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動物園、粗食で健康作戦 果物・パンより青草もぐもぐ

2010年11月20日12時5分

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写真青草を食べるニシゴリラのゲンキ=京都市動物園、伊藤恵里奈撮影

写真クローバーリーフ社のエサを食べるインドゾウ=神戸市の王子動物園、伊藤恵里奈撮影

写真クローバーリーフ社の青草を食べるカバ=神戸市の王子動物園、伊藤恵里奈撮影

写真高さ十数メートルあるシラカシの木に登り、葉のついた枝を切り取る西窪武さん=三重県伊賀市、伊藤恵里奈撮影

 健康のひけつと言われる「粗食」が動物園でも注目されている。野生では口にしない、食べやすくて高カロリーなえさで逆に体調を崩す動物たちに、本来の「自然食」に近いものを与えて、心も体も健康になってもらおうという狙いだ。えさを作る京都府内の飼料会社や研究者らは希少動物の繁殖率の向上も期待する。

 目を細めて青草をほおばる京都市動物園のニシゴリラのゲンキは、同園生まれの24歳のメス。2年前まで食べたえさを吐いてはまた食べる「吐き戻し」がひどかった。原因は「栄養満点の食事」によるストレスだった。

 野生のニシゴリラは、硬くて水分や栄養価が少ないイチジクやクズウコンなどを食べ、一日の大半を採食行動に使う。ゲンキはバナナやパン、ヨーグルトなど、軟らかくて甘い果物や加工品を中心とした食事だった。その結果、短時間でえさを食べ尽くしてしまい、時間を持て余していた。

 同園に常駐する京都大学野生動物研究センターの田中正之准教授は、えさの一部を青草など、食べるのに時間がかかるものに変えることを提案した。さらに飼育員が茂みや木の上などに隠した。ゲンキは茂みをかき分けたり、木に登ったりしてえさを探し、時間をかけて食事することで、吐き戻しはなくなった。

 このえさを作っているのは、京都府南山城村にある「クローバーリーフ」社。動物園専門で生のえさを作る国内唯一の会社だ。

 社長の西窪武さん(61)は元々、酪農用の乾燥飼料を作っていた。28年前、同園に生の牧草を持ち込んだのがきっかけで、動物園のえさを作り始めた。すべて無農薬で、異物や機械油がつかないように、手作業を貫いている。西窪さんは「動物たちにより元気になってもらい、多くの人に動物園へ足を運んでもらいたい」と話す。

 「自然食」の評判は広がり、愛知県犬山市の京都大学霊長類研究所でも吐き戻しがひどいチンパンジーに青草などを与えた結果、症状が緩和された。今では旭山動物園(北海道旭川市)など全国18の動物園やサーカス団で欠かすことができない「食事」になっている。

 西窪さんは「粗食」で動物を健康にし、繁殖力を高める研究も進めている。神戸大学大学院の楠比呂志准教授(保全繁殖学)と協力して4年前から、整腸作用があり漢方薬にも使われるミカン科のキハダを動物に与え効果を調べている。近く、京都市動物園のキリンでも本格的な研究を始める予定だ。

 現在、新たな動物の輸入は、ワシントン条約の対象種が増えたことなどで困難だ。楠准教授は、「希少動物を展示する動物園には、『種の保存』の義務がある。西窪さんのえさは、その原動力となるのでは」と話す。(伊藤恵里奈)

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