2011年2月10日9時59分
2月9日、直木賞作家の角田光代氏が、ロイターのインタビューで長編小説「八日目の蝉」について語った。都内で1月撮影(2011年 ロイター/Kim Kyung-Hoon) |
イレイン・リーズ記者
[東京 9日 ロイター] 直木賞作家の角田光代氏は、ロイターとのインタビューに応じ、不倫相手の赤ん坊を誘拐した女性の逃亡劇と誘拐された少女のその後を描いた長編小説「八日目の蝉」を通して「母性とは何かを考えたかった」と語った。
昨年のテレビドラマ化に続き4月に映画化されるこの作品で角田氏は、生後間もない赤ん坊を衝動的に誘拐した女性を母性にあふれた人間として描き、子供は産んだものの母性に欠ける実の母親と対比させている。
また、誘拐された少女が成長した姿を二部構成の後半として書くことで、実の親の元に戻されて彼女が望む幸せを得られたのか、彼女が母性というものをどう捉えていくのかを描きたかったと角田氏は語る。
「(最近の子供虐待の新聞報道には)実の母親なのになぜ虐待ができるのかという論調が非常に多いが、そこで父性は問われないのだろうかとか、母性というものをあまりにも当たり前に女性に押し付けているのではないか。そのことが女性たちを苦しめているのではないか」と同氏はこの小説のテーマを語った。
また母性に対する過度な期待は日本独特のものではないかとも指摘。「周りがあまりに母親とはこういうものだと決め付けているだけに、子供をかわいく思えないと自分は母親失格だと、無言のプレッシャーに追い詰められている女性は多いのではないか」と話す。
1967年生まれの角田氏は1990年に「幸福な遊戯」で第9回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。以降30冊以上の小説を発表している。2005年には「対岸の彼女」で第132回直木賞を受賞。第2回中央公論文芸賞を受賞した「八日目の蝉」を原作とした同名映画は4月29日に公開される予定。
角田氏はこの20年で日本の小説をめぐる環境は大きく変わったと指摘する。若い作家が増え、ジャンルが多様になり、小説に対しての敷居が低くなったことで、より身近なものとなった一方、「チープ」になったという。「チープになったという言葉はネガティブすぎるかもしれないが、ほとんど多くの読者の価値観が似てきてしまい、読んでわからない、難解なものをつまらないというようになったのは残念」と語った。
(ロイターニュース 編集:下郡美紀)