今回の「International Display Workshops(IDW )」(2010年12月1~3日,福岡国際会議場)は,八つの会場で並行して口頭論文発表を行い,ポスター・セッションの会場も常時使用しながら進行している。ポスター・セッションのある時間は,そのワークショップの口頭発表セッションと時間が重複しないように配慮してあり,参加する側としては効率よく会場を回ることができる。配布されたプログラムの冊子には,色分けされたセッション・プログラムの時間割が掲載されており,合同セッションの枠は半分ずつ2色に塗り分けられているので非常に分かりやすい。よく工夫されたプログラムだと感心した。

初日午後のメイン・ホールは有機ELセッション

 1日目(12月1日)午後のメイン・ホールでは,OLED(有機EL)の前半セッションが三つ連続で行われた。

 ソニーからは,新しい塗布型フルカラー有機EL素子の提案があった(論文番号OLED2-2)。基本的なコンセプトは,現在使用可能な塗布型青色発光材料の色度や信頼性が不十分なので,特性と信頼性に優れた低分子の青色発光材料を全面に蒸着させ,共通層として用いるというものである。しかし,塗布型で個別に形成された緑と赤の発光材料の上に,そのまま青の発光層を蒸着するだけでは,十分な性能を達成できない。そこで,青の画素部分にまずホール輸送層(HTL)を塗布で形成し,その後ハイブリッド・コネクション層と青の発光材料を共通層として蒸着で形成する。共通層の追加による緑や赤の発光材料の性能の低下は無いという。この方法がうまくいけば,塗布型の塗り分け方式では青の発光材料がボトルネックで性能や信頼性が確保できないという問題と,「白色有機EL+カラー・フィルタ」方式では消費電力が増えて信頼性の確保が難しいという問題の両方を回避できることになる。有機ELテレビ用の現実的な第3の方式になり得るかもしれない。次の機会では,ぜひ実際のパネルのデモを見てみたい。

 東芝は,九州大学と共同開発した高効率の塗布型のリン光白色有機ELを発表した(論文番号OLED2-4)。青単色の外部量子効率は20.9%,エネルギー効率は40lm/W,青+黄の材料を組み合わせた白色有機ELで外部量子効率が19.8%,エネルギー効率は52.1lm/Wと非常に高い。白色の素子構造は「ガラス/ITO/PEDOT:PSS(45nm)/EML(75nm)/3TYMB(25nm)/CsF(1nm)/Al(150nm)」である。色座標は(x,y)=(0.32, 0.45)で,1000cd/m2の時の外部量子効率は16.2%,エネルギー効率は22.1lm/Wとなる。素晴らしい値だが,残念ながら信頼性が低く,まだ改良が必要だとのことである。

 韓国LG Display Co., Ltd.は,招待論文で15型の白色有機ELパネルにWRGB方式のカラー・フィルタを組み合わせたアクティブ・マトリクス型有機ELパネルを発表した(論文番号OLED3-1)。このパネルに関してはこれまでも何回か発表されているが,TFTバックプレーンのプロセスや素子構造がより詳細に報告された。TFT素子は赤外線RTA(rapid thermal annealing)装置を用いたSPC(solid phase crystallization)TFTであり,基板サイズは第4世代である。Vthばらつきは標準偏差で6mV,移動度のばらつきは0.87%と,ELA(エキシマ・レーザー・アニール)方式に比べて非常に小さく,アクティブ・マトリクス型有機ELパネルのバックプレーンに適しているという。

 ボトム・エミッション方式なので,TFT基板のアノード電極を形成する前に,R,G,Bのカラー・フィルタを形成しなければならない。TFT液晶パネルのCOT(color filter on TFT)技術と同様の技術で形成しているという。その後,十分な厚みの平坦化膜でカラー・フィルタを保護するとともに,有機ELに必要な平坦性を確保する。その平坦化膜の上にアノード電極を形成し,白色有機EL層を蒸着法で形成する。白色有機EL素子の構造はこれまで発表されている通り,RとGのリン光材料とBの蛍光材料を組み合わせたタンデム型である。蒸着塗り分け方式と比較した場合,視野角依存性がやや目立つ。Δu'v'<0.02で定義した視野角範囲は,塗り分け型の130度に対して「白色有機EL+カラー・フィルタ」方式では90度になるという。また,標準動画像を表示させた時の消費電力は塗り分け型よりも高くなってしまうので,消費電力の低減が今後の課題だという。