カナダ・エクスプレス

多倫多(トロント)在住の癌の基礎研究を専門にする科学者の自由時間ブログです。

老婆と愛人

2006年05月28日 | 中国語と日本語
この二つの言葉の共通な点はと聞かれたら、何と答えますか?後者もいつかは前者になる、という類の答えは、私の意図するところではありません。あしからず。

中国語の知識がある方なら、もうお分かりと思う。中国語の「愛人」は、妻もしくは夫の意味なのだ。日本語で使われている意味はまったくないらしい。中国語での「愛人」は、英語のspouseに近い。この言葉は、中国本土では比較的最近使われるようになった言葉で、香港の広東語から「輸入」されたものらしい。面白いことに、日本語でも、この言葉は比較的最近使われるようになった造語なのである。そして、中国語とはまったく異なる意味をもたされてしまったのだ。

それでは、もともと日本語の妻に相当する中国語は何か?それは、標準中国語では「老婆」である。当然「老婆」は女性のみを指すから、英語で言うとwifeであり、spouseとはニュアンスが異なる。中国人に「老婆は日本語では年をとった女性」のことだいうと、頭を傾げる。そして、「愛人」の日本語での意味を告げると、目を丸くして驚く。それでは、中国語で日本語の愛人のことを何と言うか?それは、「情婦」であるとのことだ。まるほど、である。何だかややこしい話になってきた。

明治維新後、日本語は大きく変化した。特に書く日本語は著しく変わった。今我々が使っている日本語は、明治政府の役人や「文化人」たちが作り上げたものである。しかし、そもそも漢字は中国で生まれたものであり、中国語の本来の意味こそが正しいといわざるをえない。しかしながら、言語は進化するものでもある。日本に渡ってきた漢字は、政治的政策のみならず、日本の風土と日本人の感覚に合うように色々と変化を遂げた。ある人の思いつきで生まれた造語や当て字が、日本語ではまかりとっているケースも存在する。この日本語と中国語の違いに触れるたびに、私はこの問題に益々興味をいだくのである。

念のために言っておくが、私は現代日本語を否定しているのではない。中国語との対比、そしてそこにある違いを知ることが、面白いといっているのである。先日のリュウさんのコメントにあるように、「娘」は中国語でお母さんのことである。お母さんが「娘」で、妻は「老婆」。それでは、おばあちゃんは中国語では何だろう?これは、「祖母」でよいとのことだ。やっぱり、日本語は中国語を源流とするのである。


首と頭

2006年02月07日 | 中国語と日本語
今日は日本語と中国語の話しをします。日本語で、「首」というと、頭と胴体をつなぐ部分、すなわち英語の「neck」とほぼ同意語として用いられます。しかし、中国語では、「首」は日本語でいうところの「アタマ」、英語の「head」を意味します。「neck」は「頸」という漢字が用いられます。確かに、日本語でも、「首」は「コウベ」とも読み、「アタマ」を意味する場合があります。「首を切る」という言い方は、「cut off the neck」という意味合いよりも、「chop the head off」の方が、意味として正しいのでしょうが、現代日本語では、どうも前者の意味合いとして用いられているように思われます。日本語には、長い歴史の中で変化し、中国語で用いられてきた本来の意味とは異なる意味を与えられ、進化を遂げてきた単語や漢字が数々あります。こういう漢字を拾い集めるのも楽しいものです。何かいい例をご存知の方は、ぜひ教えてください。