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これまでの放送

第161回 2010年11月29日放送

“自分”を消して、ヒットを生みだす グラフィックデザイナー・佐藤 卓



“自分”を消す

デザインといえば、センスや個性の世界。デザイナーらしさが最も大切だと思われがちだが、佐藤は正反対だ。目指すのは、“自分”を消すこと。商品デザインに“佐藤らしさ”なんて必要ない。デザインが目立ちすぎるのは禁物だと考えている。客の目がデザインにくぎづけになり、肝心の中身に意識がいかなくなってしまうからだ。デザインの役割は、客と商品を結びつける媒体だというのが佐藤の考え。佐藤は縁の下の力持ちに徹し、その商品のどんな魅力をデザインによって伝えるべきかを常に考え続けている。

写真干し芋の自然な風合いを引き立たせるためのシンプルなデザイン


“壁”を受け入れ、乗り越える

普通、デザイナーはクライアントから口を挟まれるのを嫌う。素人からの反対意見は、デザイナーにとって「壁」と考えるケースが多い。しかし、佐藤は積極的にクライアントの意見を聞き、良い意見をどんどん受け入れようと考える。
反対意見や修正意見の中には、時に自分では見いだせない発見やアイデアが隠れている。それをどうデザインに生かすかは、佐藤が決める。時にはデザイン案が大きく変更になる場合もあるが、それこそが面白いとさえ言うほどだ。自分の意見に固執するわけでもない、逆に相手の意見をうのみにするわけでもない。すべての意見の良いところを合わせて、デザインを作り上げていくのだ。

写真


依頼以上の仕事をする

佐藤がクライアントから絶大な信頼を得てきたのは、依頼された以上の結果を残してきたからだ。例えばコロッケ店のメニューボード。依頼は、メニューの色や文字をデザインすることで本店らしいメニュー表を作ってほしいというもの。しかし、佐藤はメニューその物の名前の変更を提案した。「本店らしさ」という依頼のためには、名前を変更する事が最も有効だと考えたからだ。さらに佐藤はデザインをただ納めるのではなく、どのように使われているか、必ず現地を訪れて確認する。一度納入して終わりではなく、さらに改良できる事はないか、探すためだ。言われたことだけをやるのは、誰でもできる。それは仕事とはいわない、と佐藤は言い切る。

写真現場に出向いてデザインの修正点や課題を探す


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

さりげなく良い仕事をする人。頑張るとか一生懸命とか、表に出すなっていうふうに思うんですね。頑張るとか一生懸命とかって、当たり前だっていうことです。

グラフィックデザイナー 佐藤 卓


The Professional's way of thinking(プロフェッショナルの発想)

売れない物は数か月で店頭から消える、ともいわれる今の時代。しかし、佐藤のデザインは10年を超えるロングセラーが多い。その秘けつは、売るためのデザインではなく、日常生活になじむデザインをしているからだ。奇抜なデザインではなく、その商品の本質を引き出すデザイン、使いやすいデザインを追求している。
スパイスの瓶では、ぬれた手でもすべらない円すい形に、片手で開けやすいようキャップの突起も計算し尽くした。
さらに、デザインにちょっとした仕掛けを施すのも佐藤流。写真の猫の口元をよく見ると、一匹一匹の猫が「コ・ロ・ッ・ケ」としゃべっているのが分かる。この物語に気づいた人は、きっと誰かに話したくなるはず。物語と共にデザインが人々の記憶に残る。こうしてデザインへの愛着が生まれ、ロングセラーにつながっていくのだという。

写真握りやすく、ふたを開けやすいように計算し尽くされたスパイスの瓶
写真周囲からは遊び心といわれる小さな仕掛け。しかし佐藤は本気になって真剣に考え出しているという


放送されなかった流儀

“引き出し”で仕事をしない

デザインの依頼がくると、佐藤は毎回、長い時間をかけて商品を分析する。そのモノの本質と徹底的に向き合うためだ。25年以上もデザイナーの仕事をしていると、似た依頼は何件もある。しかし、よく似ていても必ずどこか違う。しかも、同じ商品でも時代によって求められるデザインは異なる。前例にのっとって「こんな感じだろう」という気持ちで仕事をすると、必ず失敗し、そのデザインはすぐに世の中から消えてしまうという。
“コツ”を持たず、毎回、ゼロから考えること、それが佐藤の基本姿勢だ。

写真