五感すべてを刺激する、立体的な銀色夏生ワールド

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写真誌集とCDが1つになった銀色夏生の新作『偶然』(CDのみも発売)。あなたはもうこの世界に触れただろうか。視覚も聴覚も想像力も…五感すべてを刺激する立体的な銀色夏生ワールド。銀色自身による厳選された詩10編にメロディが付き、音楽になった光る言葉たちは、みずみずしく、現実的でもあり幻想的でもあり、時に鋭く真理を突いて奥深い。そこに鏤められた感情のカケラは、誰もが抱えているものであり、だから最初、物語の傍観者だった聴き手は、いつのまにか自分が主人公になっていることに気づく。そして、痛みや切なさの先で、希望にも似た一筋の光に出会うのだ。この不思議な感覚と感動。8月29日(月)には、本作を主軸にした新しいスタイルのライヴ<『偶然』を聴く会>が開催される。他では得られないこの不思議な感覚と感動をあなたもぜひ生で体感してほしい。

さて、ここでは今回“銀色プレゼンツ”として『偶然』のヴォーカルを務めたアーティストsevenspiritにインタヴュー。また、銀色夏生からもBARKSにスペシャルな原稿が寄せられたので、それも併せてお届けする。

取材・文●赤木まみ

――まず、銀色さんと初めて会った時の印象から訊かせてください。

sevenspirit:僕はそれまで銀色さんのことを詳しくは知らなかったんです。でも、お会いしたらすごくフレンドリーな方で。初めて会った方という気はしませんでした。

――銀色さんの人気著書「つれづれノート」には、銀色さんがsevenspiritさんと初めて会った時、思わず「死なないでね」と言った、と書いてありましたが。

sevenspirit:あ、言われました。「今はまだ、死なないでね。私の歌を歌うまでは」って。「死にません」と答えましたけど(笑)。

――知り合って間もない同士が……なかなかシュールな会話ですね(笑)。『偶然』の制作作業はどんなふうに進められていったんですか?

sevenspirit:基本的には、銀色さんが自分の詩にメロディをつけて、それをピアノの鼓緒太さんがアレンジして、アレンジしたものを僕が歌う、という……。

――銀色さんの作る楽曲は、既成のミュージシャンには思いつかないような自由な展開を時々したりしますけど、歌う上での苦労はありませんでした?

sevenspirit:銀色さんのメロディは本当に独創的なんです。聴いたことのないような曲なので、最初は驚きましたけど…、展開の仕方もそうですし、息継ぎするところがないんですよ。でも何度も歌っているうちに慣れてしまって、今はどこが変わっているのかわからなくなりました(笑)。

――では銀色さんと一緒に作業をしていく中で、学んだり刺激を受けたことは?

sevenspirit:それはたくさんあります。銀色さんの歌詞って、小さな世界を細かく観ているものが多いんですよね。『偶然』には入ってないんですが、例えば「アイスコーヒー」にしても“コップの縁の透明な湖”とか、小さな世界をすごく広げていて、“そういうところを見てるんだ?”と思ったり。あと、ストレートな言葉なのに、少しの言い回しの違いで、こんなにも人の心に響くものになるんだなとか。

――平易な言葉でハッとするほど鋭く真理を突いてたりね。

sevenspirit:はい。みんなが言いそうで言わないことをスッと言葉にしたりとか。それはやっぱりすごいし、自分にはこういうのは書けないなぁと思います。

――でも七変化するsevenspiritさんの歌声も、他の人には真似できない武器だと思いますよ。曲によって男性的にも女性的にも、またそのどちらでもないように聞こえる、カメレオン・ヴォイスというか。

sevenspirit:……昔はそういう自分の声がコンプレックスだったんです。僕は曲によって歌い方も声も変えてしまうから、特徴がないような気がしていて。でも最近はそれをいいふうに捉えてもらえるようになって、やっとプラスに考えられるようになりました。“自分はこれでいいんだ”って。

――今回『偶然』の中で、sevenspiritさん自身が特に気に入ってる曲、思い入れのある曲を挙げるとしたら?

sevenspirit:僕は「偶然」が一番好きなんです。最初、曲を渡された時に“なんて弱々しい主人公なんだろう”と思って、ささやくように歌ったら、銀色さんが気に入ってくださって、これをアルバム・タイトルにしたっていう経緯があるんです。だから思い入れもあるし、小さな世界で目の前の人に歌ってるような感じが僕自身、すごく気に入ってます。あと、「君のすべての明日」も、この主人公は哀しい人なんだなというのを最近改めて感じて。そういうのがわかってくると、ますます好きになるし、「僕は鈴をならす」も好きですし……結局、どれも全部好きなんですけど(笑)。

――どれも深い世界観がありますよね。深い世界観があって、そこに入り込むといろんな感情を刺激されて、聴き終えた後はしみじみと、心が浄化されたような気分になる。

sevenspirit:ほんとですか? よかったです。そう感じていただけたら本望です。

――で、8月29日には、この『偶然』を主軸にした新しいスタイルのライヴ<『偶然』を聴く会>も行なわれますね。

sevenspirit:はい。<『偶然』を聴く会>は7月にも2公演あったんですけど、これは普通のライヴとはちょっと違っていて、1曲ごとに銀色さんがいろんな話をして、その後で僕が歌うっていうのを繰り返していくスタイルになっています。

