンチャーというのは、始めるのは割と簡単なのだそうだ。
これだけ流行っていると、アイディアや技術はどこにでも転がってるし、
オバマの政策のおかげもあって、資本も流入しやすい、流行ってるから人材も手に入る。

しかし、本質的にエネルギー産業とはスケールメリットの産業。
大きくしないと、旧エネルギーとの競争に負けるから、中々儲からないのだ。
儲からないとIPOも出来ない。
トヨタの電気自動車など、参入してくる大企業を除けば、エネルギー大企業は、本気で新エネルギーに興味のあるところもないから、バイアウトも中々ない。

そう考えると、実はExitが非常に難しい分野であり、VCとして投資するには非常に気をつけないとならない産業だという。
オバマ政権の盛り上げ策に乗って、VCがどんどん投資しすぎるのは危険。

3. Denominator is as important as the numerator (分母は分子と同じくらい大切)

以前の記事「21世紀、全てのサービスは非中心化していくだろう-My Life in MIT Sloan」の
コメント欄でも指摘されたが、新エネルギーがどんなに出てきたとしても、
結局新興国などを中心とした全体のエネルギー消費が大きければ、旧エネルギーがなくなることはないだろう。

つまり、全体のエネルギー消費(分母)は、新エネルギーで供給できる量(分子)と同じくらい大切なのだ。
分子がいくら大きくなっても、分母が増大し続ければ、石油資源などの枯渇は免れないだろう。

逆に言えば、石油などを使った旧来のエネルギー産業は、分母が成長し続ける限り、成長できる。
分子である新エネルギーが、全く脅威にならないのだ。
分母の成長が続く限り、インカンバント(旧来の大企業)がわざわざ新エネルギーなんぞに移行する理由はないのだ。

4. Behavioral science is as important as chemical engineering
(行動科学は化学工学と同じくらい重要)

新エネルギーが旧エネルギーを覆すには、全体のエネルギー消費(分母)も大事だ、ということを考えると、
じゃあ分母をどう小さくとどめるか、というのが実は大切になる。

多くの人は、化学工学など科学技術でイノベーションを起こし、分子を大きくすることが大切だと思ってるが、
人々のエネルギー消費のあり方を変えるための行動科学が実は重要な役割を果たす。
でも、このあたりは余り研究されてないのが実情らしい。
お金にならない分野だから、大学が先行して引っ張るしかないんだよねー、と言う話。

5. Cost of capital is high for a lot of reasons. Who's job is to bring it down?
(エネルギーベンチャーの資本調達コストは総じて高い。誰がこれを下げるべき?)

Cost of capital っていうのは、資金を調達するためにかかるコストのことで、
例えば借金するなら、利息(から税金の寄与を引く)のことだし、
株式を発行して資金を調達するなら、配当やIR費用など、そのためにかかる費用全体を指す。
まあ要は利子みたいなものだ、と思えばよい。

知らなかったのだが、ベンチャーキャピタルを活用した場合のCost of capitalって、一般的には30%を越えるらしい。
銀行から借金すれば利子は10%程度、債券発行すれば5-20%などで済むことを考えれば
これは非常に高い。
もちろん、Cost of capitalはリスクで決まってくるので、それだけVCはリスクの高いところをやっている
のでこれは当然のことなのだが。
具体的な数字を聞いて、ちょっと驚いた。

ところが、エネルギー分野は、一般的にcapital intensive-投資がたくさん必要な分野なので、
cost of capitalが高いとかなりつらい資金繰りを強いられることになる。

要は、リスク(=利子)が高いのに、初期投資がたくさん必要という、非常に大変な分野なのだ。
しかも、実際に儲けが出るまで時間もかかる。
エネルギー分野とは、利子の高い借金を大量に、長期間し続けないとならないビジネスだっていうことだ。

ちなみに他の分野を見ると、例えばバイオベンチャーとかも、初期投資がかなり必要な分野だが、
VCよりも製薬企業などが、積極的に投資を行っている。
しかし、エネルギーは、大企業の引き受け先がそんなにないので、
この分野で資本の流動性を高めるにはVCが活躍するしかない。

新エネルギーをやるには、VCもかなりの覚悟を強いられる、ってことだ。

6. Politicians hate system thinking
(政治家はシステム的思考を嫌う)

上記の理由もあり、エネルギー分野では、インフラを整えるなど、
システマティックにベンチャーが成長しやすい素地を作らないと、実は中々ベンチャーは成長しない。
しかし政治家は、システムや仕組みを作るのを嫌うので、これを説得するのが非常に難しいのだと言う。

その理由については語ってくれなかったけれど、想像するに、
「ベンチャーが育ちやすい仕組み」なんてものを作ってしまうと、
政治家の寄与できる点-口を利いたりお金を上げたり-が無力化してしまうからなのだろう。

 

以上、他にも、技術のことなどにも踏み込んで、面白い話が色々あったのだが、とりあえずここまで。
まとめると、

・結局エネルギー分野は、スケールメリットが効くし、旧来のエネルギーの方が安いから、新エネルギーは苦戦する。
・世界のエネルギー需要も増え続けているので、旧エネルギーへの需要もなかなか減らない。
・従って旧来のエネルギー大企業は、今のままでも十分成長できるので、新エネルギーに本気を出さない。
・よって、新エネルギーを発達させるには、ベンチャーに頼るしかない。

・しかしエネルギー分野は、Capital intensiveで、中々黒字化しない事業だから、ベンチャーは結構厳しい世界。
・それを資金・経営面で支えるベンチャーキャピタルには相当の覚悟が必要となる、

