2010.11.15

新聞記者たちの不安を聞きに行く
【第二回】 日経新聞記者たちの小さな怒り

オレたちの仕事はなくなるのか会社はどうなる
文:井上久男

【第一回】 はこちらをご覧ください。

[文:ジャーナリスト 井上久男]

 いま新聞各社は、生き残りをかけてネットの世界に新たな収益源を求めようとしている。だが、日経新聞を筆頭に、現場の記者から漏れるのは不満の声ばかりだ。

成功なのか、失敗なのか

「仕事がきつくなった・・・58%」

 日本経済新聞の労働組合が今夏、「健康・福利厚生アンケート」で、1年前と比べて仕事の負担が増えたかなどを聞いた調査の結果だ。この背景には人減らしも影響している模様だが、組合報では「電子版の創刊で仕事がきつくなったと答えた人も全体の4割近くいた」と説明している。

 実際、アンケートには、

「電子版独自コンテンツの取材が増えた分、忙しくなった」

「少ない人数で24時間カバーするので勤務時間が不規則になった」

 といった組合員の声が並ぶ。

 日本新聞協会の調査によると、昨年10月段階の1世帯あたりの新聞購読部数は0・95部。前年の同調査で'56年の調査開始以来、初めて1部を割り込み、新聞離れは確実に進んでいる。特に若い世代では、ニュースはインターネットでチェックするから、わざわざ新聞を購読する必要がないという人々が増加している。

 収入減に喘ぐ新聞各社は、新しいビジネスモデルを構築するため、軒並みインターネットによる電子新聞への取り組みを強化している真っ直中だ。今回は、電子新聞が記者たちの仕事をどう変えたのか、日経新聞を中心に、記者たちの声を聞いた。

 日経新聞社は今年3月から日本初の有料電子新聞「日経電子版」のサービスを開始した。日経新聞広報グループによると、8月末現在で登録会員数は50万人(無料会員含む)を超えたという。電子版の料金は、紙の日経新聞を購読している人なら、月ぎめ購読料(朝夕刊セットで4383円)にプラス1000円。一つの記事をクリックすれば、関連する記事が次々に読める機能が付いていることなどが特徴だ。

 しかし、冒頭の組合アンケートにもあったように、日経社内の評判は必ずしもよくない。ある日経新聞のデスクが社内の現状をこう解説する。

「とにかく会議が増えました。電子版のサービスが始まる前までは、夕刊シフトの場合、午前9時から午後2時までが忙しい時間帯で、それを過ぎると一息つくことができました。ところが、今は午後2時から『Web刊会議』と呼ばれる、電子版向けにどの記事を流すかなどを検討する会議が始まります。ちょうど息抜きの時間が会議に潰される格好です。

 また、朝6時半からの勤務があるなど24時間体制に近い形で電子版を管理するので、原稿をチェックするデスクや局次長は不規則なシフト勤務になってしまう。しかも勤務時間帯が毎日バラバラのケースもあり、体調を壊さないか心配です」

 まだ電子版のサービスが始まって半年余りで、これが成功だったか、失敗だったかを論じるのは早計だが、'09年12月期決算で戦後初の赤字を出した日経にとって、売り上げ回復の起爆剤になっているとまでは言い難い。ボーナスも2、3年前に比べると2~3割カットされている。

 その一方で、電子版の開始で労働負荷は高まるばかり。しかも、「電子版の開始は、日経の報道内容を強化し、本当に収益増に繋がっていくのでしょうか」と疑問を投げかける記者もいる。

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