Googleも参入したスマートグリッドに死角なし?

Smartgrid 〜スマートグリッドの可能性〜 そう遠くはない未来、われらの身近なインフラとして、社会をくまなく覆っていると予測されるシステムのひとつが、「スマートグリッド」。脱原発の切り札としても期待されているこのシステムとは、そもそも何なのだろうか。本当に夢のシステムなのか? 夢の裏側に潜む闇に目配せをしつつ、スマートグリッドの是非をいま改めて問う。
Googleも参入したスマートグリッドに死角なし?

ILLUSTRATION BY LEE WOODGATE

※6/29 本文掲載

2009年11月、鳩山由起夫首相(当時)とオバマ米大統領は首脳会談で、スマートグリッドの技術開発の共同研究に合意、日米の技術を国際標準にする目標が発表された。これを機にスマートグリッドは、近未来の理想の新エネルギー社会を象徴するキーワードとなった。

スマートグリッドは、風力発電などの自然エネルギーや、住宅の太陽光発電からの余剰電力なども既存の系統制御に取り込み、大型発電所の安定した電力供給と、気象条件に左右される再生可能エネルギーを補完し合い、電力を総合的に無駄なく使う考え方だ。もともとオバマ政権は、発足早々にスマートグリッド構築をグリーンニューディール政策の柱ととらえていた。アメリカでは不安定な電力供給による大規模停電の解消と、老朽化した送配電インフラの刷新が求められていたからだ。ちなみにカリフォルニア州で07年の1軒当たりの年間事故停電時間は128分(同年ニューヨークは3分、日本は08年で6分)。一方、日本は、鳩山前首相が09年の国連気候変動サミットで、日本の温室効果ガス排出削減の中期目標として、20年までに1990年比25%削減を目指すと公約。スマートグリッドはその目標実現の手段のひとつと考えられていた。さらに、今年3月の原発事故を契機に再生可能エネルギーへの関心が高まり、脱原発電力ネットワークの切り札として期待されているのはいうまでもない。

これまで電力は、電力会社の大型電源から利用者に一方向で送電されてきた。それに対し、スマートグリッドは、電力会社が管理する従来の系統系グリッドと、利用者のコミュニティグリッドで構成され、後者では利用者間の電力シェアも可能になると考えられている。利用者は通信機能を備えた高機能電力メーター(スマートメーター)を設置し、電力利用状況がリアルタイムで把握され、その過不足情報に応じて余剰電力(留守宅で未使用の太陽光発電など)を融通し合い、電力供給の最適化が図られる。運用にはIT技術が不可欠で、Googleは09年2月にスマートメーターと連携するソフトウェア「Google PowerMeter」を発表、グリーンニューディールの有力なプレイヤーとなった。データセンターの規模拡大で消費電力が増大する同社にとっても、低廉で安定した電力供給は切実な問題だ。また、オランダのGPS関連企業は、GPSで地域の気象情報から自然エネルギーの発電量を算出、発電条件の悪い地域や電力が不足している地区に、余剰電力を回すシステムを構築済みとされている。

これまでは、大量の電力を消費した者は、高額の利用料を支払えば自己責任で無駄遣いも許されてきた。スマートグリッドはこうした無軌道な電力消費を、エネルギー利用の下流で、IT技術で社会的に管理する方法ととらえることもできるだろう。英国フェビアン社会主義に近いとされるオバマ政権と親和性の高い社会システムと見る向きもある。ただし、電力ユートピアの背後には、スマートメーターから送られる個人情報はどう管理されるのか。また、これまでは電力会社が担ってきたセキュリティを誰が引き受けるのか、などの問題も潜んでいる。