日本復興に必要な創造力の量はインターネットをもう一回作るくらいの量

  • 「ゆうべ、変な夢、見ちゃったよ」
  • 「何、どうしたの?」
  • 「サーバが落ちて、再起動しようとすると、ぜんぜんだめで、それどころかデータがどんどん消えてくの」
  • 「それはいやな夢だね」
  • 「それも、普通のサーバじゃないんだ」
  • 「というと?」
  • 「というか、その世界じゃ、ネットそのものの成り立ちが全然違うんだ。中央にでっかいプラントみたいな凄いサーバがあって、それで、そこにあらゆる情報が集められてんの」
  • クラウドみたいなもの?」
  • 「いや、何十メートルもあるでっかいCPUがあって、それが1台で何千万人のデータを全部管理してる。それも、特定サービスだけじゃなくて、全てのサービスがその1台で管理されてるんだ」
  • 「なんじゃそりゃ?」
  • 「だから、オペレータも何百人もいて、みんなで復旧作業をしてるんだけどうまく行かない。もう大事件になってテレビも全部それを中継してて、俺の上司が必死で頭下げてて...。だけど、そう言ってる先からデータがどんどん消えていくんだ」
  • 「なんか恐しい話になってきたな」
  • 「その世界では、全ての人の全ての情報が全部、その1台のばかでかいコンピュータで処理されてて、だから、それが駄目になるということがどれだけ大変なことかみんなよくわかってんだけど、それで必死で対策してるんだけど、それでもデータがどんどん消えてく。もう本当、怖かった」
  • 「バックアップとかないの?各家庭のキャッシュとか?」
  • 「いや、端末にはCPUも記憶装置もなくて、そもそもルータがね。これも機械というより設備という感じのものすごいでかいルータが、市町村に各一個くらいの数だけあって、だから、端末は本当に単純な表示だけで、そのでかいルータを経由して、中央の巨大コンピュータにつながってる」
  • 「まあ、なんだか知らんが、すごい想像力だね」
  • 「いやでも、これ完全に俺の想像とは言えないな」
  • 「なんかありそうなSFではある」
  • 「SFじゃなくてね。まあたぶんSFでもあるとは思うけど、俺、パソコン以前に汎用機のSEやってたから、その夢のような話を会社で聞かされたことある」
  • 「会社で教育されたってこと?」
  • 「うん、インターネット以前のコンピュータネットワークは集中処理が普通で、データも処理も全部サーバというかホストコンピュータがやってた。だから、その前提で教育受けてて、その中には、半分夢物語みたいな感じで、全てが中央制御されたネットワークが、生活のすみずみにまで行きわたるみたいなビジョンがあったな。俺は、そういう話好きだから結構まじめに聞いてたし、そうなると思ってたよ」
  • 「ほう」
  • 「だから、TCP/IPとかインターネットの話を最初に聞いた時は、異常なアーキテクチャに思えた。正気とは思えなかった。でも実際につないでみると、そういう方が簡単につながるんで、だんだん、『これもアリかな』と思うようになったけど、まだ時々、分散処理って変だなと、今でも思うことがある。各家庭にルータがあるなんて異常だなって」
  • 「しかし、そんな世界でサーバがダウンしたら悪夢だな。経済が全部止まるっていうか、人命にもかかわるだろ」
  • 「でも、もし今のようなネットが発達しなかったら、集中処理のネットワークが拡大して、そうなってたかもな。たぶん、30年前の俺に『あなたは30年後にどういう仕事をしてますか』って聞いたら、その化け物クラスの超巨大コンピュータのオペレータみたいなイメージで考えてたかも。コンピュータの進化って筐体がでかくなるだけというイメージだったし」
  • 「まあ、冷静に見るとネットって順調に進化したというより、変人がたまたま天才で、自分の思いこみをそのまま実装しちゃったみたいな感じはあるな」
  • 「そうなんだよ。30年前の感覚で言うと、集中処理で考えるのが普通というかまともな技術者で、今のような分散処理は変人の発想だよ。変人のアイディアなんだけど、それを本気で実装しちゃって、実際によく動くからみんな『おかしい』と思いながらも文句言えなかったみたいな感じかな。文句言えないで様子見てたらこんなことになっちゃったみたいな」
  • 「そうだよな」
  • 「そういえば、その夢の世界ではもう一つおかしなことがあってね。電力も集中処理なんだ」
  • 「配電も中央がまとめてやるってこと?」
  • 「そう、各家庭にあるのは、ブレーカーとメータくらいで全然処理能力ない、っていうかCPUがない」
  • 「じゃ、変電器もばかでかいんだ。変電所とかいう名前で」
  • 「そう、本当に変電所という名前の建物があって、それが何千だか何万人分だかまとめて管理してて、家庭内には一切変電機能がないの」
  • 「それは技術的に成立するのか?末端の需要予測に関するデータを一切ネットワークに流さないの?それじゃ無駄が多くなるんじゃないの?」
  • 「そうだよな。いくら夢の中でもあれはあり得ないな。電力の中央制御なんて」
  • 「そしたら、発電機が一つつぶれたら停電しちゃうんじゃないの?」
  • 「そうだろなあ。やっぱり発電機ダウンも同じような惨事になるんだろうな」
  • 「集中処理だと、やっぱりサーバと同じように発電機もバカでかい設備になって、名前が発電所って仰々しい名前で」
  • 「そうせざるを得ないかもね」
  • 「電気代も用途や時間帯に関係なく一律になってたりして」
  • 「そんな馬鹿な。いや待てよ。末端の端末がインテリジェントじゃないと、そうせざるを得ないな。そうなると、電気を寄付する口座とか持てないのか」
  • 「分散処理の配電ネットワークがないってことは、ムチャクチャおおざっぱな管理だな。電気需要の市場を品質別に細分化したり、市民の自発的な意思で割り当てを融通しあうとかそういうことできなくなるね。どれだけ無駄になるかわからないし安定性もないし、無理だね」
  • 「でも、どうなんだろ。もし集中処理オンリーの世界があったら、配電の分散処理もとんでもない夢に見えるのかあ?」
  • 「どうだろ、ネットの分散処理ができて配電の分散処理ができないっていうのは、SFだとしても設定として論理的に矛盾じゃない?」
  • 「そうだなあ。全てが集中だったら分散処理って概念は誰も思いつかないってことはあるかもしれないけど、どっちか実現してたら、普通に考えつきそうだけど」
  • 「でも、世の中って、何でも今あるものが普通と思うからなあ。天才がねじ曲げなかったら、そういうものだってみんな思うから、慣性でそのままいっちゃうかもね」
  • 「それか、よほどの天変地異があって、切り替えざるを得ない時」
  • 「分散処理って、俺たちから見るとあたりまえだけど、実は、そこにものすごい量のイマジネーションとクリエティビティがそそぎこまれているのかもしれないな」
  • 「技術は案外従属的なパラメータなんだよね。想像力と創造力があれば」

ということで、タイトルはエイプリールフールじゃありません。

「インターネットをもう一回作るくらいの創造力」って、ほとんど無理ってくらいの難易度という意味でもありますが、それができた実績は一つだけ目の前にあるんですね。あなたが見てるこの文章は、その実績の成果物で運ばれています。私は、そのおかげで昔一生懸命勉強したことが全部パーになりました。

だから、世界規模の分散コンピュータネットワークのあるこの世界の方が悪夢で、汎用機がネットワークを集中制御してる「正常な」世界へと夢から目覚める日が来るのではないかと時々考えます。その世界で、昔身につけた技術でまともな技術者をしている自分が本当の自分ではないかと。