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放射線の影響 広島・長崎の長期調査からわかったこと

2011年4月7日10時36分

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 放射線は人体にどんな影響を与えるのか。広島・長崎の被爆者たちの健康調査で多くのことが分かっている。大きな犠牲から得られたデータは、世界の放射線防護対策の基礎となっている。

    ◇

 健康調査は、1947年に米国が設けた原爆傷害調査委員会(ABCC)が始め、75年から日米共同運営の「放射線影響研究所(放影研)」が引き継いだ。

 被爆者9万4千人と、そうでない2万7千人を生涯にわたり追跡調査。うち約2万人は2年に1度の健康診断や生活習慣調査を続けている。

 放影研の大久保利晃理事長は「系統的な長期調査で、世界が必要とするデータを発信できた」と話す。国際放射線防護委員会(ICRP)の委員で大分県立看護科学大の甲斐倫明教授も「放射線のリスク推定で決定的な役割を果たすのが放影研のデータ。ICRPもこれを基本に計算している」と説明する。

 長年の調査でわかった主なポイントは次の通りだ。

■がん

 被曝(ひばく)後10年目ぐらいから乳がんや胃がん、大腸がん、肺がんなどにかかる人が増え始める。統計で、被曝していない人より多いと明確なのは200ミリシーベルト以上浴びた場合だけだ。通常、30歳から70歳までにがんになる人は30%。30歳で200ミリシーベルト浴びると33%に上がる。

 100ミリシーベルトの場合は、計算上は31.5%だが、追跡調査では判別できない。喫煙の有無による差の方が大きく、少量の放射線による差は統計をとっても数字に表れないからだ。

 被曝年齢が低いほどリスクは大きく、女性は男性よりリスクが若干大きいことはわかっている。

■白血病

 被曝から2年で増え始め、子どもは同年齢の発症率の数倍に増えた。6〜8年後から患者は減り始め、20年ほどで日本人の平均レベルになった。発症率の増加は大きいが、比較的まれな病気で、被曝で増えた患者はがんに比べ少ない。

■胎児への影響

 妊娠何週目の被曝かで大きな差があった。一番影響が大きかったのが、妊娠8週から15週。被曝線量が多いほど知的障害児が生まれる割合が増えた。「200ミリシーベルトまでは発生頻度が上がるようには見えない」と放影研の中村典(のり)主席研究員は言う。16週から25週では500ミリシーベルトを超えてから頻度が増え、0週から7週と26週以降では影響は見られなかった。

■遺伝への影響

 親が被爆者の「被爆二世」について、死産や奇形、染色体異常の頻度に親の被曝の影響は見られなかった。小学生になったときの身長、体重などにも影響はなかった。2007年には、糖尿病や高血圧など6種類の生活習慣病について約1万2千人の健康診断結果が報告され、「遺伝的影響は見られない」と結論づけられた。

    ◇

 ただ、原爆は一度に放射線を浴びており、事故などによる比較的低いレベルの放射線を長期間受ける場合の健康被害は分かってないことも多い。(編集委員・高橋真理子)

    ◇

■被爆と被曝

 原爆の被害を受けるのが被爆。放射線にさらされることは被曝と書く。被爆者の放射線被曝量を推定し、健康影響との関係が調べられてきた。

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