本書について「はじめに」に、「『戦争は二度と起こしてはいけないと思いマース』といった内容を直接的に主張することもしません。この件については、『ちくまプリマー新書』のライバルである(らしい)ジュニア向けの新書にお任せいたします」(p13)と書かれている。
こういう文章は「立派な良識ある大人(特に男性)」には書けない、と私は思う。「マース」という語尾に籠められた嘲弄性。そしてその嘲弄を、ほとんど名指しで「岩波ジュニア新書」に向ける小生意気さ。他方で著者は「ちくまプリマー新書」に対しても、その想定読者層への世間一般的な配慮を随処で踏みにじることによって、おそらく編集者をハラハラさせたと推測される。
著者は自分が軍隊体験記や戦争中の回想録を好んで読むのは「魂の試される時」、つまり「自分の卑しさとか狡さとかがモロに出てしまったというような、イヤーな体験の思い出」が溢れているからで、「その悔恨の場に立ち会うとき、人間も捨てたものではないという思い」に満たされるのだと言う(p51)。この「魂の試される時」に焦点を当てようとして著者が発見したのが、おそらく上記のような文体だったのだろう。著者は意識的にか直感的にかそうしたflippantな文体を選ぶことで、良識ある大人(特に男性)たちが作り上げる社会の「いやったらしさ」を、それこそ「いやったらしく」炙り出そうとしている。
(ところでこの「いやったらしい」は著者の愛用する形容詞だが、辞書には載っていない。ググれば岡本太郎や村上春樹の用例が簡単に見つかるが、どうも意味には相当のブレがある。この点は検討の余地があると思う)
しかしp53の「『自分の職業の弱さ』(ギクッ!)」という自分ツッコミにも見られるように、この著者は女性でありつつ(……失礼!)、自分が「立派な良識ある大人(特に男性)」の一員でもあることを十分自覚しており、そのflippancyは一種の自虐でもある。だとすれば本書最終章で語られる軍隊内の「稚児」とは、ある意味著者自身ではないか。そういう複雑に折り重なった自分語りが、本書の弱さなのではないかと私は感じる(ギクッ!)。
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男の子のための軍隊学習のススメ (ちくまプリマー新書 89) 新書 – 2008/8/1
高田 里惠子
(著)
- 本の長さ185ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日2008/8/1
- ISBN-104480687890
- ISBN-13978-4480687890
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登録情報
- 出版社 : 筑摩書房 (2008/8/1)
- 発売日 : 2008/8/1
- 言語 : 日本語
- 新書 : 185ページ
- ISBN-10 : 4480687890
- ISBN-13 : 978-4480687890
- Amazon 売れ筋ランキング: - 705,165位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2008年8月9日に日本でレビュー済み
同じ著者により先月出版された作品(学歴、階級、軍隊)の結語を引く作品なのでしょうか。その作品に結語として挙げられていた「異質なものとの接触」は著者なりの若者への曖昧なメッセージなのでしょうと思っていたのですが、実はこの作品が答えだったのです。手が込んでます。そしてこの作品の媒体は「ちくまプリマー新書」という若者向けの読みやすい新書というわけです。取り上げられているテーマは前作と大幅に重なります。しいて違いを挙げるとこの作品はいまや読まれることのなくなった数多の「軍隊小説」への解読書となっている点です。異質なものとの接触の事例として、軍隊を取り上げるとは、たしかに慧眼ですが、そこには時代の流れが感じられます。そしてこの作品が終戦記念日を意識して出版されている点も。たしかに現代の若者にとっては、軍隊以上の異質な存在はないわけですから。しかしながら、著者がこの軍隊を通して描こうとするのは、現代日本と変わらぬ悩みと生きにくさ、そして「日本社会のいやらしさ」を抱えた社会の縮図です。その中でも、軍人が決してインテリに尊敬されることのなかった日本の近代化の文脈の中での志願と徴兵の微妙な差異を逆説的に取り扱った第三章は、陰影に富んだ部分です。みんな先の見えない中でリスクをとった計算をしていたのが日本の帝大生だったというわけです。最後の「軍隊と裸体のあいだ」は、またまたわかりにくい部分ですが、またこれも次の作品へのヒントなのでしょうか。
2008年10月14日に日本でレビュー済み
著者と同じく
日本の軍隊小説や回想記を読むのが好きな私。
なかなか日常生活にはない必死のドラマや考察に
惹かれていたんですね。
でもしょっちゅう混乱するのが
旧日本軍の階級や軍歴が持つイメージ。
たとえば「陸士上がりのパリパリ」とか
「幹候に受かっって」
なんとなくの理解で
あやふやなまま読んできました。
この本を読んで
当時の男の人たちは
そんなこともパッと聞いただけで学歴や出自
年恰好や風貌まで想像してしまえたろうことが
とってもナットクできました。。
読者を少年に想定しての語り口には
ちょっとイタイとこもあるけど(それも計算ずくか)
とても興味深くタメになる本でした。
ま、色々わかったとこで俘虜記でもまた読むか。
私の愛する大岡昇平。
かれがどんなに変り種の「老」兵士だったか
今更よ〜くわかりました!
日本の軍隊小説や回想記を読むのが好きな私。
なかなか日常生活にはない必死のドラマや考察に
惹かれていたんですね。
でもしょっちゅう混乱するのが
旧日本軍の階級や軍歴が持つイメージ。
たとえば「陸士上がりのパリパリ」とか
「幹候に受かっって」
なんとなくの理解で
あやふやなまま読んできました。
この本を読んで
当時の男の人たちは
そんなこともパッと聞いただけで学歴や出自
年恰好や風貌まで想像してしまえたろうことが
とってもナットクできました。。
読者を少年に想定しての語り口には
ちょっとイタイとこもあるけど(それも計算ずくか)
とても興味深くタメになる本でした。
ま、色々わかったとこで俘虜記でもまた読むか。
私の愛する大岡昇平。
かれがどんなに変り種の「老」兵士だったか
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