と言う話。

夢を持つのは常に大事。
しかしその夢を実現させるには、現実を直視していかに厳しいことか知り、それでも出来る方法を追っていくのが大切なのだ、
という非常に勉強になる講演だった。

(注)もちろん、「新エネルギー」というのは幅が広くて、LEDの電灯とかも含まれるから、
全ての新エネルギー分野にこの話が当てはまるわけではない。
しかし、旧来の化石燃料を新エネルギーで置き換える、ということを考えてるなら、
この問題は常に付きまとうから、良く考えなさい、という話。

←面白かったら、クリックして、応援してください



最新の画像もっと見る

8 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (baya)
2010-04-07 10:58:52
初めて投稿する者です。いつも楽しく拝読させていただいております。今回の記事は、自分の関心分野に近いということもあり、特に興味深く読ませていただきました。

6つ目の「政治家はシステム的思考を嫌う」という点についてですが、その理由としては、ご指摘の理由ももちろんあるかとは思うのですが、同時に、「単純にそこまで考えが及んでいない」ということもあるのではないかと感じました。

ここでいう"politicians"には、厳密な意味での政治家だけでなく、行政機構やシンクタンクといった、広い意味での政策立案関係者が含まれていると思うのですが、その中でも、新エネ政策に関与するのは、多くの場合、エネルギー分野の専門家であって、彼らが同時にベンチャーの振興政策にも精通している可能性は、必ずしも高くはないのではないかと。

「単に新エネルギーのベンチャー熱を盛り上げるだけ」ではなく、「本質を見」て行動しなければならないとのご指摘は、政策を考える側にも大いに妥当すると感じました。
環境バブルかな (毒舌批評家)
2010-04-07 13:25:32
「エネルギーベンチャー」を志望している人が多いという指摘を受け、
次に発生しそうなバブル、というかアメリカが次に仕掛けてくるバブルは
環境バブルのような気がしてきました。

というのも、
新しいエネルギーはおそらく「環境への影響」、「エコ」を売りにして売り出すでしょうし、
そして、従来のエネルギーとの比較で、二酸化炭素排出量を取り上げるはずです。

二酸化炭素が地球温暖化の原因だという「仮説」が何故か受け入れられている以上、
エコを売りにすれば、新しいエネルギーが受け入れられる余地は十分あります。
(二酸化炭素が先で地球温暖化が後か、地球温暖化が先で二酸化炭素が先かは、
鶏が先か卵が先かという議論と同じです)

そして、アメリカが得意とする金融工学を駆使した排出権が証券化されると、
排出権取引と“化学反応”を起こして、環境バブルが完成すると思いました。


The hype about new-energy? (kirikuzudo)
2010-04-07 23:21:03
とても参考になります。
そして、The hype about hydrogen という本を思い出しました。(私が読んだのは和訳ですが)

分母を減らすというのは、非常にわかりやすい表現だと思いました。

技術的な視点だけで見ると、この世界にはまだまだエネルギー消費面で無駄が多く改善の余地もたくさんあるのですが、
このあたりもVCの方がお話になっているように、既存のモノの方が心理的コストも含めて安く、攻略が難しそうです。

排出権取引や規制などの社会的な援護に頼らずに、
「性能は互角、エネルギー消費が少ない、なにより安い!」
ってな製品を次々と打ち出していくのが、分母を減らす着実な方法なのではないかと思っています。
コメント数 (yumemakura)
2010-04-10 07:11:34
英語のことではものすごいコメント数だったが、この件では一変してコメントが激減した。なんで英語のことになると人はあれほど関心があるのでしょうね。
興味深く拝見しています (jiro)
2010-04-11 22:50:49
僕は科学系の番組が好きで、数年前はテレビを楽しみにしていたのですが、近年はめっきり減りクイズやバラエティーばかりです。
ドキュメンタリーみたいに作り上げられていくしっかりした放送も好きなんですよね。
ここのブログにはそういった気骨があります。元気のいいときにしっかり読みます。疲れているときは飛ばし読み^^;
それでも参考になります。
Unknown (七誌のごんべえ)
2010-04-13 20:28:17
今回のエントリーを呼んで思ったのが
そういえば某技術系雑誌に
通信回線を高速化してどこでも仕事が
できるようになれば通勤にかかる
エネルギーが思いっきり減る。
ということが書かれていたことを思い出しました。
案外新エネルギーベンチャーよりも
実際の物の動きを無くして
情報だけでやり取りするようにする方向にもって行くITベンチャーのほうが
地球の環境のためになったりするという
結果になるかもしれませんねえ。
驚きました (eisuke)
2010-11-06 13:57:04
初めて拝見させていただきました。
国際関係、安全保障などを学ぶ、これからITと社会心理について修士で学ぼうとしている者です。

コメントしようと思ったのは、
エネルギーベンチャーの資本調達コストが30%というところに素直に驚いたからです。

そのベンチャーの現在価値がいくら高そうに感じたとしても、やはりリスク感は非常に高いのが現状なのですね。

環境、エネルギー分野で、国際的に価値を生み出していくような技術をもったベンチャーで働きたいと軽い気持ちで思っていましたが、
もっといろいろ勉強すべきだと痛感しました。

貴重な情報をありがとうございました。
探していたところにたどり着いた気がします。 (takahiro)
2011-01-26 23:33:57
初めて拝読させていただきます。

ずっと新エネルギーのベンチャーを作ってみたいと考えている者です。
大学では核融合エネルギーについて研究しています。
3E問題がある現在では、旧エネルギーではないエネルギー源を世の中に普及させるべきかと考えているのですが、旧エネルギーの壁が予想以上に大きいようですね。どうしたら新エネルギーを世の中に広められることができるか、考える必要があると思いました。
参考になりました。ありがとうございました。

post a comment

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。