マオ猫日記
「リヨン気まま倶楽部」編集日記
 




(写真)モナコ港

 報道によると、モナコ公国は7月28日、西洋クロマグロ(学名 Thunnus thynnus)が絶滅の危機に瀕しているとして、これを来年3月カタールで開催される締約国会議で同条約の附属書Ⅰに登載し、商業取引を全面禁止とする提案を関係国に送付。8月31日までにコメントするよう求めたそうです。

 1973年に署名されたワシントン条約は、正式名称を「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora、CITES)といい、日本も1980年に締約国(日本国内での条約番号は昭和55年条約第25号)になっていて、2008年現在で172ヶ国が加盟しています。ワシントン条約の附属書にはⅠ~Ⅲがあり、附属書Ⅰには絶滅のおそれのある種で取引により影響を受ける種が登載され、これらの種については、商業取引が禁止されます(動物園や大学などでの展示、研究といった学術目的での取引は可能。)。登載の決定には全加盟国の3分の2以上の賛成が必要ですが、大西洋クロマグロを登載するモナコ案については既にイギリス、フランス、オランダ、ドイツ、オーストリア等が規制を支持しているとされ、欧州連合(EU)としても共通の対応方針を決定すべく検討中と報じられています。また、アメリカも、モナコとは別に、大西洋クロマグロを規制対象に含めるかどうかを検討中だそうで、仮にEU27ヶ国とアメリカが歩調を揃えれば、規制推進派にとっては大きな力となりますが、他方でEU諸国はクロマグロ漁業が盛んな地中海諸国を含んでおり、27ヶ国で共通方針がすんなりまとまるかは不明です。

(写真)モナコから見た地中海

 モナコは、2005年7月にアルベール2世大公(Albert Alexandre Louis Pierre Grimaldi)が即位して以来、環境保護を国政の重要テーマの一つに位置付けており、2006年4月には「地球温暖化の影響を確認するため」として、犬ぞりを使って国家元首として初めて北極点を探検したほか、今年1月にはこんどは南極大陸を訪問。これまた国家元首として初めて南極点を探検しました(モナコはレーニエ3世前大公が作り上げた観光国家で、昼夜を問わず観光客が訪れ、夜はホテルやカジノが煌々と無駄な?あかりをともす中で、今更「環境保護」というのも違和感がありますが・・・)。2006年6月には「アルベール2世大公基金」(la Fondation Prince Albert II)を設立し、2008年からはクロマグロの問題にも取り組みを開始。公国内の飲食店に対してクロマグロ料理を出さないよう要請したほか、自然保護団体とも協力し、保護運動を展開しています。この問題について、モナコ国務省対外関係局(ちなみに、モナコ政府には「省」は国務省しかなく、国務大臣が事実上の首相職)は、「大西洋まぐろ類保存国際委員会(注:1969年設立の国際機関。略称ICCAT、本部マドリッド)の科学者たちは、地中海及び大西洋東部での総漁獲可能量(TAC。英:Total Allowable Catch、仏:Total Admissible des Captures)は8500トン~1万5000トンで、5月~7月の繁殖期には休漁すべきであるとしたのに、2008年11月、ICCAT加盟国は、2009年に2万2000トンの、2010年に1万9950トンの漁獲を認めており、しかも5月1日から6月20日までの漁獲が認められてしまっている。この段階に至っては、ワシントン条約によって介入するほかないことは明らかで、しかもそれは附属書Ⅱでは十分ではなく、残念ながら附属書Ⅰへの登載が必要な段階となっている。」としています。モナコの動きは既に欧米の通信社が7月下旬に報じていましたが、8月10日の井出道雄農林水産事務次官の記者会見でこの問題への言及があったため、日本国内でも大きく取り上げられました。

(写真)モナコ国務省

 水産庁の統計によれば、日本のクロマグロ消費量は、国内産が約2万500トン、輸入ものが約2万2600トンで(数値はいずれも年額)、大西洋・地中海クロマグロの漁獲約3万3000トンのうち約8割が日本向けとなっているそうです。輸入クロマグロの多くは、地中海で稚魚をとっていけすで育てる「畜養」マグロですが、モナコは稚魚の乱獲で資源が減少していると批判。とはいえ、ICCATは、輸出促進を図りたい地中海諸国の反対で、ICCAT科学委員会の提言量を超える漁獲(年2万トン程度)を決定しており、これが環境保護派の更なる反発を招いていました。規制が実施されれば、クロマグロの国内流通量が半減する可能性もあるだけに、農林水産省は、「クロマグロをはじめ、商業的漁獲の対象種となっている水産物の保存管理については、ICCATという、地域漁業管理機関の下で実施すべきだという基本的考え方で対応していきたい。」(井出事務次官)として、ワシントン条約附属書への登載に反対する姿勢です。ちなみに、仮にワシントン条約にクロマグロが登載されても、日本政府が国際法上の「留保」(国際法上、条約の特定の項目について、効果を除外する旨の宣言。)を付すれば日本については条約上の規制が及びませんが(実際に、ワシントン条約加盟時、日本は9項目について留保を付したほか、現在でも、クジラ7種類、その他4種類について「科学的根拠が無い」として留保を付けづつけています。)、大西洋クロマグロの場合、輸出国である地中海沿岸諸国が留保を付けてくれなければ、日本単独で留保を付けてもあまり意味はありません。

 科学的な調査の結果からすれば、クロマグロの漁獲規制強化(そしてそれに伴うマグロの値上がり)それ自体は不可避なのかもしれませんが、いきなりこれをワシントン条約の対象として全面禁輸とするのは、やはりやや唐突な印象を受けます(もっとも、クロマグロの価格は、バブル時代の平成元年に1キロ4626円になったあと下落し、現在では昭和56年当時と同程度の1キロ2500円前後で取引されていますが。)。モナコとしては、自国内にマグロ産業やマグロ消費者がいるわけでもなく、また地中海マグロの8割は日本向けなので全面禁輸をしても欧州人の食卓は影響を受けないという考えなのかもしれませんが、もう少し穏当かつ実務的な対処方法で、激変緩和措置を含めた対応が必要であるように思えます。

 ちなみにこのクロマグロ、日本語では「黒」マグロですが、英語では「bluefin tune」即ち「青ヒレマグロ」、そして仏語では「thon rouge」即ち「赤マグロ」と呼ばれています。同じ生き物なのに、これだけ極端に色が違うというのも不思議です。



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