デュプラメソッド「理想的な淡水水槽」
10.2.3. 水槽にとっての酸素とは
水草の光合成によって生産される酸素は、水槽内においてまず魚やバクテリア、そして水草自身にも利用される。さらに酸素はこれらの生物の呼吸に使われるだけでなく、水中の老廃物の分解を促進するという重要な役割を持つ。好気性バクテリアは、自身の生存のための必須条件として、また水槽内の生物の新陳代謝の産物である老廃物を分解するために酸素を要求するのだ。バクテリアは、魚の糞や枯死した植物、コケや藻、微生物の死骸、沈殿した有機物などを酸素の助けを借りて分解する。水槽にとって有害な亜硝酸塩やアンモニアなどの窒素化合物は、バクテリアによって比較的無害な硝酸塩へと酸化される。
水槽の中でも我々が暮らす地上と同じことが起こっている。森の木々が光合成によって人間や動物に酸素を与えているように、水槽内でも水草が魚や他の酸素消費者に酸素を与えているのである。
しかし、天然河川と人工的な生活環境である水槽とでは明らかな構造上の相違がある。熱帯地方の河川の平均的な酸素濃度は5~8mg/ℓである。そして、岸辺に植物が多い河川の場合は酸素濃度は上昇し、7~10mg/ℓとなる。しかし、稀な例ではあるが、マレーシア西部やボルネオのブラックウォーターを有する河川などでは、酸素濃度が2.5~3.5mg/ℓを示すことがある。また、漁が行われている河川で2mg/ℓという数値が報告されたこともある。多くの種類の魚は、この最低値とも言える酸素濃度で生存が可能であるようだ。
しかし、自然から得られたこのような特殊な酸素濃度のデータを水槽に導入すれば、悲劇的な結末を迎えることになる。天然の河川において絶えず流れてくる新しい水は、たとえ極端に酸素濃度が低くても、その性質は平衡が保たれ、十分に安定しているのである。
水槽と天然の河川では、水の平衡性という点で根本的に相違がある。飼育されている魚などの生物だけでなく、バクテリアも同様に高濃度で安定した酸素を必要とし、それによって有機あるいは無機の不要な物質を分解することができるのである。
「理想的な水槽」においては、午前中は5mg/ℓ、そして夕方に飽和の限界である8~10mg/ℓの酸素濃度が要求される。この酸素飽和状態に達しない水槽は、水中の有機負担が大き過ぎ、全体的に見て危険な状態であると言える。
次のページ→
「理想的な淡水水槽」目次へ
Dupla&HOBBY exclusiv ブログトップへ