オーバー・ポスドク問題:文献紹介

私がK大の学生だったころ、大学院ではオーバー・ポスドク問題が深刻化し始めていた。「OD牧場」と呼ばれる研究室もあり、そのような研究室では学位をとっても職につける希望はほとんどなかった。学位は、「足の裏の飯粒」と呼ばれていた。取らないと気持ちが悪いが、取っても食えないという意味である。
その当時、教授の間で、「10年福音説」という見方があった。あと10年経てば、戦後に教授になった世代(「ポツダム教授」と呼ばれていた世代)がいっせいに退官するので、OD問題は解消する、という見方である。
私の友人たちは、教授の年齢分布などを調べ上げ、統計資料を駆使して「10年福音説」の誤りを論証した。その成果をまとめた本が、leeswijzerさんが紹介されている『オーバードクター問題:学術体制への警告』である。私がオーバーポスドク問題をとりあげている背景には、この分析にすこしだけ関わった経験が大きく影響している。
オーバードクター問題を社会的に認知させ、現在の学振特別研究員ポストの拡充を実現し、結果として今日のオーバーポスドク問題につながる流れを作った責任を、私たちの世代は負っていると思うのである。
いま、もういちど上掲書のような分析が必要とされていると思う。私も努力するが、大学院生の中から、研究だけでなくオーバーポスドク問題に関する分析と政策提言の点でも創意性を発揮する新世代が登場してくれることを切に願っている。
※次のブログは、フェリーの船上からになると思います。