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雑感録

これもビートルズだ! その7『REVOLVER』

 
REVOLVER(1966年)

まだ、コンサートは続いていた。
未だステージで「ダチュワイデコーミンミスター、ロックンロ~ルミュ~ジッ!」とかやっている頃に、後に『Tomorrow Never Knows』と名付けられる『Mark I』がレコーディングされていたのである。
方向性としては前作『RUBBER SOUL』と同じ「革新」。
従って、この2作はセットで“R&R”=ラバー&リボルバーと呼ばれることが多い…といいなあと、今思いついた。
ちなみにR1(RUBBER SOUL)が「革新しよう」であり、R2(REVOLVER)が「革新しちゃった」である。
“革新”を“実験”に変えてもよろしかろう。
とにかく、R2レコーディングの初日にチョー実験曲『Mark I』に手をつけちゃったのだ。
ちなみにコンサートによるプレッシャーやストレスから解放してくれる“クスリ”も「革新」しちゃった。
ビートルズはLSDも使い始めたのである。
別にフツーにやろうと考えていた曲も、「何かしなければ」となって不思議ではない。
そういう訳で、R1ではまだゆるやかで音楽的なものが中心だった革新は、R2で技術(サウンド)革新という形をもって、急速に進んでいく。
テープループ然り、逆回転然り、ADT(アーティフィシャル・ダブル・トラック)然り、4トラックレコーダーの175%活用然り。
これらの細かいことはいくらでも解説本に載っているのでそちらを参照していただくとしても、このアルバムから新人挑戦エンジニア、ジェフ・エメリックが入ったのは特筆すべきことであろう。
「そんなこと無理だよ」と常識にとらわれる“その道の人”ではなく、ペーペーで何も知らない分、やってみないと分からないけどなんとかできるんじゃないかと、ビートルズの要望を実現するため、あの手この手を繰り出した男だ。
ビートルズは、肝心なところで幸運な出会いに恵まれている。

もちろん、革新はサウンドだけではない。
ついに天才、ポール・マッカートニーが覚醒。
飛躍的に向上した作曲能力、歌唱力は言うに及ばず、ストリングス、ピアノ、フレンチホルン、ブラスをフィーチャーするなど、すでに片鱗を見せていたバンドスタイルにこだわらないアレンジ力の幅をさらに広げている。
これはサウンドの話に戻るが、ベースの音も録音技術的に格段によくなっている。
音が格段によくなったとくれば、当然ポールも張り切って、一部ベースを使わない曲も増えているが、使ってる曲では新しいベーススタイルを試している。
また、リンゴの台頭も見逃せない。
これはr1あたりからの傾向だけど、リンゴのシンバル使用頻度が減って、その分スネアやタムの手数が増えて(r1ではハイハットが増えていた)ドラムがタイトになり、これまたかなり主張するようになっている。
なお、シングルではアルバム制作中に作った『Paperback Writer/Rain』で来るべきアルバムの革新を予告。
アルバムと同時発売で『Yellow Submarine/Eleanor Rigby』を両A面でシングルカットしているが、これはビートルズの単複分離の方針から言えば、余計なことではないかな。

このアルバムを作り終えたビートルズは最後となるツアーに出発。
「ビートルズ台風」の日本公演や恐怖のマニラ公演を経て、サンフランシスコで最後のコンサートを行ない、コンサート終了記念に長期休暇をとる。
そのためとうとうアルバム年2枚の契約を果たせなくなり、EMIは妥協策としてビートルズ現役中の唯一の企画盤『A COLLECTION OF BEATLES OLDIES』をリリースした。
余談だが、僕にとっての1st.『REVOLVER』は親父が務めていたデパートでやっていた輸入レコード大セールで買ったCapitol盤で、『I'm Only Sleeping』『Your Bird Can Sing』『Doctor Robert』の3曲が削除されて、補充はなし。
『OLDIES』はレコード針のナガオカのキャンペーンで当たって、タダでもらった。

01 Taxman
いきなりのジョージの曲。しかし、進歩してるぞ、ジョージ、カッコいいぞ。
いきなりのカウント。しかも後付け(オーバーダビング)、不気味だぞ。
しかし作者以上にがんばってるのがポール。左チャンネルで気合いの入ったベースを弾き、右チャンネルでは、こともあろうにジョージの曲ながらリードギターをキメている(ちなみに間奏とエンディングは同じテイク)。当のジョージは「インドっぽくていい」と、賞賛とも皮肉ともつかないコメントを残しているらしい。

02 Eleanor Rigby
弦楽八重奏登場でリンゴ不参加。しかし、今回はコーラス隊としてジョンとジョージは参加している。歌詞はジョンが書いたとかリンゴが一節を書いたとか説があるが、そんなことは研究者に任せよう。ビートルズの曲であることには違いないんだから。リードボーカルの部分的ダブルトラックのビミョーさがリマスターで際立っている。最後のコーラスは、もう一人のポールが左奥から登場し、徐々に前へ。余談だが、後にポールはソロ作品『GIVE MY REGARDS TO BROAD STREET』で、この曲を含め4曲を『REVOLVER』からセルフカバーしている。

03 I'm Only Sleeping
逆行ギターが効果的に使われた曲。コーラスもカッチョいい。全然気にしてなかったが、ポールはベースでダブルノートを弾いているらしい。ブレイク部分をのぞいては(って、たぶんここがダブルノートなんだろうが)、ちょこまかした弾き方はしてるけどベースは奥に引っ込み気味だけどね。ジョン(?)のあくびも今まで気にしてなかったよ。