――やってみて、どうでした?

sevenspirit:最初は緊張しました。始まる前からお客さんがすごく緊張されていて、その緊張が自分にも移ってしまって(笑)。でも2、3曲目ぐらいからみんなの表情が和らいで、中にはホロホロ涙を流す方もいたりして。その辺から自分の緊張も解けたんですけど。この<『偶然』を聴く会>に来てくれるお客さんというのは僕を観たいわけじゃなくて銀色さんに会うのが目的だと思うので、僕のことを受け入れてくれるかな?っていう心配もありました。でも終わった後はみんな僕にも声をかけてくれて、しかも最初はあんなに緊張してたのに、帰る時にはみんな笑顔だったり幸せそうな顔になっていたので、よかったなと思いました。

――8月の<『偶然』を聴く会>もすごく楽しみです。

sevenspirit:僕も楽しみです。(会場である)きゅりあんはライヴハウスじゃなくてホールなので、客席も暗くなるし。だから周りを気にせず、みなさん一人一人の世界に入り込んで聴いてもらえたらと思います。苦しいことやつらいことを抱えている人は、そこで泣いても大丈夫ですよ。僕の歌が少しでも、そういう苦しみをやわらげる手助けになればと願っています。

   ◆   ◆   ◆

『「偶然」を聴く会』で必然を思う

最初冗談で子供たちのバンドを作ってユーチューブにアップしようと言いはじめてから、だんだん本当に歌を作ろうと思うようになり、2010年5月にHPで作曲家やボーカルを募集して、その年の12月から翌2月にかけてインディーズでCDを3枚作った。「銀色プレゼンツ」という名前で(その中の家族バンドとして「山元バンド」)。最初から目指していたことは、私の詩があり、それを生かすような音楽を作るということだった。普通は歌う人が主人公で、歌う人=主人公ということになるけど、私は作詞作曲者も歌う人も存在をひそめて、できるだけ歌だけがそこに存在するというような歌を作りたかった。唱歌や童謡のような立場といったらわかりやすいかもしれない。とにかく、聴いた人が主人公になれる歌。歌う人の個人生活やエゴが極力見えない歌。なので、それを歌う人が難しい。私がこの人はその資格があると認めた人じゃないと絶対に無理だと思った。心が純粋で、我欲のない歌声。もっと言うと、その人が人生でどういうことをしたいと思っているか、どういう人として存在したいかという目的のようなもの、その人の本質を私が認めている(嫌いではない)こと。そして、sevenspiritさんに出会った。セブンくん(と呼んでいる)は、初めてその歌声を聴いた時に、まるで私の詩集のような人だと思った。男の声も女の声も、男でも女でもない声も、その中間も出せると。私の詩も、男の詩や女の詩や子供の詩や人間でない詩がある。セブンくんの声で歌った歌を形に残したくて、途中、もうできないかもと思う時もあったけど、私からの贈り物として写真集にオマケでくっつけて出そうと考えつき、それが先月、実現したことは、本当にうれしいことだった。こういうふうに形にできたからこそ、それをライブで人に聴かせることができる。私が歌に込めている想いを、直接人々に聴いてもらうことができる。

私の想いを伝えるための手段として、歌とライブという新たな表現方法を得ることができました。今回のライブは、それぞれの曲の創作エピソードや最近私が考えていることなどを曲の間に織り交ぜながら、聴く人がそれぞれ自分のイメージの世界に入っていってもらえるような、静かで心安らぐものにしたいと思っています。当日、会場がどのような空気に包まれるか私もたのしみです。『「偶然」を聴く会』は、その日、その時、そこにいる人たちと私たちの歌が生み出す、生きている空間ですから。

この会を今後、機会があればいろいろなところでできたらいいなと思っています。自然にまかせ、ゆっくりと時間をかけて(私は10年20年のスパンでいつもものごとを考えています)。そして、いつ、どこに行っても、そのたびにそこで新たな必然を感じるのではないかと思います。

銀色夏生

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写真詩集「偶然」(CDつき限定版)
2011年7月9日発売
¥2,100(税込)
幻冬舎
オールカラー128ページ
A5変型版ハードカバー

CD『偶然』
2011年7月20日発売
¥1,890(税込)

<『偶然』を聴く会>
8月29日(月)きゅりあん小ホール(東京都品川区 大井町駅)
開場18:00/開演18:30
出演:銀色夏生、vocal. sevenspirit、piano. 鼓緒太
ゲスト:k-k
予定曲目:「夕空」を含むアルバム『偶然』の10曲
「そして僕は途方に暮れる」「それからの君は」「僕が守る」
全席指定 ¥4,000
※当日会場で、銀色夏生&sevenspiritサイン入りの、写真集とCD『偶然』を販売。
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