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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

[メモ] 日本の原子力発電の今後

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しっかりと論じるにはかなりの準備が必要ですので、今日は簡単にメモ程度で。

ロイター:インタビュー 原子力政策見直しをゼロベースで検討=官房長官(2011年3月25日)

昨日のロイターの記事で枝野官房長官は、「福島第1原子力発電所の事態を終息させ」た上で、日本の原子力政策のあり方については、「ゼロベースで検討しなければならない。(終息後は)事故に至った原因や、この間の対応についても検証しなければならない。その検証を踏まえ、原子力政策のあり方について国民的な議論を進めていく必要がある」と発言しました。

「ゼロベースで検討しなければならない」という官房長官の発言は非常に重みを持っています。一連の記者会見から、枝野氏の発言のはしばしに深慮が窺われることは、われわれ国民の共通理解となっています。危機管理上優先されるべきこと、政府として公に示さなければならない姿勢、過不足のない情報伝達など必要とされることを総合して、メディアの質問に応対する姿には非常に真摯なものを感じます。その枝野氏が、ロイターによる原子力政策への問いに対して「ゼロベースで検討しなければならない」と言明したわけで、これは政府としての現時点における、偽らざる考えであると受け止めてよいでしょう。また、ロイターは外資系報道機関であることから、対外的にも自分のコメントが流布することを意識した発言であると考えてよいと思います。(海外メディアでは地震発生以降、日本政府や東京電力から出てくる情報が不十分であることに対して批判が高まっていました。枝野氏のインタビュー対応はそのことを考慮したものではないかと思われます。)

1963年10月26日に、茨城県東海村の日本原子力研究所において初めて原子力発電に成功してから、わが国のエネルギー政策のなかで、原子力はきわめて重要な位置づけを持って、慎重にかつ着実に推進されてきました。
周知のようにわが国では、化石燃料の産出はほとんどないと言ってよく、エネルギー自給率は4%〜5%しかありません。ほぼすべてのエネルギー源を輸入に頼らなければならないわけです。何か1つのエネルギー源に依存していると、戦乱などが起こった時に国内のエネルギー需要が満たせなくなって、経済や社会が大混乱することを、すでに70年代のオイルショックで経験済みです。

この手痛い経験から政府は中長期にわたって、わが国のエネルギー需給を安定させるために、10年単位から20年単位でエネルギー需給の予測を行う「長期エネルギー需給見通し」を作成するとともに、(1)できるだけ省エネを推進する、(2)輸入するエネルギー種別を分散させ、調達国についても中東からの分散を図る、(3)原子力発電の比率を一定割合まで高める、原子力を含めて計算したエネルギー自給率をできるだけ高めるという、3項目を主な柱としたエネルギー政策を実施してきました。
エネルギー政策の最新のものは「新・国家エネルギー戦略」として2006年に発表されています。
原子力政策はこの「新・国家エネルギー戦略」において規定されています。概要部分を抜き出すと以下のようになります。

原子力立国計画
目標: 2030 年以降においても、発電電力量に占める比率を 30~40%程度以上にする。核燃料サイクル早期確立、高速増殖炉早期実用化に取り組む。
対応:供給安定性に優れ、運転中にCO2もほとんど排出しないクリーンなエネルギー源である原子力発電を、安全確保を大前提に推進する。原子力発電推 進に向けた投資環境整備、核燃料サイクルの早期確立、国際的な原子力の 平和利用の推進などに取り組む。

対応のところに「CO2もほとんど排出しないクリーンなエネルギー源である原子力発電」とありますが、これは、二酸化炭素排出削減を急ピッチで進めなければならない国々のほとんどにおける共通認識です。日本だけの認識ではありません。現在となっては違和感がある表現ですが、多くの国が同じように考えてきたのです。

端的に言って、わが国の原子力政策は、2030年頃において総発電量の3割〜4割を原子力が占めるようにするというものです。これは、電気事業連合会が作成している「原子力・エネルギー図面集」にある「電源別発電電力量の実績および見通し」(以下の図)で確認すると、現状維持ないし1割程度の増大を意味します。現状の3割にしても、2030年頃に達成される可能性のある4割にしても、1億2,000万人が暮らす国全体の発電量の比率ですから、非常に大きな意味を持っています。

Generationbysource

この中長期を見据えた原子力政策について、枝野官房長官は「ゼロベースで検討しなければならない」と述べているのです。

これによって、何がどう変化するのかを簡単にメモしてみたいと思います。

▼原子力発電の比率を中長期にわたって減らすのであれば、代替のエネルギー源を選定しなければなりません。
・代替エネルギー源には、天然ガス(LNG)によるガスタービン発電、最新の二酸化炭素排出量がきわめて少ない超々臨界圧ボイラーによる石炭焚き発電、再生可能エネルギーのうち特には太陽光発電と洋上風力発電とがあります。
・これらのうち、日本としては何で行くのか、おそらくは、どの選択肢も用いるポートフォリオ戦略となると思いますが、その方向性を定めなければなりません。また国の低炭素化戦略とも整合させる必要があります。言うまでもなく化石燃料による発電は低炭素化に逆行する可能性があります。
・その上で各電力会社を5年〜20年といったスパンで代替エネルギー源に誘導していく必要があります。発電所建設には長い年月がかかるので中長期にわたる取り組みになります。
・既存の原子力発電所についても廃炉までを見据えた計画を作成し、実施する必要が出てきます。

▼原子力発電の比率を3〜4割に維持する方向で行くのであれば、国民が納得する抜本的な安全対策が必要になります。
・第1世代の原子炉は廃炉にして、より安全性が高まっているとされる現在の第3世代原子炉にリプレースを進める選択肢も可能性としてはあります。
・その場合は、廃炉と新設とで、上述の代替エネルギー源に転換するのと同程度の初期コストがかかる可能性があります。(しかしランニングコストは安くなります)

大まかにはこうしたところでしょうか。

国民感情を考えるのであれば、原子力発電の比率を減らす選択をせざるを得ないでしょう。しかしこの選択肢は、ほぼ確実に、国民に対して、エネルギーコスト負担を増大させるものでもあります(発電所新設の初期コストは双方の選択肢で同じとしても、前者はいずれも原子力よりも発電単価が高い発電なので、それが国民負担にまわる)。われわれは、より安全なエネルギー体制に移行することは電力料金が上がることであることを理解し、協力しなければなりません。

理想的には、原子力発電の比率を落とした分を、再生可能エネルギーだけでまかなえればいいのですが、仮に、需要規模を満たすという意味でそれが可能になったとしても(再生可能エネルギー発電は発電量の規模を得るのが大変)、利用者側が負担すべきコストは、さらに増えると思います。風力発電にしても、太陽光発電にしても、発電コストは化石燃料による発電よりもまだまだ高いからです。国民の側で、高くてもよいから安全なエネルギーがよいというコンセンサスができれば、話は別です。

枝野氏の今回の発言は、わが国のエネルギー利用のあり方を大きく変える可能性のある、非常に重いものであり、われわれも、しっかりとした考えを持たなければならなくなると思います。エネルギーについては人任せ、という時代ではなくなるのではないでしょうか。

最後に付け加えると、仮に原子力を減らす選択を行い、できるだけ再生可能エネルギーでやっていくという方向で行くとすれば、その取り組みが世界の模範になり、そこで生まれる新たな需要が新しい産業のエコシステムを形作る可能性があります。産業の輸出競争力も高まってゆくでしょう。国民のエネルギーコスト負担が高まるとしても、そちらでやっていく方が、ゆくゆくは国の未来につながるということはあるかも知れません。

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