04 Love You to
ポールの弦楽八重奏団に対抗したか、ジョージはインド楽団を引き連れてやってきた。おかげでジョンとポールは職場放棄。やさしいリンゴだけがタンバリンで手伝っている(奥に追いやられてるけど)。

05 Here, There and Everywhere
ゴクゴク極上のポールのバラード。パチモン『RUBBER SOUL』に触発されたビーチボーイズ(ブライアン・ウィルソン)が作った『PET SOUNDS』収録の『God Only Knows』に触発されたらしいが、その影響を感じるのはファルセット気味のボーカルくらいか? 普通に考えればアコースティックに仕上げそうな気もするが、それをエレクトリックにまとめるあたり、誤解が多いがポールは単なる甘いメロディメーカーではない。コーラスワークも実に美しい。最後のバースで指パッチンで参加したポール牧もいい味出している(おいおい)。なお、この曲も前述の『GIVE MY REGARDS TO BROAD STREET』で取り上げており、このシーンにはリンゴも参加しているが、例え二人でもビートルズ再結成ととられかねないことはしたくないと、演奏はボイコットしている。

06 Yellow Submarine
リンゴを意識したからこういう曲になったのか、こういう曲ができちゃったからリンゴに歌わせたのか。いずれにせよ、曲とリンゴの鼻声が強力なタッグを組んだおかげで後にアニメ映画が作られ、後世に残る童謡となったのである。作ったポール本人が歌っていたらどうなっていたか。聴いてみたい気はするが、それをイメージできないくらい曲とリンゴが結びついている。これを打ち破ったのは唯一、金沢明子だけであろう。ジョンだったら絶対に歌わないが、リンゴの歌のバックではしゃぎ回るのは恒例行事。今回はいろんな小道具まで駆使してすっかりゴキゲンです。

07 She Said, She Said
のんきな曲から一転して、ジョンのサイケなドラッグソング。
ジョン「ラリっちゃってるよ~ん」
ポール「クスリはほどほどにしなさいって、いつも言ってるでしょ!」
ジョン「タラリラリっちゃってるよ~ん」
ポール「も~うっ、ジョンのばかばかーっ!」(泣きながら走り去る)
ということがあったかどうかは知らないが、なぜかこの曲のレコーディング中に喧嘩になってポールが出て行ったので、“ポールだけ”ならぬ“ポール抜き”という珍しい状況になっている。従って、ベースもコーラスもジョージ。キモはなんといってもリンゴのイキっぱなしのドラミングだ。ちなみにこの曲のカバーでは、the Ibary Brothersのアコースティックなバージョンが秀逸。

08 Good Day Sunshine
ポールとマーティン先生がピアノを演奏。ジョンもピアノ弾いてなかったっけ? ギターは入ってないけど、ジョージは何をしてたんだろう(手拍子か?)。ドラムが珍しく左右から聴こえるけど、おそらくオーバーダブで重ねたものと思われる。とにかくポールならではの面白いというか不思議な曲。これも『GIVE MY REGARDS TO BROAD STREET』収録。

09 And Your Bird Can Sing
このアルバムでは数少ないストレートな演奏。ツインギターはジョンとジョージ。ポールのベースはちょっと『Taxman』的に聴こえる。

10 For No One
タイトルを「フォー・ナンバー・ワン」と読み違えたフレンチホルンのおっさん、「マイナーともメジャーともつかない妙な曲」と評したそうだが、「マイナーともメジャートもつかない素敵な曲」だ。詞も意味はよく分からないが、聴いていると涙が出そうになる。これも『GIVE MY REGARDS ~』以下同文。

11 Doctor Robert
またもやジョンのドラッグソング。今回はポールも怒らずにつきあった(?)。というか、聴きどころはそれくらいかな。

12 I Want to Tell You
なんとジョージの3曲目。幸いなことにインドではなかったが、歌い方にはややお香のにおいが。ジョンとポールはやっぱりジョージのボーカルを覆い隠している。おまけにフェードインで始まるイントロの奥で、おしゃべりしたり練習したりしてるよ。

13 Got to Get You into My Life
タイトなブラスを入れたくて書いたと思われる、こちらはポールドラッグソング。もともと全編にギターが入っていたようで、最後以外は消去されたが他のトラックに洩れたような音が残っていた。でも、リマスターでだいぶ目立たないようになったような気がする。

14 Tomorrow Never Knows
前述の通り、リンゴのギャグでタイトルが決まるまでは『Mark I』と呼ばれていた曲。関係ないが、かつての部長クラスのステータスシンボル「TOYOTA MARK II」の“MARK II”とは、「コロナ」のマーク2ということ。威張っても所詮元はコロナなのだ(って、コロナがどういうクルマなのか知らないけど)。もともとトヨタはCのつくことば(Corolla=花冠、Corona=光冠、Crown=王冠)でクルマ(Curuma、もとい、Car)のクラス(Class)分けをしていたのである。
閑話休題、曲自体は最初から最後まで1つのコードで通すという、これも実験的なアプローチ(同様の試みはIbary Marujiroが初期プロジェクトSMMESの『Gypsy』という曲でやっている)。ドラムも独特のパターンを延々くりかえすが、ボーカルの音を変えたり様々なサウンドエフェクトを乗せたりして複雑怪奇な曲になっている。曲がシンプルだからSEを施したという考え方もできるが、この曲について言えば、いろんな音を乗せるために曲をシンプルにしたというのが正解だろう。

つづく
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